「病院介護という地獄」おむつ、睡眠剤、夜には絶叫が…

要介護の高齢者を支える家族にとって、家よりも病院のほうがサポート体制が整っており、安心できる場所と思い込みがちです。しかし、実は高齢者にとって病院こそストレスがたまる空間であり、入院生活で療養に徹するうちにいっそう調子が悪くなってしまうこともあるのです。※本連載は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

高齢者にとって病院は「ストレス空間」

筆者は、高齢者を介護する環境は、できるだけ住み慣れた自宅など、生活の場であるほうがいいと考えています。なぜなら、高齢者にとっては、病院自体がストレス空間だからです。

 

病院というのは専門的な治療を施して「病気を治す」場所です。病院へ行けばさまざまな治療が行われますが、手術や投薬といった治療そのものが、高齢者の体には負担になることがあります。

 

多くの高齢者は複数の慢性疾患を抱えており、体の生理機能も低下しています。そのため治療をしても若い人より回復に時間がかかりますし、予想しなかった合併症などが現れることもあり、一度入院すると入院期間が長くなりがちです。

 

65歳以下の人の平均入院期間は18.9日なのに対し、75歳以上の人では47.5日と、2ヵ月弱におよんでいます(厚生労働省「患者調査」平成26年)。

 

そして長い入院の間、病院では「効率よく治療し、早期の回復を図る」ために、患者さんはさまざまな制限を課されます。これは、そもそも病院の目的が患者さんの「“生活”ではなく“命”を守る」ことだからです。

 

たとえば病院では、高齢の入院患者が動き回って転倒するのを防ぐため、おむつをつけられ、診察やリハビリの時間以外はベッドで安静にしているように指示されます。食事は寝てばかりで食欲がないにもかかわらず、決まった時間に出されたものを食べるようにいわれます。塩分やカロリーの制限がある人は、家族の差し入れで好きなものを食べることもできず、ましてタバコや酒など、もってのほかという感じです。

 

早々と夕食を済ませた後は、ベッド横のテレビを観るくらいしかすることはありませんが、それも消灯時間になれば消されてしまいます。

 

消灯後にも同じ病室の人のうなり声が聞こえてきたり、看護師が歩き回る気配を感じたりしてなかなか熟睡できず、睡眠剤をもらってやっと眠りにつきます。そして少しうとうとしたと思ったら、すぐに看護師が朝のバイタルチェックをしにきたり、診察や検査に連れて行かれたりします。

住み慣れた家でこそ「穏やかな療養生活」が可能

日本人の規制(ルール)があるとそれに従う、という律儀な性格が病院での不自由さに拍車をかけている面もあるでしょう。そんな不自由極まりない日々が1ヵ月も2ヵ月も続くわけですから、いくら体の衰えた高齢者だって相当ストレスを感じているはずです。

 

その結果、治療したところは多少改善したとしても、認知機能や気力・体力が落ちてしまい、急激に自立度が下がってしまうことも少なくないのです。

 

家族からすると「病院にいれば、何かあればすぐに医師や看護師が診てくれるのだから安心」と思うかもしれませんが、それが高齢者にとっては逆効果になることもあるということです。

 

「入院してかえって悪くなった」とならないためには、高齢期には無用な入院治療を避け、できるだけ在宅で療養することを検討してほしいと思います。

 

一日でも早くもとの生活に戻れるようにするためには、入院期間を少しでも短くし、多少不調があっても退院して家で生活するくらいの気持ちが大切です。

 

仮に病院で治療を受けたときも、ある程度病状が安定したら、家に戻してあげるのがいいでしょう。いくつもの慢性疾患を抱える人でも、住み慣れた家ならばはるかにストレスなく、穏やかに療養生活を送ることができます。間違っても完全に治るまで退院しない、などと考えてはいけません。

 

療養のためとはいえ、様々な制限がかかる入院生活はストレスフル
療養のためとはいえ、様々な制限がかかる入院生活はストレスフル

在宅は無理…と考える人が検討すべき「介護保険制度」

要介護になった高齢者が家に戻るというときに、いちばんのネックになるのが「そもそも自宅で生活や介護ができるのか」という疑問でしょう。残念なことに実際、お医者さんの中にも在宅医療を信用していない人もいます。

 

また、もともと親御さんが一人暮らしをしていた場合、ご家族は「一人で歩けないのに、もとの家で生活するなんて無理だろう」と思うかもしれません。

 

親子で同居していた場合や、これを機に同居を考えようかという場合でも、家族は日中、仕事などで皆が出払っていて家にいて介護をする人がだれもいない、というケースは多々あります。そこでご家族は「うちの場合は、家での介護はむずかしい」と考えてしまいます。

 

しかしいまは介護保険制度がありますから、昼間に介護をする人がいないというだけであきらめる必要はありません。一定の手続きをして介護保険サービスを活用すれば、多くの場合、在宅医療・在宅療養をすることができます。

 

多少の地域差はありますが、山間地や離島などの医療機関までの距離がかなり離れているような地域を除けば、高齢者が一人暮らしでも、ご家族が昼間に家にいなくても、在宅医療を始められます。

在宅医療は「ゆるくラクに介護する」ための選択肢

よく、病院にいたほうが周りに人がいて孤独でないと考えるご家族もいらっしゃいます。しかし、一概に独居であることが孤独とは限りません。想像してみてください。たとえ独り暮らしでも毎日のように近所の方が話し相手をしに来てくれる生活と、多くの人がいる病院のベッドの上で、服薬や給仕のときにだけスタッフと事務的な会話をする生活、はたしてどちらが孤独なのでしょうか。

 

また、「よくわからないけれど、在宅での介護はたいへんそう」と抵抗を感じる人も多いかもしれませんが、これはやり方次第です。

 

在宅医療を始めると医師や看護師、薬剤師、ホームヘルパーなどが高齢者のいる自宅まで来てくれるわけですから、入院中の見舞いや、体の不自由になった高齢者を連れて通院する手間がなくなり、むしろラクになったとおっしゃるご家族は少なくありません。

 

ご家族による介護も、前にも述べたように、病院で医師や看護師がするようなことを家でする必要はありません。

 

高齢者本人が過ごしやすく、介護をする人にも負担の少ない「ゆるい介護」ができるのが、在宅の良さでもあるのです。もっと気軽に、在宅医療をスタートしてほしいと思います。

 

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

 

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

1972年、東京大学に入学後、医学を志し1976年に名古屋大学に再入学。1982年、名古屋大学医学部卒業。袋井市民病院、中津川市民病院に勤務ののち、市立四日市病院、臨港病院等で消化器科部長を歴任。1996年に井上内科クリニックを開院、同時に在宅医療をスタート。

2001年からは地域に根ざした医療・介護の担い手として「デイサービスセンターほほえみ(現・デイケアほほえみ)」の運営に着手し、2020年現在、同グループは訪問看護ステーション、住宅型有料老人ホーム等14事業所を手がける。

クリニックおよびグループ全体で「『その人らしく』を最後まで」を理念に、患者と家族の在宅生活・在宅介護のサポートを続けており、在宅での看取り実績は累計1,000人以上。

著者紹介

連載介護離職、家庭不和…子ども世代を不幸にする「頑張る介護」への警鐘

大切な親を家で看取るラクゆる介護

大切な親を家で看取るラクゆる介護

井上 雅樹

幻冬舎メディアコンサルティング

介護保険制度が始まって20年近くが経ち、「在宅医療・介護」「在宅看取り」という言葉は以前より知られるようになっています。 しかし実際は、高齢者の希望をくんで在宅介護を始めたものの、家族のほうが疲弊してしまい、在…

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