「在宅看取り」を理想としつつも、在宅療養の場合は被介護者の容体が急変した際に対応できず、長く生きられないのではないかと考えて断念する人が多くいます。しかし「家に帰る」という選択肢には、病院のような徹底的に療養できる万全な医療環境にも勝る意外な効果があるのです。※本連載は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

外来通院に引けを取らない「ハイテク在宅医療」の実態

次に、これから在宅医療を検討したいというご家族に向けて、在宅医療の基本的な情報を紹介しておきましょう。詳細は地域によっても異なると思いますが、おおまかなイメージをつかんでいただけたらと思います。

 

親御さんの介護を始めたばかりの方では、在宅医療という言葉は聞いたことがあるけれどよく知らない、わからない、という人も多いかもしれません。

 

在宅医療とは、簡単にいえば、高齢や病気によって通院がむずかしくなった患者さんの家に医師が来てくれる、というものです。昔の時代のドラマなどで、医師が黒鞄をもって患者の家を往診するシーンがありますが、かたちとしてはそれに似ています。

 

往診というのは、患者さんやご家族に呼ばれて医師が訪問することですが、それに対して在宅医療は、高齢者や患者さんの状態に応じて医師が定期的に訪問する「訪問診療」が中心になります。

 

状態が安定している人であれば、2週間に1回などのペースで医師が患者さん宅を訪れ、必要な診療や対応を行います。訪問診療のほかに、本人やご家族の要望を受けて往診を行うこともあります。私のクリニックで実際に在宅医療を利用しているのは、おもに次のような方々です。

 

●心臓、腎臓、呼吸器などの慢性疾患を抱える人

●脳卒中の後遺症が残り、日常生活の介護が必要な人

●関節症などで足腰が弱くなり、通院がむずかしくなった人

●がんの治療をしていて、自宅で療養生活を送りたい人

●パーキンソン病などの神経難病がある人

●脊髄損傷、脳性麻痺などの障害がある人

●飲食物を飲み込む力が弱くなり、誤嚥性肺炎を繰り返す人

 

利用されている方の年齢は、がんや障害をもつ人では若い年代の方もいますが、中心となるのは70代後半から80代です。なかには90代の方や、100歳を超える方もいらっしゃいます。

 

在宅で受けられる医療も、最近は外来に通院した場合に比べて、引けをとらない内容になっています。

 

医師による診察をはじめ、血液検査、尿検査、心電図などの各種検査もできますし、薬の処方、注射、点滴といった治療・管理も行います。また胃ろうや気管カニューレを装着している人では、それらの管理も在宅のままで対応ができます。

 

さらに在宅酸素療法、在宅人工呼吸管理、在宅中心静脈栄養などのいわゆる“ハイテク在宅医療”と呼ばれるものも、私のクリニックをはじめ、対応できる在宅療養診療所は増えています。

 

私のクリニックの場合はグループ内に外来や病棟をもっていますので、CTなどの精密な検査や専門的な治療が必要と判断したときは、そちらと連携して対応することもあります。

 

在宅医療が病院の医療と違ういちばんのポイントは、医師が患者さんの生活の中に直接入っていく、というところです。患者さんの家を訪れると、通常の外来診療ではあまり知ることのできない、その人の住宅環境や生活状況、家族関係などがよくわかります。そこで医師は患者さんの生活全体を把握しながら、きめ細かい治療・療養の方針を考えることができます。

 

また自宅であれば、本人やご家族もくつろいで過ごされていますから、医療者と本人、ご家族でより“腹を割った”話し合いができます。

 

これからどんな医療を受けたいか・受けたくないか、自宅での暮らしで重視したいものは何か。そうした高齢者やご家族の希望をくみながら、生活を支えていくのが在宅医療といえます。

 

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

 

大切な親を家で看取るラクゆる介護

大切な親を家で看取るラクゆる介護

井上 雅樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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