何かと張り合う長女と次女…出産を機に関係に変化
「お姉ちゃんたち、何であんなに張り合うのか、わたしにはわからないんですけど」
そう話すC子さんは、三姉妹の三女。7歳上の姉A子と、6歳上の姉B子がいます。年子で、何かと比較されやすい環境だったことも影響しているのでしょうか? C子さんが物心ついたときには、2人の姉は何かと張り合っていました。
「学校の成績はもちろん、ふたりとも習っていたピアノや、水泳……彼ができるような年になったら、彼氏自慢がすごかったの、覚えていますね。お互いマウントを取り合う、という感じで」
末っ子で年の離れたC子さんは、2人の姉のマウント争いに巻き込まれることはありませんでした。しかし、次第に姉から悪口を聞かされることが多くなったそうです。
「A子はB子の、B子はA子の悪口をわたしにいってくるんですよね。悪口っていってもくだらないことで、『A子の彼氏はいけてない』とか『B子の化粧は最近ケバい』とか……直接いうと喧嘩になるから、なぜかわたしにいってくるんです」
少々辟易するが、平穏が保たれるのなら、とC子さんはただ聞いているのだとか。そんな姉妹の関係に、10年ほど前から変化が生じました。きっかけは、2人の姉の結婚。最初に結婚をしたのはA子。その2年後にB子が結婚、その後、3人の子どもが誕生しました。一方、A子はなかなか子宝に恵まれなかったのです。
「不妊治療とか、がんばっていたみたいなんですが、うまくいかなかったみたいです。わたしも3年前に結婚して、先日、長男が生まれたんですが……妊娠がわかってから、A子とは疎遠になっています」
子宝に恵まれなかったA子は、家族と距離をおくようになったといいます。そんな家族にもうひと騒動、巻き起こります。父が病に倒れたのです。
家族の前で遺産の分割法を語る父だったが…
健康診断にひっかかった父は、精密検査を受けました。その結果、進行がんが見つかったのです。医師の話では、どうなるか、五分五分とのこと。
「まあ、いつか人は死ぬからな。後ろ向きになっても仕方がないから、治療はがんばるよ」
家族の心配はよそに、父は楽観的な素振り。おそらく、家族に心配をかけまいとする、父の優しさなのでしょう。そんな父からひとつ、提案がありました。
「万が一のことを考えて、遺言書を残そうと思うんだ。そこで、遺産の分け方について、家族みんなのいる前で話しておきたい」
父は、どんなに仲の良い家族でも、遺産争いになると聞いたことがあるから、いまからしっかりと備えておきたい、というのです。それもまた、家族を思う父の優しさなのでしょう。
A子「いいわよ。きちんと家族と話しておきましょう」
父「ありがとう。わたしの遺産といえるのは、自宅と預貯金くらいだ。自宅は、お母さんにこのまま住んでほしいと思っているから、お母さんに相続しようと思う」
B子「それでいいと思うわ」
父「お母さんが受取人の保険があるから、わたしに万が一のことがあっても暮らしていけると思う。だから預貯金は、お前たちにと思っている」
C子「もしものときは、わたしたちもいるから」
父「預貯金は、A子に1,000万円、B子に4,000万円、C子に2,000万円と考えている。お前たちに1,000万円ずつ、孫たちにも1,000万円ずつ、という考えだ」
A子「ごめん、ちょっと待って。それだと、わたしは子どもがいないから、あまりもらえないということよね」
父「遺された家族、それぞれに遺してあげたいんだ」
A子「わたしだって、子どもがほしかったわよ。なのに、こんなところで差をつけなくても」
父「……」
B子「そんなに、深く考えることじゃないじゃない。お父さんはただ、遺された家族に均等に財産を残したいといっているだけじゃない」
A子「何よ、あなたはたくさんもらえるから、いいけど、わたしは子どもがいないからという理由で、あなたの4分の1なのよ!」
B子「子どもができなかった、あなたがが悪いんじゃない! こちらは子どもがいて大変なのよ! あんたたちは夫婦2人で、生活も楽でしょ!」
C子「ちょっとお姉ちゃん、そんな言い方、ないわよ」
シーンとする病室。下を向き悔しそうに涙を流すA子の姿がありました。
不公平感が相続トラブルを招く
相続トラブルの原因にはいくつかのパターンがありますが、そのひとつが不公平感。事例でも、明らかに遺産の分け方に差がつき、揉める原因になりました。
遺言書の不公平な内容から揉めるケースもありますし、生前贈与が絡む場合もあります。相続人が2人いて、一方は生前贈与を受けていて、もう一方は受けていない場合、遺産を等分にとなっても、不公平感からトラブルに発展するのです。また一方には秘密にしておいた生前贈与が、のちに発覚してトラブルに発展するケースもあります。
タイミングは様々ですが、その一つが税務調査。税務調査官は忖度してくれません。サラリと生前贈与について聞いてきます。
相続税の税務調査は、相続税申告の約8件に1件の割合で行われ、一度、税務調査が行われると、82%の人が追徴課税になっています。税務調査で追徴課税になった場合には、本来の税金にプラスして、5%~40%の罰金がつきます。さらに年利2.7%の利息もかかります。
相続税の税務調査は、亡くなってから2年後の夏に行われることが多く、具体的にいうと、7月の上旬に、税務調査の依頼の電話がきます。大抵の場合「相続人全員と税理士先生に、1日予定をあけてほしいのですが、来週あたりどうですか?」という無茶ぶりをされます。当事者全員の予定を一日合わせるのは大変です。日程調整をしていくと、なんだかんだと、7月の下旬や8月の頭に調査が開始されるケースが多いです。
調査官はこちらの事情など考慮せず、質問してきます。生前贈与についても、内緒にしたい相手がいるなんてお構いなしに「いついつ、誰誰に贈与をしていますね」と聞いてきます。該当するなら、気をつけるべきポイントです。
【動画/筆者が「税務調査の肝」を分かりやすく解説】
橘慶太
円満相続税理士法人