移動制限を反映し始めた経済指標

投資のプロフェッショナルである機関投資家からも評判のピクテ投信投資顧問株式会社、マーケットレポート・ヘッドライン。日々のマーケット情報を専門家が分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報・ヘッドラインを転載したものです。

 

米国で新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した3月の動向を(ある程度)反映した経済指標が公表され始めています。1日の指標は市場予想を上回りましたが、決して市場が悲観し過ぎていたわけではなく、テクニカルな理由で十分景気の落ち込みが反映されなかったと解釈すべきと見ています。

米国経済指標:大幅な低下が想定されたが、市場予想は上回る結果

米国の民間部門の雇用者数を示すADP雇用統計の3月分が2020年4月1日公表され、米民間雇用者数は、前月比マイナス2万7,000人と、市場予想(マイナス15万人)は上回りましたが、前月(17万9,000人増)を大幅に下回りました。

 

同日に、米国製造業の動向を反映する米ISM製造業景況指数の3月分が公表され、49.1と市場予想(44.5)を上回りました。前月は50.1でした。新型コロナウイルスの感染拡大による経済への深刻な影響から、両指標とも大幅な悪化が市場で予想されていましたが、今回のデータでは市場が想定したほどには落ち込みませんでした。

どこに注目すべきか:ADP雇用統計、入荷遅延、市場予想

米国で新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した3月の動向を(ある程度)反映した経済指標が公表され始めています。1日の指標は市場予想を上回りましたが、決して市場が悲観し過ぎていたわけではなく、テクニカルな理由で十分景気の落ち込みが反映されなかったと解釈すべきと見ています。

 

まず、ADP雇用統計を見ると、全体の雇用者数はマイナス2万7,000人と、マイナスながら市場予想ほどには落ち込みませんでした。今回のADP雇用統計は3月前半の民間雇用状況を反映し、同月後半に見られたより大きな人員削減を含んでいないことが、市場予想とのズレの背景と思われます。市場が驚いた328万件の新規失業保険申請件数は21日の週の動きを示していますが、ADP雇用統計の市場予想はこの数字に引きずられたのかもしれません。

 

ただ、セクター別に見ると悪化の様子が十分確認されます(図表1参照)。例えば、小規模企業の雇用者は、大企業に比べ悪化しています。また、人の移動が制限される中、娯楽や運輸、小売などを含むサービス部門は、ヘルスケアなどを例外に、大幅に悪化しました。

 

次に、こちらも前月は下回るも、市場予想を上回った3月の米ISM製造業景況指数です(図表2参照)。市場予想ほどに落ち込まなかった背景の一つは、入荷遅延指数が65.0と、前月の57.3から大幅に上昇したためです。入荷遅延指数は納期が遅れるほどプラスに表示される指数です。通常、景気が過熱する局面で納期が遅れることを示唆しています。しかし、大規模に人の移動を止めるという、過去にほとんど経験のない政策が実施される局面では、納期の遅れは主観的にマイナスと解釈すべきでしょう。

 

それでも、主要な構成指数である新規受注、生産、雇用は前月に比べ大幅に悪化しています(図表2参照)。

 

なお、先のADP雇用統計でも製造業を含む財生産部門は、サービス部門に比べ雇用の下落は小幅です。製造業でも工場が閉鎖されている自動車などは影響が大きい一方、食料品生産や、化学製品など活動を維持するセクターが製造業には多く見られます。3日に公表予定の米ISM非製造業景況指数に注目が必要です。

 

今回の市場予想は通常の範囲と見ていますが、往々にして現在のような局面では、(例えば失業率)極端な予想も見られます。このような予想が短期で終わるのか、それとも持続的なのかは少なくとも区別が必要です。予想は冷静かつ慎重に、数字の背景を解釈することが大切と考えています。

 

月次、期間:2020年2月(左)~2020年3月(右)、前月比 出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表1]ADP雇用統計の主なセクターの雇用者数の推移 月次、期間:2020年2月(左)~2020年3月(右)、前月比
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

月次、期間:2020年2月(左)~2020年3月(右)、指数 出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表2]米ISM製造業景況指数と主な構成指数の推移 月次、期間:2020年2月(左)~2020年3月(右)、指数
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『移動制限を反映し始めた経済指標』を参照)。

 

(2020年4月2日)

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社

運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト 

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

著者紹介

連載PICTETマーケットレポート・ヘッドライン

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧