年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、子どものいない夫婦を襲った事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

「子どもがいる幸せな家族、が想像できなくて」

「結婚はしたい。でもわたしは子どもはいらない。それでもいいなら……」

 

Aさんからのプロポーズに、こう答えたB子さん。Aさんは驚いた表情を浮かべ、少し間を開けてから「ちょっと考えさせてほしい」と伝えてきたといいます。

 

「そのあと、1週間くらい連絡がなかったですね。もうこれで終わりかな、と思っていたら、改めてプロポーズしてくれました。嬉しかったです」

 

こうして2人はめでたくゴールイン。しかし「子どもは作らない」ということに、Aさんの親は納得しませんでした。

 

本来祝福されるはずの結婚でしたが、結婚を強行した2人に激怒し、Aさんと家族は断絶状態に。結婚してから10年、交流はまったくといっていいほどありませんでした。

 

「彼、3人兄妹の長男なんです。彼の家は普通の家庭なんですが、兄妹で男は彼だけだし、やっぱりご両親は孫を期待しますよね。それなのに『結婚する。でも孫は諦めて』といわれたら、戸惑うに決まってる……」

 

今でも、B子さんは負い目を感じてしまうとのこと。ではなぜ、B子さんは「子どもはいらない」と宣言したのか。背景には、B子さんの生い立ちが関係していました。

 

「両親は、わたしが14歳のときに離婚しました。仲が悪く、いつも喧嘩をしていた記憶しかありません。母はわたしと弟を連れて家を出ましたが、わたしが高校生を卒業するころには、ほとんど家に帰って来なくなりました」

 

B子さんの母は新しくできた恋人の家に入り浸っており、B子さんが成人したあとは、ついに音信不通になりました。

 

「弟となんとか2人でやってきたんです。母も父も、生きているんだが死んでいるんだか……連絡の1つぐらいくれても、いいじゃないですかね」とB子さん。家庭を顧みない親をみてきて、結婚そのものに興味がなくなっていました。

 

「子どもがいる幸せな家族、というものがどうしても想像できなくて……」

 

しかしAさんと出会い、「この人とならいつまでも一緒にいたい」と思うようになったといいます。家族との交流はなくても、幸せな結婚生活を過ごしていました。数年前には都心からも近い人気の街にマンションを購入。2人にとって、大きな決断だったといいます。

 

「大きな買い物だったので、どうしようか、本当に迷いました。でもマンションから眺望が本当に素敵で。最終的に、2人とも働いているから、大丈夫だろうということで決断しました」

 

購入したのは8,000万円の2LDKのマンション。共有名義で20年のローンを組んだといいます。春には河川敷の桜がみえ、夏には花火の鑑賞もできるのだとか。

 

「平日はお互い仕事が忙しいのですれ違いが多いですが、休日は一緒に買い物に行ったり、料理を作ったり……。特別なことではないですが、本当に、かけがえのない日々だったんです」

2人だけで、幸せだったんです
2人だけで、幸せだったんです

 

「結婚して本当によかった」。2人だけの楽しい日々がいつまでも続くかと思われましたが、突如、B子さんは不幸に見舞われます。

 

Aさんが事故で亡くなったのです。

最愛の夫が死去…義母の怒りを浴びたB子さんは

突然のことでした。一報を受けたB子さんはすぐに病院に駆けつけましたが、間に合わなかったといいます。茫然自失のなか、Aさんの葬儀は行われました。

 

葬儀から1週間、何も手につかないB子さんのもとに、1本の電話が入りました。Aさんの母親でした。

 

後日。レストランにB子さんの姿がありました。Aさんの両親と初めて会うことになったのです。そして現れたAさんの両親。母親は明らかにB子さんを敵視していました。

 

B子さん「はじめまして。B子と申します」

 

Aさん母「挨拶はいいので、要件だけいいます。Aの遺産相続の話です」

 

B子さん「あっ、はい」

 

Aさん母「Aの遺産はどうなっていますか?」

 

B子さん「預貯金と、あと、今住んでいるマンションが共有名義なので……」

 

Aさんの母「なに、きちんと把握していないの? 信じられない。あの子はこんな頼りにならない人を選んだのね。情けない」

 

Aさん父「おい、やめないか」

 

Aさん母「とにかく、きちんとAの遺産を明らかにしてください! 話はそれからです」

 

Aさんの母はそう吐き捨てると、レストランを去っていきました。Aさんの父もあとを追うように帰っていきました。あまりのことで、言葉を失くしてしまったB子さん。

 

とはいえ、相続は避けて通れないこと。B子さんがAさんの遺産を確認したところ、遺産分割となる対象は、預貯金が500万円、マンションが3,500万円でした。そして改めて、遺産分割の話を、例のレストランですることになりました。

 

Aさん母「わたしたちには、Aの遺産の3分の1は相続する権利があります。だいたい、1,300万円。それでいいわね」

 

感情的になっていた先日とは打って変わって淡々と話すAさんの母。却って気味悪く感じたとB子さんはいいます。

 

B子さん「マンションの分は考慮してもらえませんか? 1,300万円なんてお金すぐには……」

 

Aさんの母「それは、わたしには関係ないことだわ」

 

B子さん「……でも」

 

Aさん母「あなたがわたしにしたこと、考えてみてください。お腹を痛めて産んだ子が、目に入れても痛くないような子が、わたしたちと絶交してもいいからとあなたを選んだんです。どれだけの悲しみだったか、わかりますか」

 

B子さん「……」

 

Aさん母「あなたたちには、わからないでしょうね。だからこの10年間、ひと言も挨拶がなかったのでしょうから。これはわたしからの復讐だと思っていただいて、結構です」

 

遺産分割の話はそれで終わりました。B子さんは悩んだ挙句、Aさんの母が主張するすべてを受け入れました。B子さんは自身の預貯金など、すべてをかき集め、何とかお金を工面しました。

 

「彼のお母さんに伝えられて、言葉が出ませんでした。どんなに時間がかかっても、彼の両親を納得させるべきだった……今は、後悔しかありませんね」

子どものいない夫婦の遺産分割…注意点は?

法定相続人とは、民法で定められた相続人のことをいい、配偶者は必ず法定相続人になります。配偶者以外の法定相続人には優先順位があり、第1順位の法定相続人は子供ども、第2順位の法定相続人は直系尊属である父母、第3順位の法定相続人は兄弟姉妹となります。

 

事例の場合、子どもがいないので、遺産分割協議の場に両親が登場しました。法定相続分は、事例の場合は、配偶者に3分の2、両親に3分の1となります。

 

さらに考えておきたいのが遺留分です。遺留分は、亡くなった人の家族が、今後の生活に困らないようにするために、必要最低限の金額は相続できるようにするための制度です。第3順位の法定相続人である兄弟姉妹にはない権利ですが、第2順位の法定相続人である直系尊属の父母には認められる権利です。

 

遺留分は、法定相続分の半分が目安。事例の場合、もし遺言書で「B子さんに財産のすべてを相続させる」と書かれていても、Aさんの両親は遺留分として650万円ほど主張できるというわけです。

 

相続トラブルの回避のために遺言書を作成しても、遺留分を侵害していると、トラブルに発展する場合があります。知らずに遺留分を侵害している場合もあるので、遺言書を作成する場合は、プロにアドバイスを求めると安心です。

 

【動画/筆者が「遺留分」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

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