年間約130万人が亡くなる日本社会。故人の遺産をめぐり、親族間で醜い争いになるケースが多発しています。相続が発生してから「家族と絶縁する羽目になった…」「税金をごっそり取られた…」と後悔してしまわないためにも、トラブル事例を見ていきましょう。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説していきます。
父が暮らした家を守り、受け継ぎたいが…
●小規模宅地等の特例が適用できるか?
O野さんの父親は老人ホームに入所していましたが、いつでも自宅に帰れるよう、これまで生活していた状態を維持し続けていました。ただし、老人ホームの契約段階で終身利用権を取得することになっており、住民票もそちらに移していました。
今回の相続にあたっては、父が暮らしていた自宅に「小規模宅地等の特例」が適用されるか否かによって税額が大きく変わります。相続税の申告を担当する税理士と協議を重ねた結果、小規模宅地等の特例の申請は可能で、納税なしにできるとの結論に至りました。
●現実的な判断から「自宅の売却」へと方向転換
弟との話し合いも問題なく、当初の予定通り、父親の自宅を相続することになったO野さんでしたが、改めて自分の生活を見直してみると、そもそも現在の賃貸マンションは、勤務先と子どもたちの通学に便利な場所として選んだものであり、実家に生活拠点を移すことは、あまり現実的ではないのではないかと考えるようになりました。また、いくら父親が大切にしていた実家とはいえ、実家と賃貸マンションの2つの住居を維持するのは負担が大きく、やはり自分の手には余ると思うに至りました。
そこで筆者は、実家を空家のまま維持するより、売却して現金に変えることを提案しました。今後の生活設計が変化する可能性もあるため、動かせない不動産で維持するより、動産にしたほうが利用価値があると判断したからです。
そこで、申告前から売却の準備をスタートさせたところ、最寄り駅から徒歩圏、閑静な住宅街の角地という条件のよさもあり、売却はスムーズに進み、問題なく完了しました。
相続実務士の視点
親が大切に維持管理し、かつては自分も暮らした実家に愛着を感じるのは当然のことです。しかし不動産の場合、「家族で過ごした思い出深い家だから」「先祖代々守ってきた土地だから」などと、気持ちを優先して保有を決めるのはお勧めできません。活用のめどが立たない不動産は、固定資産税や維持管理費が負担になります。それが原因となって大切な財産が目減りすることにもなりかねません。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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