まるで子ども!共同ビル経営のキホンは「仲良く」?
売却しようとする不動産が、例えば共同ビルのように複数の個人・法人が共同で所有する不動産という場合もあるでしょう。共同ビルというくらいですから、いくつかの土地を一体的に開発し、建設したビルです。土地や建物の規模も確保されていて、それなりに整った形のビルになっているはずです。共同ビルの性格上、その敷地に適用される容積率は100%使い切っているでしょうから、その場所で期待できる不動産の価値を100%顕在化しているともいえそうです。つまり、十分に価値の見込める不動産です。
ところが、そうした共同ビルとしての強みを十分に発揮させずに売却するしかなかったという例があります。共同ビルの所有者同士が、仲たがいしてしまったからです。
共同ビルですから、ビル建設時にはむしろ仲が良かったと考えられます。そうでなければ、互いに協力して共同ビルを建設しようという構想は生まれなかったはずです。しかも、その構想が実現したということは、それだけ結束力が強かったということでもあります。しかし、それだけの間柄が時の流れのなかで失われてしまったのです。
その遠因は、相続です。この共同ビルには3人の所有者がいます。いずれも、ビルオーナーとしては二代目です。一緒になって苦労して共同ビルを建設した初代オーナーの3人は確かに仲が良かったようですが、代替わりしてしまうと、その間柄はがらりと変わります。初代オーナー3人のような結び付きのある人間関係ではなくなってしまいます。
そうした信頼関係の薄れたドライな人間関係だったにもかかわらず、ビルの管理業務は第三者である管理会社に委託することなく、自分たちでこなしていました。しかしこれが、仲たがいをもたらす災いの元になったのです。
水増しされた電気代…もしかして、「着服」?
問題になったのは、テナントから徴収する電気代です。共同ビルオーナーの一人が、他の一人に対して、電気代を長年着服してきたのではないか、と疑いの目を向けたのです。
この共同ビルではテナントごとの電気使用量を示すメーターを設置していないので、電気代としてはビル全体に対して請求される金額しか分かりません。一方で、テナントにはその金額を基にテナント間で案分した金額で請求・徴収していたようですが、電力会社に支払う金額とテナントから徴収した金額との間には差額が生じていて、それをビルオーナーの一人が着服してきた、という主張です。その額、およそ800万円といいます。
この共同ビルでは、ビルオーナー3人のうちの一人がある事情から売却の意向を明らかにしていました。区分所有と呼ばれる分譲マンションと同じような権利形態のビルであれば、自らの持ち分を売却したいオーナーは比較的自由にそれを売却処分できます。ところが、この共同ビルのように共有という権利形態のビルでは、オーナー3人の持ち分がセットになっているので、そのうちの誰かが自らの持ち分を売却処分するには、ほかの2人の同意が必要になります。この共同ビルでも、売却したいと言い出したオーナーは、ほかの2人の同意を得なければなりません。
実は、売却の意向を明らかにしていたオーナーこそ、電気代の着服を疑われていたオーナーなのです。着服を疑っていたオーナーの一人はそのため、着服金額と見ていた約800万円を支払うことを同意の条件として主張しました。私はそこに、買い手として関わりを持つようになり、最終的に話をまとめることができたというわけです。
「仲たがい」が生んだ残念な末路…彼らはその後。
結論からいえば、電気代着服を疑ったオーナーと疑われたオーナー、2人の関係を修復することは、残念ながらできませんでした。したがって、オーナー3人が共有する通常の共同ビルとしての売買には至らず、その売買契約はオーナー一人ひとりとの個別契約という形態を取りました。しかも、オーナー3人がばらばらに売却するという事情から、売買に必要な測量は買い手が負担し、通常は売り手に一定期間義務付けられる瑕疵担保責任を問わないという契約内容です。
この瑕疵担保責任とは、売買した不動産に瑕疵と呼ばれる不具合が見つかった場合、売り手が費用負担した上でそれを修復する責務を負う、または売り手がそれによる損害を賠償する責務を負う、というものです。こうした条件下での契約になったため、売買金額はその分安く抑えられています。オーナー間で足並みをそろえて売却できなかったため、売り手にとっては安く手放さざるを得なくなってしまったわけです。
代替わりすれば、このような仲たがいが考えられなくもありません。それそのものは半ば、仕方ないといえます。むしろ、そうなったときのことを想定し、やるべきことをやっておくべきでした。一つは、電気使用量を示すメーターをテナントごとに設置することです。そうしておけば、各テナントへの電気代の請求・徴収は透明化が図られます。各テナントから徴収する電気代と共同ビル全体として電力会社に支払う電気代が明確な根拠を持つものであれば、その差額を着服したという疑いも起こり得なかったはずです。
もう一つは、第三者であるビル管理会社に管理を委託することです。確かに初代オーナー時代には互いの信頼関係も厚かったでしょうし、共同ビルの計画から建設までを一緒に進めてきた間柄ですから、その後の管理まで自前でやろうという考え方は理解できます。しかし、代替わりした以上、その関係性は大きく変わっているので、ここで紹介したようなトラブルの発生を抑えるためにも第三者の目を入れるべきでした。この例の場合には、管理業務を管理会社に委託する費用を惜しんでしまったようです。
目先の利にとらわれると、先々、損をするということがあります。この例でいえば、目先の利にとらわれ、テナントごとに電気使用量を示すメーターを設置する費用や管理会社への委託費用を惜しんでしまった。そして、そのビルを売却しようという時点で売却価格を抑えられてしまうという損な結果を招いた、ということです。共同で所有する不動産では、第三者の目を入れて常に客観性を保ち、足並みを乱さないようにすることが大事です。
宮﨑 泰彦
株式会社北極星コーポレーション代表取締役