不倫は民法的な不法行為、刑事的な違法ではない
ここ日本では、不倫(配偶者のある人と知りながら交際関係になること)は、あるべき婚姻関係の安定を脅かすものとして、民法上の不法行為になります。ただし、当然ながら、刑事的に処罰の対象になるわけではありません。民事的には「違法」でも、刑法上の違法性を伴うものではありません。
刑事的に違法な(処罰される)行為は民事的にも違法な行為となり、損害賠償の対象となりえますが、その逆は必ずしもそうはならないのです。不倫は、そのひとつの例といえます。
では、不倫があるべき婚姻関係の安定という価値に対して「違法」だとして、別に処罰される行為わけではないのに、そのことはただちに、役員を辞任すべき理由になるのでしょうか。
雇用関係の場合、不倫が原因で懲戒になるか
不倫のご相談で「会社をクビになる(あるいは何等かの処分を受ける)かも……」と心配される方は多いです。
しかしながら、実際、社内恋愛があったりして、会社の中がぎくしゃくするときは、多くの会社は、一方、または他方を人事異動(部署異動)して事態を鎮静化させていることが多く、「懲戒」として減給、休職となったり、はたまた解雇となる事例には、ほとんど出合いません。
実際には、不倫があったという理由だけで従業員を懲戒解雇とすることは、それだけでは「解雇権濫用」と評価され、解雇無効となる可能性が高いと考えられます。裁判例でも、昭和41年の東京高裁の裁判例で、バス運転手と女性車掌の不倫関係について懲戒解雇処分を相当としたものがあるほかは、以後は、不倫(あるいは社内不倫)自体は「会社の信頼を失墜させた」とか「職場の風紀・秩序を乱した」といえる具体的な事情がないことを理由として、懲戒解雇は重すぎて無効としたものがほとんどです(旭川地裁平成元年12月27日判決、大阪地裁平成28年5月17日判決等)。
もっとも、学校における教え子との恋愛であるとかの具体的に職場の風紀と密接に関連するものや、セクハラであるといった、それ自体刑法上の違法性も伴うものについては、懲戒解雇相当と判断されるものがあります。