帝国データバンクでは「2020年度の業績見通しに関する企業の意識調査」を実施しました。結果は「減収減益(見込み)」が前回調査比22.6ポイント増の44.4%と倍増し、厳しい状況がうかがえます。「アベノミクス」の評価についても聞いていますが、初めて60点を下回っています。同調査を考察します。

2020年度業績は厳しい見方をする企業が急増している

帝国データバンクではこのほど、特別企画として「2020年度の業績見通しに関する企業の意識調査」を実施し、その結果を公表しました。

 

この調査は、定期的に行っている「TDB景気動向調査(2020年3月調査)」とともに行ったもので、調査期間は3月17日~31日、調査対象は全国2万3,676社、有効回答企業数は1万 1,330社(回答率47.9%)です。

 

2020年度「減収減益(見込み)」と回答した企業は倍増した。
2020年度「減収減益(見込み)」と回答した企業は倍増した。

 

まず、2020年度(2020年4月決算~2021年3月決算)の業績見通し(売上高および経常利益)についてたずねたところ、「増収増益(見込み含む)」と回答した企業は13.5%となり、前回調査(2019年3月)の2019年度見通しから11.3ポイント減少しました。

 

一方、「減収減益(見込み)」は同22.6ポイント増の44.4%と倍増し、リーマン・ショック直後の2009年度見通し以来、11年ぶりに4割を超えました。

 

また、東日本大震災があった2011年度見通し以来、9年ぶりに「減収減益」が「増収増益」を上回ったほか、「減収」(「減収減益」「減収増益」「減収だが利益は前年度並み」の合計)を見込む企業は55.8%で前回調査より23.5ポイント増加するなど、2020年度の業績は厳しい見方をする企業が急増しています。

 

他方、2019年度実績見込みも「増収増益」が23.0%、「減収減益」が33.7%となり、前回調査の2018年度実績見込みより大幅に悪化しています。

 

【出典】帝国データバンク
【出典】帝国データバンク

 

2020 年度の業績見通しを業界別にみると、『卸売』(60.2%)、『小売』(60.0%)は6割以上で減収を見込んでいます。10業界中8業界で5割を上回るなど、幅広い業界が厳しく見ている様子がうかがえます。

業績の良し悪しは新型コロナウイルスの収束時期しだい

続いて、2020年度の業績見通しを上振れさせる材料をたずねたところ、新型コロナウイルスなどの「感染症の収束」が43.3%でトップでした。また、新型コロナウイルスにより外出自粛が続くなか、「個人消費の回復」(34.8%)が続き、前回調査(2019年3月)より7.8ポイント増加しました。次いで、「公共事業の増加」(19.0%)、「中国経済の成長」(17.8%)、財政・金融政策や成長戦略、規制緩和などの「経済政策の拡大」(16.8%)、「人手不足の緩和」(15.2%)が続いています。

 

【出典】帝国データバンク
【出典】帝国データバンク

 

企業からは、「新型コロナウイルスの収束時期によって、全項目について大きく変化する」といった意見が多く、「景気浮揚策として政府が公共事業にどれだけ力を入れるかで業績がかなり変わる」や「5GやAIなどを代表とした新しいテクノロジーの普及が期待される」のような期待の声も聞かれたとのことです。

 

一方、2020年度の業績見通しを下振れさせる材料でも、「感染症の拡大」が62.0%で最も高く、「個人消費の一段の低迷」(40.7%)とともに、上振れ材料と同様の項目が上位となりました。次いで、「中国経済の悪化」(35.2%)、「米国経済の悪化」(28.6%)、「所得の減少」(25.7%)、「東京五輪・パラリンピックの延期・中止」(25.2%)、さらに、訪日外国人の減少にともなう「インバウンド需要の縮小」(19.8%)が続きました。

アベノミクスの効果を実感できていない中小企業は多い

最後に、安倍政権による経済政策「アベノミクス」について、現在までのアベノミクスの成果を100点満点で評価した場合、何点と評価するかたずねています。

 

結果は、前回調査(2019年3月)より2.4ポイント評価を下げ、平均59.4点となりました。この設問を開始した2015年以降で、初めて60点を下回っています。

 

【出典】帝国データバンク
【出典】帝国データバンク

 

企業からは、「海外景気の状況や災害など、さまざまな要因もあったが、アベノミクスが始まってから受注、経営状況が大幅に好転し、社員の給料、ボーナスを大幅に増額することができた」や「今回の新型コロナウイルス騒動がなければ雇用も円相場も安定し、株価も高めに推移していた」、「雇用条件は改善し、観光客の増加にともない、飲食店、ホテルの新築、改修工事が続いている」といった声があったようです。

 

一方で、「金融緩和による株高・円安の維持により一定の景気への効果はあったと思うが、その後の手立てがなく国民全体の購買・消費意欲が高まるようにはなっていない」など、個人消費回復まで実感していない企業もあったようです。

 

アベノミクスに対する規模別の評価は、『大企業』(61.7 点)は60点台を維持したものの、『中小企業』(58.8 点)と『小規模企業』(58.3 点)はやや低位となりました。「もっと中小企業が強みを活かせるような、販路開拓、技術向上等の幅広い支援を実施してもらいたい」、「景気を回復させ、その恩恵を全国津々浦々まで浸透させるようにはなっていない」など、アベノミクスの効果が実感できていないという声が中小企業から多くあげられたとのことです。

 

【出典】帝国データバンク
【出典】帝国データバンク

 

まとめますと、2020年度は「増収増益」(13.5%)を見込んでいる企業が前回調査から10ポイント以上減少したほか、「減収減益」(44.4%)は同20ポイント以上増加しており、企業は厳しい見方を強めています。

 

また、企業はこれまでの安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対する評価について平均 59.4点をつけました。このことから、個人消費回復への実感がないことや中小企業まで波及していない状況がうかがえます。

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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