「買い手企業の経営者」が、コロナ禍でもM&Aに積極的なワケ

新型コロナウイルス感染拡大による企業業績や経営への影響が注目されるなか、M&A仲介大手のストライクは6月、経営者を対象にアンケートを実施しました。この調査で、「買い手企業の経営者は、コロナ禍でもM&Aに積極的」ということが判明しました。一体なぜなのでしょうか。今回は、株式会社ストライク執行役員広報部長の日高広太郎氏が、その理由を解説します。

売り手と買い手の意識に「大きなかい離」が見られた

新型コロナウイルスの感染拡大のM&Aや事業承継に対する意識に、売り手と買い手で大きなかい離があることが、M&A仲介大手のストライクが6月に実施したアンケート調査でわかった。コロナ禍でも、買い手は自らのM&Aへのマイナスの影響は小さいと考えているが、売り手は大きいと感じている。地方自治体の自粛要請などを受けた経済停滞の悪影響を、売り手企業がもろに受けた格好だ。

 

経済停滞の悪影響をもろに受けた売り手企業は、M&Aへのマイナスの影響を強く感じている
経済停滞の悪影響をもろに受けた売り手企業は、マイナスの影響を強く感じている

 

一方で、買い手は売り手に比べて事業規模が大きく、財務基盤が強いことが多いため、コロナ禍でも、積極的にM&Aを進めるとした企業が目立った。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「日銀の資金供給策などで資金調達環境が改善しており、買い手のリスク許容度は高くなっている」とみている。

 

コロナ禍による企業業績や経営への影響が注目されるなか、ストライクは6月3日~5日、インターネットを通じてアンケート調査を実施した。経営者が対象で、有効回答数は311人だった。

買い手5割は「マイナス影響なし」と回答、売り手は?

調査によると、買い手企業が、コロナ禍によるM&Aへの「マイナスの影響はない」(52%)「プラスの影響がある」(14%)と回答した比率は、合わせて7割近くにのぼった。「マイナスの影響がある」との答えは33%にとどまった。しかし、売り手企業では「マイナスの影響がある」と回答した企業は全体の58%に達した。「影響はない」とした企業は25%、「プラスの影響がある」は16%にすぎなかった。

 

なぜ買い手企業の経営者の多くが、コロナ禍でもM&Aに積極的なのだろうか。

 

「影響はない」とした買い手企業の経営者の72%が「コロナ禍が経営にそれほど影響がなかったため」と回答した。18%は「コロナ禍は経営に影響しているが、M&Aは必要と考えているため」と答えた。

 

買い手企業の多くは、体力のある大企業とみられる。企業買収を中期的な経営戦略の一環ととらえて、逆風下でも積極的に推進しているようだ。

 

[図表1]コロナ禍によるM&Aや事業承継への影響がない理由
出典:株式会社ストライクが作成し、編集部にて再作成

 

第一生命経済研究所の熊野氏は「買い手企業はコロナ禍による資金調達環境の改善について、規模のメリットや事業の拡大のチャンスととらえている」とみている。製造業などは最終需要地が米国や中国などで、将来的な需要回復が見込めるためだ。

 

売り手企業が「マイナスの影響がある」と答えた理由としては、52%が「売り上げが減少し、将来に不安を感じた」とした。19%は「売り上げが減少し、事業を継続できなくなった」としている。

 

いずれも、コロナ禍による業績の悪化が、M&Aに悪影響を及ぼした背景になっている。「オンライン化などのビジネス環境の変化により将来不安を感じた」との回答も9%に達した。

すべての買い手企業が「M&Aを再検討する」と回答

コロナ禍でも買い手企業はM&Aに積極的だ。すべての買い手企業が、計画を延期しても「M&Aを再検討する」と回答した。

 

[図表2]コロナ禍で取りやめたM&Aや事業承継の中期的な検討状況 出典:株式会社ストライクが作成し、編集部にて再作成

 

再検討する時期も87%以上が「半年以内」とした。「3ヵ月以内に再検討する」とした買い手企業は5割に達しており、迅速に業容を拡大したい方針が垣間見える。

 

一方で計画が延期になった場合、「M&Aを再検討する」と答えた売り手企業は66%にとどまった。「半年以内に再検討する」と答えたのは2割、「3ヵ月以内」としたのは6%に過ぎなかった。「再検討するのは1年以上経過してから」と回答した売り手企業は33%にのぼった。

 

コロナ禍でも買い手企業がM&Aに積極的なのには理由がありそうだ。ボストン コンサルティング グループの2019年の試算によると、景気後退期のM&Aでは、買収から1年後の買収側企業の株主総利回りは、好況期のM&Aに比べると約7%高く、さらに2年後にはその差は9%以上に拡大していたという。

 

同社は理由について「経済状況が厳しいときの方が、買い手はより高いポテンシャルを備えたターゲットを巧みに見きわめていることを示している」と分析している。

 

もちろん景気後退下では売り手企業の価値が下がり、買収費用が安く済む面もある。だが同社によると、景気後退期のM&Aを通じて大きな価値を生み出す買収側企業は、収益性が低く、財務状況が健全な企業を厳選しているという。自社より収益性が低い企業を選び、運営を効率的にすることにより収益性を高め、結果的にM&Aに成功しているようだ。

 

 

 

日高 広太郎

株式会社ストライク 執行役員 広報部長

株式会社ストライク 執行役員 広報部長 

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京社会部に配属される。ドラッグストアなど小売店担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた動きや企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月にストライクに入社し、広報部長を務める。2019年より執行役員広報部長。

著者紹介

連載ストライクによるM&A最新情報

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧