病気を未然に防ぐ「栄養学」と「食品機能学」に加え、老化についても最前線の研究成果を紹介する。知らず知らずのうちにストレスをため込んでいませんか。健康的な生活を送るために役立つ「食事の知恵」や「医学の意外な常識」を明らかにします。本連載は東海大学農学部バイオサイエンス学科の永井竜児教授の『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)から一部を抜粋し、読んで効く「読むくすり」をお届けします。

冷蔵庫が胃がんの発症率を下げた?

また、がんもじつは生活習慣病のリストの1つに入っています。たとえば喫煙は、好きな人にとってはやめられない生活習慣ですが、明らかに肺がんの発症率は高くなります。

 

食べ物の嗜好(しこう)によっても、がんの発症率は明らかに変動します。日本では昔、胃がんの発症率が世界トップでした。それが1960年ごろから、急激に減っていきました。

 

なぜかおわかりでしょうか?

 

正解は……冷蔵庫が普及したからです。

 

昔は冷やす技術や道具がなかったので、食べ物を保存するために、何でもかんでも“塩漬け”にしていました。とくに日本は塩漬けの食品を好み、塩分摂取過多な国民です。塩分は胃がんとの関連性が指摘されています。

 

冷蔵庫の普及が胃がん発症率を下げた?
冷蔵庫の普及が胃がん発症率を下げた?

 

ところが冷蔵庫の普及によって、塩を使わずに新鮮な肉や魚を保存することが可能になりました。塩分を増やさずにタンパク質の摂取が増え、新鮮な野菜の摂取も増えました。それで胃がんの発症率が下がったのです。

 

ということは、がんの発症率は遺伝子の要因だけでは説明がつかず、食生活、生活様式によって変わることが、データによりわかり始めています。

 

遺伝子が変わるには、何十万年という時間が必要です。余談ですが、ネアンデルタール人は 30 万年前にたくさんいましたが、15~20万年前にホモサピエンスが急激に増えて最終的にネアンデルタール人が絶滅しました。

 

じつはネアンデルタール、ホモサピエンス以外にもいろんな人種がいました。ハリーポッターに出てくるホビットという小さい人はたんなる神話ではなく、本当にそういう人種がいたことが、化石発掘から明らかになっています。ホモサピエンスが20万年前くらいに勢力を増やしたことで、それから少しずつヒトの遺伝子も変わってきました。

次ページがんは食生活が左右する生活習慣病なのか?
間違いだらけの栄養学

間違いだらけの栄養学

永井 竜児

辰巳出版

病気を未然に防ぐための栄養学と食品の機能に加え、老化についての最前線の研究成果をもとにしながら、日々の健康的な生活に役立つ食事の知恵や、栄養学と医学の意外な常識を明らかにする。 本書に書かれている健康づくりの…

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