贈与となってしまう「年金保険」とは?
筆者は相続税申告を専門としている税理士であり、生前から将来の相続対策の相談を受ける機会が数多くあります。
相続対策として「生命保険の活用」は定番的な方法ですので、相談に来るような方は、すでに何かしらの保険をかけられていることがほとんどです。しかし、なかには保険会社にすすめられるがまま多くの保険を契約し、自身でもその課税関係をよく理解されていないということがあります。事例をまじえて、見ていきましょう。
Aさんは、自身の財産の精査と相続税の負担がどの程度になるのかの相談に来た方でした。Aさんは不動産や預貯金以外にも、複数の保険会社から10以上の保険契約をしていましたが、すでに自身でも契約内容についてはっきり把握できていない様子です。筆者が保険証券などをお預りして契約内容を精査したところ、気になる契約が見つかりました。
個人年金保険
・ 契約者(保険料負担者) Aさん
・ 年金受取人 Bさん(Aさんの長女)
・ 支給開始年齢 Aさんが80歳となったとき
・ 年金額 年200万円(10年間)
この契約の問題点は、「保険料負担者」と「年金受取人」が異なるところです。年金はAさんが80歳になった年から10年間、子供であるBさんに年200万円の年金が支払われることになります。実際に贈与契約があったわけではないのですが、実質的に贈与と同じ経済効果が生じるため、AさんからBさんへ贈与があったものとみなされるのです。
贈与税のかかる年金保険…驚きの税額は?
では、この場合の贈与税はいくらになるのでしょうか。10年間にわたって年200万円の贈与があったことになるのか、1年で年金総額2,000万円相当の贈与があったことになるのかにより、贈与税の負担は大きく異なります。
(200万円-110万円)×10%×10年=90万円
・ 単年で2,000万円の場合
(2,000万円-110万円)×45%-265万円=585.5万円
※ 200万円を10年で受け取る場合の評価額は2,000万円より少なくなりますが、簡便的に2,000万円として計算しています
答えは後者です。Aさんが80歳になった時点でBさんが総額2,000万円の年金をもらえることが確定するため、単年で2,000万円を受け取る権利をもらったとみなして贈与税を計算することになります。
Aさんにこのことをお伝えしたところ、高額な贈与税が生じることに大変驚かれました。幸いAさんは79歳だったため、受取人をAさん本人に変更することによって、ぎりぎりのタイミングで贈与税の課税を避けることができました。