赤字中小企業「もはや打つ手なし」となる前に…
事業不振に陥っている企業が経営を立て直すためには、抜本的な変革が必要です。企業はもともと努力し続けなければ赤字決算に陥るようにできています。人件費や家賃など毎月の出費は決まっていますが、売上は確定されていないためです。会社が存続する限り、出費ゼロはあり得ませんが売上ゼロは特に珍しいことではありません。
加えて金融機関や従業員など、多くの関係者は企業の出費が膨らむことを好みます。金融機関はより多くのお金を貸したがりますし、従業員はより多く給与を得たいと考えています。そのため、経営者が意識的にダウンサイジングを心がけなければ、企業の財務状況はすぐに膨れて赤字決算に陥ってしまうのです。
経営がうまくいかなくなった事業を再建するにはトップが代わるしかありません。トップの考え方や実行力が変わらなければ、「経営の変革」をうたっても結局は同じ路線を進むことになります。そのため、大企業では経営が傾いてくると有能な人材を登用したり、外から招聘(しょうへい)したりすることでトップをすげ替えますが、後継者難の現代の中小企業が同様の対策をとることはほとんど不可能です。
長く事業を営んでいると負債が重なる一方で、かつては利用していた土地が遊休地になってしまうケースがあります。以下にそんな事例を紹介します。
40年以上にわたって造園業を営んできたAさんは経営状態の良い時期に土地を買い増して、植木の置き場所にしていました。ところがその後、庭造りに力を入れる人が減っていくにつれて、売上は徐々に下降していきます。
金融機関から運転資金などの融資を受け、負債の総額が3億円にまで膨らむ一方、売上の減少により植木の在庫は減らさざるを得ない状況に。経営不振へと陥る中、かつて買い増した土地は使い道のない遊休地と化していました。
負債が3億円にのぼると、その返済だけで月々435万円(元本360万円+金利75万円)のマイナスになります。毎月それ以上の粗利がないとキャッシュフローを回せないという状況は、構造的な経営不振に苦しむ造園業者にとって非常に厳しいものです。
息子は承継を拒否。孫にも言いづらい…どうする?
Aさんの息子は先行きの不透明な造園業を嫌って継ぐことを拒否しており、アルバイト気分で手伝いにきている孫にも「後を継いでくれ」とは言いにくいのがAさんの大きな悩みでした。悩んだ末、Aさんは遊休地を売却して負債を返済することに決めました。今後の使い道がない土地だったので賢明な判断です。
ところが、実現に際して大きな問題が発生しました。取引銀行が遊休地に設定していた抵当権を外すことに難色を示したのです。「売却して負債を返済するので抵当権を外してほしい」とAさんが求めても、銀行側は簡単には承諾しません。
そんな中、知人を介してAさんから相談を受けた私はその遊休地に相場より高い2億6000万円の買値をつけました。宅地として開発すれば回収できると考えたためです。
Aさんも合意してくれたので後は売却契約を結ぶだけですが、私も抵当権がついている不動産を買うことはできません。もし購入後にAさんが銀行への返済を滞らせてしまうと、私の保有地であるにもかかわらず銀行によって競売にかけられる危険性があるためです。
そこでAさんと話し合って決めたのは、「抵当権が外れない場合には違約金なしで売買契約を無効にする」という特約でした。通常の契約では、売買契約を結んだ後に売主・買主のどちらかが契約を破棄する場合には違約金が発生すると定められています。売却価格の2割程度が一般的で、Aさんのケースでは5200万円にもなります。
経営不振に苦しむAさんにとって、不動産が売れない上に高額の支払いを抱えるリスクはとうてい受け入れられるものではありません。しかしながら、売却に踏み切れなければ3億円の借金に押しつぶされて遠からず経営破綻することになります。「違約金を無効にする」という抵当権に関する特約があれば、このジレンマが解消できるのです。
結局、銀行との話し合いは交渉に慣れている私が請け負い、抵当権の抹消に成功しました。当初の見積もり通り2億6000万円での購入となったのでAさんはその代金で負債の大半を返済し、事業を立て直すことに成功しました。
2億6000万円を返済できれば、3億円もあったAさんの負債は4000万円にまで激減します。435万円だった毎月の返済も100万円(元本83万円・金利17万円)に圧縮され、さらには月額20万円ほどかかっていた遊休地の固定資産税もなくなるため、キャッシュフローが格段に回しやすくなりました。
売却の数年後、仕事を手伝っていた孫がAさんの後を継ぎました。負債の多くを返済して事業をうまくダウンサイジングしたことで健全経営が可能と判断し、承継させたのです。Aさんは現在、ときおり孫の相談に乗る他は悠々自適の日々を過ごしています。
日本の中小企業が後継者難に陥る「三つの理由」
業績に問題のある企業でも、後継者がいれば経営者はとりあえずバトンを渡して引退することができます。ところが、中小企業の多くは深刻な後継者難を抱えており、廃業する企業の6割が後継者難を理由にあげているほどです。背景には主に三つの理由があります。
一つは少子化により後継者の候補となる子供が減っていることです。中小企業の場合には相続税制度との関係もあり、多くの場合、直系の子供や孫が後継者の候補となります。そのため、少子化による子供や孫の減少がそのまま後継者不足に直結しているのです。
二つ目にあげられるのは社会的な意識の変化に伴う「家業を継ぐのが当然」という価値観を持った子供の減少、三つ目が「不振の事業を継がせたくない」と感じる経営者の増加です。
健全経営であればまだしも、負債が膨らんでキャッシュフローに影響が出始めているような状態では、最初から苦労を引き継がせるようなものです。かわいい子供や孫がたとえ後を継ぎたいと希望したとしても、経営者自身が「継がせる気はない」と拒絶するケースが増えているのです。
しかし、事業承継を控えた経営者が思い切って不動産売却をして、負債が減りキャッシュフローが改善されれば、後継者にとっては格段に事業を継ぎやすくなります。