新型コロナウイルス感染拡大で医療現場はひっ迫し、医療崩壊ともいわれるなど、現場の医師や看護師、そして病院に注目が集まった。全国に緊急事態宣言が出された大混乱のさなか、ある医師から一本の電話がヘッドハンターにかかってきた。「どうやら資金ショートの噂が広がり、来年の春まで持たない。紹介できる病院はないか」と。もはや病院といえども安心の職場ではなくなった。ヘッドハンターが医師の転職の舞台裏を明かす。

医師の転職でも「内定取り消し」がある

昨年の初夏、弊社のクライアントである九州地方のX病院が総合病院化を図るための人材スカウトを私どもに依頼してきました。ここは先進設備を備える、地元ではかなり有名な病院です。

 

そこで私は、関西地方ある公立の総合病院で救急科に勤務するM先生にアプローチをかけました。先生は40代前半。国立大の医学部を出てから、この病院で中心的な存在として活躍されていました。私がX病院の関係者にM先生を引き合わせると、最初の接触から感触もよく、最先端の設備を目の当たりにしたM先生本人も「行きたい」と非常に前向きでした。しかし、病院が遠隔地ということもあり、奥様や家族が反対され、残念ながら辞退になりました。

 

ただ、病院側も熱心で、その後もラブコールを送り続け、私も陰ながらフォローを続けていました。そうこうしているうちに、去年の秋口、M先生は先輩医師から関西地方のZ市民病院に「来ないか」との誘いを受け、面談した結果、内定が出たそうです。「さあ、新天地でがんばろう」と決意していたところに今回のコロナ騒ぎ。転職先の病院が赤字経営だったこともあり、その内定は取り消しになったそうです。

 

一般企業でもそうですが、今年に入ってからの医療機関の内定取り消しは少なくないようです。そのためではないでしょうが、いまドクターの転職マインドは冷え込んでいますが、動きがないわけではありません。幸い、弊社のクライアント病院には地方の優良な公立病院や民間病院が多く、経営状態も順調なことから、常に優秀な医師を求めています。実際、この緊急事態宣言に伴う外出自粛期間中でも数十人の先生と何らかの方法で連絡を取り合っている状況です。

 

そんな1人が、中部地方にある公立病院の小児科のK先生です。きわめて優秀な方で、コロナ問題では県の感染対策室長を務めたほどの先生です。私は関西地方のY総合病院を紹介しました。この病院は、広大な敷地に新病棟を建設中で、新体制を担える医師を望んでいたのです。昨年中に両者の顔合わせも終え、そこに移ることがほぼ固まり、後は「条件面でのツメをしましょう」ということだけでした。

 

当時のK先生の年収は残業・当直代込みで約2200万円。このうち数百万円を超過勤務の残業代で稼いでいました。先生には3人のお子さんがいて、ある特定の時期に教育関連の出費が集中することが見込まれていたのです。Y総合病院は年収2000万円を提示する腹積もりでしたが、残業や当直はありません。

 

そこで私は、差額分を支度金として出してもらうよう提案するつもりで、事務長と総務部長をK先生のところにお連れし、教育費の必要性を話してもらうことにしました。コロナ感染が取りざたされ始めていて、2月の予定を6月に変更したのですが、先生の「300万円あればいい」という控え目な要望には病院側も好感を持ったようです。次は8月にK先生と院長たちと最終的な契約を交わす予定になっています。

 

おそらく、こうした医師の転職の動きはしばらく続くと思います。この新型コロナの外出自粛期間に連絡を取り合った先生たちに関して気づいたことがあります。世の中の自粛ムードのなか、オンラインでの面談が多くなると予想していたのですが、前向きな先生ほど面と向かっての話し合いになったということです。それは新型コロナウイルスに関して専門的な知識を持ち合わせていること以上に、転職を人生の好機として積極的にとらえ、ライフステージを上げようという意欲が強いことも挙げられるのではないでしょうか。

(取材・構成=岡村繁雄 ジャーナリスト)

 

武元 康明

半蔵門パートナーズ 社長

 

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