病気を未然に防ぐ「栄養学」と「食品機能学」に加え、老化についても最前線の研究成果を紹介する。知らず知らずのうちにストレスをため込んでいませんか。健康的な生活を送るために役立つ「食事の知恵」や「医学の意外な常識」を明らかにします。本連載は東海大学農学部バイオサイエンス学科の永井竜児教授の『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)から一部を抜粋し、読んで効く「読むくすり」をお届けします。

がんは食生活が左右する生活習慣病か?

そのくらい長い時間かけてヒトのカラダはやっと変化するのですから、戦前・戦後に糖尿病患者がいなかったのに、わずか75年で糖尿病とその予備群が2050万人に増えたことは、遺伝子の変化のみではまったく説明がつきません。がんについても一緒で、1960年以降になぜ胃がん患者が減ったかというと環境要因です。がんは生活習慣病でもあるのです。

 

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは母親と祖母が乳がんだったので、乳がんになりやすい遺伝子と診断されたことから、未然に防ぐため乳房切除をしたのは有名な話です。たしかに、がんの発症に遺伝子は明らかに関与していますが、それだけでがんになるわけではありません。

 

ちなみに、胃がんは激減した一方、別のがんが増えています。日本人のタンパク質源は、高度成長期以前は大豆発酵食の味噌や納豆が主でしたが、いまはそれより肉の摂取が増えてきました。それに昔は、食品における総カロリーに対するお米は日本がダントツ。

 

1960年当時の日本人は、1日の総カロリーの48.3%をお米から摂取していました。それが食の西洋化によって、50年後の2010年になると、総カロリーのうちお米が占める割合は23.6%と、4分の1以下にまで減少しています。減ったカロリー分が肉の摂取に置き換わったことによって、胃がんの発症率は下がったのですが、乳がんや男性の前立腺がん、大腸がんが増えています。和食中心の食生活から肉や乳製品の摂取が増えたことと無関係ではありません。

 

戦後、ひとりは日本に、残りひとりはハワイに移住した日本人の一卵性双生児の人たちを、追跡調査したデータがあります。そのうち、ハワイに移住した人は、胃がんの発症率は下がったのですが、乳がんと前立腺がんの発症率は増えているというデータがありました。

 

日本とハワイの食文化の違いによってがんの発症率は明らかに変わっているのです。

次ページ生活習慣の中に隠された太るワナ
間違いだらけの栄養学

間違いだらけの栄養学

永井 竜児

辰巳出版

病気を未然に防ぐための栄養学と食品の機能に加え、老化についての最前線の研究成果をもとにしながら、日々の健康的な生活に役立つ食事の知恵や、栄養学と医学の意外な常識を明らかにする。 本書に書かれている健康づくりの…

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