義姉との生活に疲れて、義母が介護施設に入居
「お義姉さんには、本当に手を焼いています」
そう話すA子さん。夫は3人姉弟の末っ子で、上に姉がふたりいます。問題はちょっと虚言壁がある2番目の姉。結婚当初は気づきませんでしたが、結婚をして3年ほど経ったとき、お金の工面をしてきたことをきっかけに、おかしいと怪しむようになったそうです。
「義姉は一流会社に務めて、青年実業家の彼がいて、よく海外旅行に行って……という自慢話を聞いていました。そんな義姉を、自慢に思っていたんですが、全部嘘だったんです」
お付き合いをしている彼が事業に失敗して、その補填のために30万円を貸してほしい――。そんな申し出だったといいます。A子さんの夫はその話を信じて、お金を貸しました。同じように、親や一番の上の姉にもお金を借りていたそうです。しかし、ある日、すべてが嘘だということが発覚しました。
「義姉は当時から義親と同居していたのですが、その家に義姉の友人が遊びに来たらしいのです。そのとき聞こえてきた話によると、彼は青年実業家ではなく、市役所に勤める公務員だと。友人が帰ったあとに話を聞くと、色々なことが嘘だったと判明したんです」
家族に借金をしたのは、友人と旅行に行くのにお金が足りなかったから、友人がもっているブランドもののバッグが欲しかったから……と彼が事業に失敗したという理由とはほど遠いものだったといいます。
「嘘が発覚して、反省するんだったらいいのですが、『借りた金、返せばいいんでしょ!』って逆ギレしたらしいです。家族もあっけにとられて、ポカーンですよ」
そのあとも、義姉の嘘はとまらなかったといいます。しかし「もし本当だったら……」と考えて、一度は信じることにしていたといいます。
「義親も、一番上の義姉も、夫も、その義姉には振り回されていましたね。でも最近は家族から愛想をつかれて……わたしに話をしてくることもあって、本当に疲れます」
そんな家族に変化がみられたのは、義母が介護施設に入るかどうか、という話になったときのことです。すでに義父は亡くなり、A子さんの夫の実家には、義母と義姉が住んでいました。義母は足腰を痛め、だんだんと人の手を借りないと移動がままならなくなっていました。
そこで義母はA子さんの夫に相談をしてきました。義姉は「なんでわたしばかり母を助けないといけないのよ。不公平だわ」とうるさいのだとか。介護施設に入ったほうが安心だと考えているというのです。
「わたしも『それであればうちに来てください』と言ったんですが、『慣れない土地で暮らすのも大変だし、きっと気を遣うから』と」
そして義母から、A子さんの夫に「通帳や実家の権利書などを預かってほしい」という申し入れがあったのです。預かった通帳は2冊。1冊は月々の引き落としに使っているもの、もう1冊は義父から相続された現金がそのまま入っているものでした。
「ようは、義姉から財産を守ってほしいということ。夫に色々預けることができて、義母は安心して施設に入りました。施設に入った今のほうが、元気ですね」と笑うA子さん。しかしその笑顔が引きつる出来事が起きました。
義姉が突然の訪問…勝手に書棚の引き出しを物色
ある日のこと。A子さんの家にチャイムが鳴りました。インターホン越しにいたのは、あの義姉でした。
義姉「突然、ごめんなさいね」
突然の訪問。あいにく夫はおらず、できれば避けたいシチュエーションでした。しかし帰らすわけにもいかず、家にあげることにしました。
A子「あいにく、夫はいないんですよ」
義姉「いいのよ、別に。ただ近くに来たから、寄ってみたの。はい、お土産」
やっかいなことに巻き込まれる予感しかない、と思ったというA子さんでしたが、お土産持参で来た義姉を無下にすることもできない――。仕方がなく、お茶を出そうと台所で準備を始めました。すると、リビングのほうで何かの物音が。気になって見に行くと、戸棚を開けて、何かを探す義姉の姿がありました。
A子「何やっているんですか、お義姉さん!」
義姉「えっ、お母さんの貯金通帳ってどこにあるかなと」
A子「そんなところにはないですし、夫が預かっているものですから」
義姉「でも必要なものだし」
A子「えっ、どういうことですか?」
義姉「お母さんが、持ってきてといっているのよ」
A子「そんなこと、お義母さんがいうわけありませんよ。本当に必要なら、まずは夫にいってくるはずです」
義姉「あぁ、お母さんは認知症だから、話すことがいつも違うのよ」
A子「とにかく、夫に確認をしますから、今日は帰ってください!」
A子さんは必死になって義姉に帰ってもらいました。夫が帰ってきてから、その日のことを話すと、やはり義母が認知症ということは絶対にないと。施設にいる義母にも会いに行くと、移動は大変ですが、認知症ではないことは明らかでした。
先日起きたことをひと通り話すと、義母から夫に新たなお願いがありました。遺言書の作成を手伝ってほしいとのことでした。「わたしにもしものことがあったとき、またあの子、めちゃくちゃなことをいうと思うの。面倒なことがあったら、死んでも死にきれないもの」と義母。その後、遺産分割の方法を明確にした遺言書を作成し、万が一の際でも安心という状態になりました。
「あとは、預かっている通帳や権利関係の書類を死守するだけですね」
遺言書を残す場合、何に注意すべきか?
今回の事例では、相続トラブル回避のために、最終的に遺言書を作成しました。遺言書には大きく、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。前者は公証役場で公証人が作る遺言書で、安全性と確実性が非常に高い遺言書です。大きく偽造変造のリスクが一切ないことと、公証役場で預かってもらえるというメリットがあります。
一方、自筆証書遺言は、自分の手で書き上げる遺言書です。15歳以上の人であれば、誰でも作ることが可能です。財産目録など一部を除き、すべて自分の手で書き上げます。
他にも以下のような条件があります。
・日付がないと無効
・夫婦共同の遺言は作れない
・訂正の際は、二重線を引いて、訂正印を押すだけではなく、訂正内容を書き加えないといけない
・署名押印は必ず必要。書き終わったら封筒に入れ、封印をしておくと偽造変造の疑いがなくなる
細かな条件は他にもあります。
せっかく作った遺言書が、不備があって無効になった事例はたくさんあります。そのようなリスクを避けるなら、公正証書遺言のほうが安心です。
事例のように、お金が絡むと人は突拍子もない行動をとるものです。確実な遺言書があれば、そのようなトラブルは避けられる可能性が高くなります。
【動画/筆者が「遺言書の基本」について分かりやすく解説】
橘慶太
円満相続税理士法人