「バカにしてんのか」って、外に出てしまって
【診断時64歳の父の介護をしていた女性・Aさんの語り:2012年7月】
父を、近くの脳神経外科とかで有名な先生のところに連れていって、長谷川式でしたっけ、ああいうのとか、全部テストしました。
その長谷川式のチェックをしたときに、例えば、「じゃあ、100から7を引いたら?」とか、「今日は何月の何日ですか?」って言われると、たぶん父の防衛本能かわからないんですけど、「そんなくだらない質問を俺にするな」みたいになって……。
ま、よくある話なんだと思うんですが、「バカにしてんのか」って、やっぱ怒っちゃって、外に出てしまって。
・Aさんのプロフィール(2012年7月時点)
1997年父が56歳で脳梗塞となり、退職。
一人娘の介護者は両親と3人暮らしで、19歳から生活と介護を支えてきた。しかし、2005年に父がアルツハイマー型認知症と診断され、状態が悪化。母も体調を崩し、介護者は介護離職した。経済的にも追い詰められてうつ状態となり、一時は死を考えた。
取材時は週1回のデイサービス、1~2ヵ月に1回のショートステイを利用しながら在宅介護していた。
会社におったあの人、何という人やったかいなあ
【80歳(診断時77歳)の女性・Bさんの語り:2015年2月】
はじめにおかしいなと思ったんは、「会社におったあの人、何という人やったかいなあ」とか、人の名前を思い出せないもんで、ちょっと変やなと。
それから、何かをしまった後で、どこへしまったかってことを忘れるようになった。それで、「もの忘れを遅らせる薬がある」とか聞いたもんで、検査してもらおうって(病院に)行ったんです。
「あんたひとりで来たん?」と言われたんで、「こんな近くなのに、何で?」と思ったんです。それで、検査で「100から7をずっと引いていってください」と言われたんですが、全部できたんで、「ほうえに<そんなに>できるやんか」って。
それから3つの言葉を「覚えといて」っちゅう言われて、ほかのことを雑談した後で「3つの言葉、何やった?」って聞かれたんだけど、それもちゃんと覚えていました。
次に、「紙に何か好きなこと書いて」って言われたもんで、教養のある言葉でも書こうかなって思ったんですけども(笑)、「たくさんお金がほしいわ」(笑)って書いて、渡して、また雑談しとって、後で「何て書いた?」って聞かれたもんで、「お金がたくさんほしいわ、って書きました」って答えました。
「誰でもな」って、先生、笑ろうてみえた。
それで、ほかのことも全部言えたもんで、そのときは薬も出してもらえやんと、そのまま帰ってきたんです。
・Bさんのプロフィール(2012年7月時点)
長女(52歳)と2人暮らし。夫を50代で亡くした。
77歳の時、MRIで海馬の萎縮、多発性脳梗塞がみられ、アルツハイマー型認知症と診断された。長女の全身性強皮症(膠原病の一種)が進行したため、洗濯などは長女の分もしている。
訪問リハビリを週2日、リハビリ型デイサービスを週2日利用し、ヘルパーに掃除を週1回依頼している。
認知機能の状態を調べる、「神経心理検査」の種類
認知症診断に際して、認知機能の状態を調べる「神経心理検査」と「画像診断検査」の両方を受ける方が多いようです。「神経心理検査」の種類は、次の通りです。
① 改定 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
症状の有無と程度をふるい分ける(スクリーニング)ために行われる簡単なテスト。略して「長谷川式検査」といわれる。主に記憶力を中心とした認知機能障害の有無を大まかに知ることを目的とする。30点満点中20点以下が、認知症の可能性が高いとされる。
② MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルテスト)
主に記憶力、計算力、言語力、見当識(現在の日時や日付、自分がどこにいるかなどを正しく認識しているか)を測定する。口頭による質問形式で行われる。30点満点中23点以下が、認知症の可能性が高いとされる。
③ 時計描画検査
白紙を被験者の前に置き、「紙の上に、紙の大きさに見合った大きさの丸時計の絵を描いてください。数字も全部書いて10時10分になるように針を描いてください」などと口頭で指示する。頭頂葉の機能を反映する。
保険が適用されない検査もあり、注意が必要
●画像診断検査
認知症の種類によって治療もそれぞれ異なるので、正確な診断が必要です。
そこで、症候学的検査や神経心理検査に加えて、画像診断検査を行って、脳の萎縮の程度や病変部位の違い、血液の循環や代謝の違いを調べます。
MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)は脳の形の変化を見るための検査です。放射性同位元素で印を付けた薬剤を用いて血流を調べ、脳の働きを見るSPECT(スペクト)や、放射性同位元素を用いて脳の中の糖の代謝を見るFDG-PET(エフ・ディー・ジー・ペット)などの、より精密な検査もあります。
SPECTは認知症でも保険が適用されますが、FDG-PETは利用できる施設が限られており、認知症の診断目的では保険適用にならないため、高額の費用がかかります。
認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン