説明しようと思ってもですね、説明ができないわけです
【61歳(診断時57歳)男性・Aさんの語り:2010年7月】
(それが起きたのが)何年とか、何月何日とか、よくは覚えておりませんけど、私の体調が急にですね、えー、私自身が、非常にあのー、うーん、どういう言葉がいいかなぁ…、急に自分自身が自分でないような感じで、「何だろう」っていうことがよくわからなかった。
そうすると、だんだんだんだん自分自身がわからなくて、私、〇〇(氏名)ですけど、「〇〇は誰なのだ」っていうようなことを考えました。
それと、妻が心配して、「どうなったのか」っていうことでね、何回も聞かれたかな。「どうしたの? どうなったの?」、そういうような言葉をたくさん言われましたね。それで私が説明しようと思ってもですね、説明ができないわけですよ。「自分がどうなっているか、よくわからない」って言っても、妻もわからないわけですよね。
私、それがもう本当に、「ここにおる〇〇は誰なのか」っていうような感じというかね…、そんなことです。非常に心細いですね。
・Aさんのプロフィール(2010年7月時点)
夫婦2人暮らしのAさん。2004年頃、新しい職場に配属され、ストレスから不眠になり、メンタルクリニックを受診、うつ病と診断される。休職後、職場復帰をするが、仕事に支障が出て大学病院を受診。2006年に「若年性アルツハイマー型認知症」と診断される。
診断から6ヵ月後、36年間勤めた市役所を退職。診断3年半後、有料老人ホームで介護の手伝いをすることになる。利用者の喜ぶ顔が励み。これからも何らかの形で人の役に立ちたいと思っている。
頭の中にもうひとり、違う人がいる気がする
【64歳(診断時57歳)の父の介護をする女性・Bさんの語り:2012年7月】
父の日記が開いた状態でたまたま置いてあったのが見えてしまって、見ていたら、自分が脳梗塞で倒れてから、うすうす、やっぱり本人が一番早く気づいてるみたいなんですよね、「俺、おかしい」っていうことに。
で、今日は、「娘と自分の妻がお見舞いに来た」っていうのも書いてあるんですけど、書いてある同じ日のところに、「大学時代の後輩が来たんだけれども、自分の病室に置いてある花を持っていってしまった」みたいなことも書いてあるんですよ。でも、実際は来ていないんですね、そういう後輩の方は。
父も、意識が正常のときにそれを見て、「あ、何かおかしい」って、やっぱり気づいていたらしくて。駐車場で事故を起こしたときだとか、あとは本当に幻覚が見えてきてしまっているときとかに関しては、日記にやっぱり、「何か、俺の頭の中にもうひとり、違う人がいる気がする」って書いてたんですね。「ああ、書いてたんだ」と思って…。
頑固な父なので、不安な気持ちとか言ってくれればいいんですけど、不安さとか、そういうのは全然出せない。昭和の堅い人なので、出さずにいたので、自分でそう書くことで、その中で解決しようとしていたみたいなんです。
・Bさんのプロフィール(2012年7月時点)
1997年、父が56歳で脳梗塞となり、退職。一人娘のBさんは両親と3人暮らしで、19歳から生活と介護を支えてきた。しかし、2005年に父がアルツハイマー型認知症と診断され、状態が悪化。母親も体調を崩し、Bさんは介護離職した。経済的にも追い詰められて、うつ状態となり、一時は死を考えた。
インタビュー時は、週に1回のデイサービス、1~2ヵ月に1回のショートステイを利用しながら、在宅介護をしていた。
本人や周りの人が「異変」を感じるきっかけ
家族よりも本人が先に気づくケースがあります。それまで健康に過ごしていた若年性認知症の人のほうが、高齢になって発症した人よりも、自分の異変に気づきやすいようですが、高齢の人でも、外出の際に目的地にたどり着けない、帰ってこられないといった経験をして、自ら受診を希望する人もいます。
本人が「異変」と感じているのは、必ずしももの忘れなどの典型的な症状ばかりではありません。
「自分が自分でないような感じ」「物が見えていても、そこにないような感じで」などで、実際に本人が違和感があると感じていても、それをうまく説明できないことも多いようです。
認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン