本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

新型コロナウイルス感染拡大で生産・前月比▲3.7%と2ヵ月連続低下に

 

4~6月期鉱工業生産指数・前期比は2四半期ぶりマイナスの可能性大

 

3月分景気動向指数:先行CI・一致CIとも前月差下降に、基調判断は「悪化」継続を予測

 

 

(鉱工業生産)

 

●鉱工業生産指数・3月分速報値・前月比は▲3.7%と2ヵ月連続の低下になった。15年を100とした季節調整値の水準は95.8と、13年1月分(94.8)以来の指数水準である。部品供給の問題などで新型コロナウイルス感染症拡大の影響が出ている。停止となっている工場もある。四半期ベースでは、19年10~12月期の98.0から、20年1~3月期は98.4と前期比+0.4%上昇した。ただし、20年1月分、2月分が低水準だった19年10~12月期を上回っていた影響が大きく、足下の3月分で生産は大きく低下した。折角の緩やかな持ち直しの流れが、突然の新型コロナウイルスの逆流により押し戻されたかたちだ。

 

●3月分鉱工業生産指数では、自動車工業、生産用機械工業、無機・有機化学工業等13業種が前月比低下した。上昇業種は輸送機械工業(除.自動車工業)、パルプ・紙・紙加工品工業の2業種のみだった。

 

●経済産業省は基調判断を19年8月分・9月分の「総じてみれば、生産はこのところ弱含み」から、10月分で15年8月分以来の「総じてみれば、生産は弱含み」に下方修正し、11月分・12月分でも判断を据え置いていたが、20年1月分では「総じてみれば、生産は一進一退ながら弱含んでいる」と上方修正した。2月分も判断は据え置きだった。しかし、今回の3月分で「総じてみれば、生産は低下している」と下方修正した。

 

●3月分製造工業予測指数・前月比は▲5.3%の低下であった。また、過去のパターン等で修正した経済産業省の機械的な補正値である先行き試算値では、3月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲3.1%の低下見込みであった。90%の確率に収まる範囲は▲4.1%~▲2.1%になっていた。鉱工業生産指数の前月比▲3.7%は下限に近い伸び率である。

 

●3月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲5.0%と4ヵ月ぶりの低下となった。減少率は14年4月分の▲6.0%以来の大幅下落である。前年同月比は▲5.7%で6ヵ月連続の減少となった。

 

●3月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+1.9%と2ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は+2.9%と17ヵ月連続の上昇となった。

 

●3月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+8.5%で3ヵ月ぶりの上昇となった。指数水準は122.1で2015年基準で最高水準である。

 

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期以降、45度線を上回って推移し、おおむね「在庫積み上がり局面」が続いていた。19年4~6月期は出荷の前年同期比が▲2.7%、在庫が同+3.0%、19年7~9月期では出荷の前年同期比が▲0.1%、在庫が同+0.9%、19年10~12月期では出荷の前年同期比が▲0.1%、在庫が同+0.9%であった。20年1~3月期は出荷の前年同月比が▲4.9%、在庫が同+2.9%と、19年10~12月期に続いて「在庫調整局面」の状態にある。急激な需要増加が見込めない状況下で、当面生産は弱含み傾向にならざるを得ないであろう。

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると4月分は前月比+1.4%の上昇、5月分は前月比▲1.4%の低下の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、4月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.3%の低下になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲2.3%~▲0.4%になっている。

 

●ただ製造工業予測指数の数字に関しては経済産業省もHPで、「4月上旬に実施した調査結果の集計であるため、4月上旬以降の新型コロナウイルス感染症をめぐる情勢変化は十分には織り込まれていないことから、4月も低下の可能性は高いと考えられます」と述べているように、4月分に関しては下振れが懸念される。

 

●先行きの鉱工業生産指数を、4月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.3%)、5月分を製造工業予測指数前月比(▲1.4%)、6月分を前月比横ばいで延長すると、4~6月期の前期比は▲4.7%の低下になる。また、4月分・5月分を製造工業予測指数前月比(+1.4%、▲1.4%)、6月分を前月比横ばいで延長すると、4~6月期の前期比は▲2.3%の低下になる。4~6月期の鉱工業生産指数は新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻になってきているだけに、1~3月期の前期比上昇から一転して前期比大幅低下になったとしてもおかしくないだろう。

 

(3月分景気動向指数:先行CI・一致CIとも前月差大幅下降に、一致CIによる基調判断は「悪化」継続か)

 

●3月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲4.7程度と2ヵ月ぶりの下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、新設住宅着工床面積、マネーストックの2系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●3月分の一致CIは前月差▲3.7程度と2ヵ月連続下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の全系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、5月分・6月分・7月分と「下げ止まり」の判断だったが、8月分で「悪化」に下方修正された。9月分・10月分・11月分・12月分・1月分・2月分に続き、3月分も「悪化」継続になると予測する。

 

●3月分の先行DIは22.2%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、新設住宅着工床面積、マネーストックの2系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列がマイナス符号になると予測した。

 

●3月分の一致DIは14.3%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、鉱工業生産財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の2系列が保合いに、生産指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の5系列がマイナス符号になると予測した。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年3月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

2020年4月30日

 

宅森 昭吉

株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 

 

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