糖尿病関連医療費1兆2000億円は半減できる
血中の糖濃度が高い状態がつづくと、ナメクジと同じように脱水症状が起き、水分がどんどん出ていってしまう。かつ、血中の糖分が筋肉に入れば、筋肉を動かすエネルギーになりますが、インスリン不足でその働きが衰えると、筋肉に糖分が入らないのでガス欠状態になってしまい疲れていきます。
つまり、糖尿病では、脱水による熱中症の様な状態に加え、ガス欠による強い疲労感が引き起こされます。高血糖の状態を放置するのは非常によくない理由はここにもあります。
インスリンをつくれないカラダの状態はかなり危険です。そのときは食事だけではなかなか治らないので、注射で外からインスリンを補って、自分のβ細胞の負担を減らしてあげます。インスリンを外から注入することによって自分のインスリン分泌の能力を休ませてあげ、その治療がうまくいくと、またβ細胞の疲労が取れて、またインスリンを分泌してくれるようになります。
この段階で、すい臓の機能は完全に失っているわけではなく、まだ回復できる見込みがあります。どんな病気にも、これ以上病状が進むと健康体には引き返せない〝ポイント・オブ・ノーリターン〟があります。患者全体の95%を占める2型糖尿病は食習慣、運動習慣を改善すれば予防できる糖尿病です。
つまり、食習慣や運動習慣を教育することによって、啓発活動がうまくいけば、予備群含めて2050万人の糖尿病患者を減らせる可能性があります。しかし、病態が進行して、ポイント・オブ・ノーリターンを超えると、元には戻れません。
糖尿病関係の国の医療費がいま、1兆2000億円といわれています。啓発活動がもしうまくいけば、1兆2000億円の95%の中から、多くを減らせる可能性があります。完全ではなくても、半減はできると僕は思います。いかに啓発活動が大事かおわかりいただけるでしょう。
しかし、残念ながら、国の体制はじゅうぶんに整っていません。乳がん予防のピンクリボン運動と同様に、世界糖尿病デーがあり、11月14日は日本を含む世界各所の建物が青にライトアップされますが、日本人全体の周知にはまだまだといった状況です。
永井竜児
東海大学農学部教授