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原則、従業員への休業手当は支払わなければならない
緊急事態宣言下でも、新型インフルエンザ等対策特別措置法24条9項に基づいて、感染拡大防止の協力要請を受けて閉鎖・縮小した場合、事業者は、従業員に給与を支払わなくてはならないのでしょうか。
感染拡大防止のために「自粛」した場合のみならず、この場合にも、原則として(「不可抗力による休業」がありうることは次に譲ります)、事業者は、労働基準法26条に基づいて、休業手当として平均賃金の60%を支払わなければばなりません。
店舗が事実上閉鎖し、店舗家賃の負担も免れない中で、従業員への給与支払いが重い負担となっている事業者も少なくないと思います。
一方、給与を受け取れず生活や家族を抱える従業員の生活への影響も深刻です。
雇用調整助成金の拡大や、持続化給付金も…
このような事業者に、従業員の休業手当を補完するものとして給付する「雇用調整助成金」が、5月1日から大幅に拡大されました。(厚生労働省:雇用調整助成金 新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
1. 都道府県知事からの休業等の要請を受けた場合は、一定の要件のもとで、休業手当全体の助成率を100%にする
2. 要請を受けていなくても、休業手当について60%を超えて支給する場合には、その部分に係る助成率を100%にする
ただし、未だに日額上限が8330円であることから、5月11日現在、政府が、諸外国に合わせ、日額上限を15000円程度まで引き上げることを検討しているとの報道がされています。
近年の「賃金センサス」(全国の賃金平均)では、男性の年収平均が550万円程度、女性が370万円程度とされていますから、ようやく実態に見合う見直しが行われようとしています。全国民に10万円を支給するより前に、こちらを充実させるべきではなかったのか、と思わざるを得ません。
なお、ご存じのとおり、このような事業者のために、東京都は「感染拡大防止協力金」として50万円(2事業所100万円)を
①「基本的に休止を要請する施設」に属し、休止を要請されている施設
のみならず
②「施設の種別によっては休業を要請する施設」に属し、休止を要請されている施設
③「社会生活を維持するうえで必要な施設」の内、「食事提供施設」に属し、営業時間短縮の協力を要請されている施設
に支給しています。(東京都防災ホームページ:東京都緊急事態措置に関する情報施設一覧)
また、経済産業省からは、月の売上が50%以上減少した事業者に向け、100~200万円の「持続化給付金」の支給もしています。インターネットでの申請が可能です。(持続化給付金特別サイト:インターネット申請画面)
「不可抗力による休業」の場合は手当不要だが…
不可抗力による休業の場合には、使用者の事情によるものとは異なりますから、休業手当の支払義務はないとされます。
では、今回の緊急事態宣言下での事態は「不可抗力」なのでしょうか。
「不可抗力」といえるのには、
①「その原因が事業の外部から発生した事故であること」、かつ
②「事業者が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお、避けることができない事故であること」
上記が必要とされ、この場合には休業手当の支払い義務はないとされてきました。
これについて、厚生労働省のHP内にある「事業者向けの「新型コロナウィルスに関するQ&A」で、こう書いています。
「①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合のように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。」
東京都の場合、特措法に基づく協力要請のレベルを、前述のとおり、
①「基本的に休止を要請する施設」(バー・スナック、ジム、1000㎡以上の塾など)
②「施設の種別によっては休業を要請する施設」(学校など)
③「社会生活を維持するうえで必要な施設」の内、「食事提供施設」に属し、営業時間短縮の協力を要請する施設(飲食店など)
これらに分けていますが、実は、このいずれも、特措法上24条9項の「休業要請」のバリエーションに過ぎません。
「今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合」とは、全面休業のバー・スナック、事務などはおろか、飲食店等、営業時間短縮の要請を受けた場合一般が該当することになりそうです。
そうすると、結果として、多くの事業者が②の要件(休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしているか)があれば、休業手当は支払わなくてもよいという結論を是認することになってしまいそうです。
厚労省はそのウェブサイトの記載について何度か批判を受けながらも、本日現在その記載を改めていませんが、休業手当なき休業は、これまで頑張ってきてくれた従業員の生活の保障のため、避けていただきたいと思います。
4月からすでに2か月に及ぼうとしている自粛期間のうちに、事業者様も次第に体力を失いつつあるのが現状です。感染防止協力金も、持続化給付金も、併せても150~300万円程度にとどまりますから、従業員の給与を補填するには到底足りないところがほとんどかと思います。
今回の自粛要請期間が明け、いずれ飲食店、ジムなどのスポーツ施設にも人が戻れば、頼れるスタッフがいなければ事業が立ちゆきません。大切な従業員を守るため、従業員に休業手当なき休業を強いることは、多くの事業者様が避けたいところであろうと思います。
給与を絶たれた従業員側が受けられる補償
やむ無く、給与を絶たれた生活者に向けては、1人一律の10万円の給付(特別定額給付金)のほかにも、子育て世帯への子ども1人あたり1万円の臨時特別給付金、3〜9か月の家賃補助を行う住宅確保給付金、国民健康保険料や納税・公共料金の支払い猶予の制度があります。
また、全国の社会福祉協議会が単身で65万円、2人以上の世帯で90万円までの緊急小口資金、総合支援資金の貸し付けも行っています(内閣府:新型コロナウイルス感染症に伴う各種支援のご案内)。
リストラ解雇は容易にはできないので注意
休業の要請があってなお、事業者向け、従業員向け、いずれも、単身の方はおろか、ご家族がある方には特に、政府からの補償では到底足りないというのが実情かと思います。
今回のことを受けて事業者側が、従業員を「整理解雇」(リストラ)するのには、さらに高度な配慮が必要ですので、決して安易に判断されず、必ず専門家の判断を仰いでください。
経営環境の悪化を理由とする人員の解雇は、
①人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
②配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
③整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
④労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと
上記のいずれの要件をも備えることを必要とし、これがないと解雇権濫用となります(労働契約法16条)。
有期雇用の従業員を雇い止めることについても、更新されることに合理的期待がある契約については、申込みを拒絶することに客観的、合理的な理由がなく、社会通念上相当といえない場合には雇い止めは認められず、正社員の場合と同様の配慮が必要です(同19条)。
このようにみてきますと、緊急事態宣言下で営業の縮小、停止を余儀なくされた事業者様にとって、家賃と賃金の負担は極めて重く、従業員に全額の給与(あるいは6割までの休業手当)を支給継続できるよう、迅速に雇用調整助成金を支給し、かつ、事業所家賃について国が保証する仕組みなどを整えることのほうが重要であったように思われてなりません。
1人10万円一律の特別定額給付金や、マスクの支給が先行してしまったのは、非常に残念なことです。