本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2020/4/13号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

 

※本ニューズレターは2020年4月12日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナウイルス」といいます)は我が国においても感染を広げ、2020年4月7日には、新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づく緊急事態宣言が出されました。期間は2020年4月7日から同年5月6日までの29日間、緊急事態措置を実施すべき区域は埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県とされました※1。また、同月10日には、東京都より「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等」が出されました※2。これにより、様々な側面で事業活動が影響を受けており、投資信託関連業務においても種々の問題が生じています。今後もさらなる問題が生じる可能性があると考えられますので、投資信託の委託会社及び販売会社に関連して現在生じている問題点及び今後想定される問題点について概説します。

 

緊急事態宣言を受け、投資信託の委託会社及び販売会社に関連
緊急事態宣言により投信関連業務に生じる問題とは…

 

※1 https://corona.go.jp/news/pdf/kinkyujitai_sengen.pdf

 

※2 https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/661/2020041000.pdf

1. 緊急事態宣言への対応

緊急事態宣言を受け、2020年4月7日に「新型コロナウイルス感染症の感染拡大による緊急事態宣言を踏まえた金融システム・金融資本市場の機能維持について(麻生金融担当大臣談話)」※3が出され、「別紙の基本的な考え方に基づき、必要業務の継続について適切な対応に努めていただくよう要請します。」として、各種金融機関に対して緊急事態宣言への対応要請が出されました。その別紙「緊急事態宣言の対象地域における金融機関の対顧客業務の継続に係る基本的な考え方」では、いくつかの面で事業活動に関する具体的な要請内容が示されています※4

 

まず、「保険会社、第一種金融商品取引業者及び投資運用業者は、保険金支払い(契約者貸付を含む)、株式、債券、為替等に係る取引等の必要な業務を継続する。その際、可能な限り、ネット、コールセンター、営業店の電話等のリモート機能を活用することとし、職員の出勤は必要最小限にとどめる」としており、投資信託委託会社や販売会社である証券会社(第一種金融商品取引業者)では職員の出勤は必要最小限にとどめることが要請されています。販売会社である銀行や受託者である信託銀行など別紙に明示されていない業者についても同じ趣旨が妥当しますので、同様の要請がなされているとして対応することが望ましいと考えられます。

 

また、別紙では「窓口業務を継続する場合でも、投信販売、保険の引受等の金融商品の取扱いについては、基本的に既存契約の解約や換金に対応するために必要な人員を配置することとし、新規契約については、リモート機能の活用を基本とする」としていますので、対面による投資信託の販売活動は行わず、窓口では既存契約の解約や換金に対応するための必要最小限の対応のみにとどめることが要請されています。

 

このほか、「街頭やセミナーを含む対面の広告宣伝活動は自粛する」ことが要請されていますが、「トレーディング等の市場業務については必要な人員で継続する」とされています。

 

これらはあくまでも要請にとどまりますが、職員におけるコロナウイルスの感染が広がれば業務の継続も困難になりますので、要請に従った対応は業者としての業務継続体制(下記2.参照)の一環とも考えられます。

 

※3 https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/08.pdf

 

※4 東京都では、金融機関に対して「テレワークの一層の推進を要請、適切な感染防止対策の協力要請」をするとしていますが(前掲注2)、麻生金融担当大臣談話のような具体的な内容は含まれていません。

2. 業務継続体制(BCM)

(1)金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針

 

投資信託委託会社並びに販売会社である証券会社(第一種金融商品取引業者)及び銀行(登録金融機関)は、金融商品市場の仲介者として重要な役割を果たしていることから、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」において業務継続体制(Business Continuity Management:BCM)の構築が求められています※5。この業務継続体制は、テロや大規模な災害等からの復旧を主眼に置いたものですが、今般のコロナウイルスのように業務継続に対して継続的に障害となるような事象に対応することも必要と考えられ、この観点からの体制構築が十分でない場合には、検討及び整備が必要となります。また、コロナウイルスによるテレワークを活用した業務体制それ自体のみならず、そのような状態で大規模な災害等が生じた場合にも対応可能な体制となっているかを検討することが必要と考えられます。

 

※5 投資信託委託会社について「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」VI-2-3-4、販売会社である証券会社(第一種金融商品取引業者)について同IV-3-1-6。販売会社である銀行(登録金融機関)については同VIII-1において、第一種金融商品取引業者の同IV-3-1-6が準用されています。

 

(2)投資信託協会の規則

 

投資信託協会の「緊急事態発生時における投資信託の運営等に係るガイドライン」においても、自然災害、テロ事件又は大規模停電等の不測の事態の発生に伴う有価証券市場の取引停止等の事象(緊急事態)について体制整備義務を定めています。投資信託委託会社は、投資信託協会、販売会社等との連絡体制の整備、受付中止措置等の措置の実施及び措置の対象ファンドを検討し、決定するための社内体制の整備等が求められ、販売会社は投資信託委託会社との連絡体制の整備が求められています。既に各社において整備されている内容と思われますが、コロナウイルスによって出勤する人員が減った状態でも体制が維持できているかを念のため確認することが必要と考えられます。

3. ロックダウンその他の重大な社会的事象が生じた場合

(1)設定・解約の中止

 

コロナウイルスの流行拡大によりロックダウンその他の重大な社会的事象が生じた場合、投資信託の設定・解約を中止したり、その受付時間を限定したりすることが必要になる可能性があります。

 

投資信託協会の「緊急事態発生時における投資信託の運営等に係るガイドライン」では、国内外の取引所等の取引停止(III.1.)、取引市場の混乱(III.2.)、市場インフラの機能停止(III.3.)、委託業者及び関連機関の業務停止(III.4.)のほか、「委託業者は、ブラインドの遵守の確保や基準価額への影響度等を勘案し、個別ファンドについて受付中止措置等の措置を講じることが適当と判断する場合には、必要な措置を実施することができるものとする。」(III.5.)として、委託業者が当該投資信託の約款で定める基準価額適用日の基準価額で処理する設定・解約の申込みの受付を中止すること(受付中止措置)及び委託業者が当該日において設定・解約の申込みの受付に係る締切時間を繰上げること(締切時間繰上措置)ができるとしています。また、投資信託協会の「委員会設置に関する規則」では、特別対策委員会(同規則2条1項、20条)の決議により、設定・解約の申込の受付の中止、設定・解約の申込締切時間の繰上げ及びその他特別対策委員会が適当と認めた措置を取り得るとしています(同規則24条)。

 

しかしながら、投資信託協会の規則でこれらの措置ができるとされていても、解約の場面においては受益者との間で投資信託約款に基づく投資信託契約が存在しますので、投資信託委託会社による受付中止措置や締切時間繰上措置が投資信託契約に違反することにならないかについて別途の検討が必要となります※6。投資信託契約上の義務に違反しないかは、個別の投資信託約款・投資信託契約の文言解釈が必要となりますが、例えば、「委託者は、金融商品取引所等における取引の停止、外国為替取引の停止その他やむを得ない事情(投資対象国における非常事態〔金融危機、デフォルト、重大な政策変更および規制の導入、自然災害、クーデター、重大な政治体制の変更、戦争等〕による市場の閉鎖または流動性の極端な現象等)が発生した場合には、第1項による一部解約の実行の請求の受付を中止することおよびすでに受け付けた一部解約の実行の請求の受付を取り消すことができます。」との規定※7がある場合には、具体的な状況によるものの、解約について受付中止措置や締切時間繰上措置ができると考えられます。

 

受付中止措置や締切時間繰上措置が投資信託契約によって認められていない場合には、解約を受け付ける義務の不履行について損害賠償責任が問題となりますが、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものである」と認められる場合には損害賠償責任は生じないとされます(民法415条1項但書)。「債務者の責めに帰することができない事由」(帰責事由)の有無は具体的な事実関係によって決まりますが、投資信託協会の規則に従った対応であることは一つの有力な事実になると考えられます。

 

※6 設定の場面では受益者との間で契約関係がありませんので、別途の契約がない限り、契約上の義務は基本的に問題とはなりません。麻生金融担当大臣談話でも「基本的に既存契約の解約や換金に対応するために必要な人員を配置することとし、新規契約については、リモート機能の活用を基本とする」として、新規契約と解約・換金に差を設けているのは、このような観点にも基づくものと考えられます。

 

※7 小島新吾編著『逐条解説投資信託約款』(金融財政事情研究会、2019年)223頁記載の49条3項。

 

(2)その他の影響

 

設定・解約のほか、投資信託の受益者に対する義務の履行の局面でもロックダウンが問題となります。例えば、ロックダウンに至った場合、投信法に基づく運用報告書の交付義務(14条)や金商法に基づく取引残高報告書の交付義務(37条の4第1項本文、金商業等府令98条1項3号)等に関して書類の発送事務が困難になることも予想されます。これらの交付義務については、電磁的方法によることも認められていますが(投信法4条2項、金商法37条の4第2項・34条の2第4項等)、電磁的方法を用いるには顧客の承諾が条件となっているため、承諾がない限りは書面による交付が必要とされます。また、投資信託委託会社は、受益者の請求があった場合には帳簿書類の閲覧又は謄写に応じる必要があり(投信法15条2項)、ロックダウンの際にはこの対応も難しくなります※8

 

これらの義務違反については、法令違反として業務改善命令等の行政処分が問題となりますが、行政処分の内容は行為の悪質性等も考慮に入れて決定されますので(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針Ⅱ-5-2)、業務継続の困難さと顧客の権利保護のバランスから慎重に検討した上での対応であれば行政処分につながることはないと考えられます※9。また、投資信託契約上の義務違反についても問題となりますが、上記と同様に帰責事由がないと認められる場合には損害賠償責任は生じないとされます(民法415条1項但書)。

 

※8 閲覧・謄写請求権は「営業時間内に」とされていますので(投信法15条2項)、ロックダウンの状況によっては「営業時間」に該当しない可能性があります。

 

※9 法令違反がある場合、投資信託協会による過怠金の徴収又は会員権の停止若しくは制限もありえますが(一般社団法人投資信託協会定款17条)、同じように行為の悪質性等も考慮に入れて決定されると考えられます。

 

本柳 祐介

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ニューヨーク州弁護士

 

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   本柳 祐介

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