米国市場ではNYダウが連日で1,000ドル超の幅で上昇と下落を続けています。こちらに目が行きがちですが、3月18日のマーケットではNY原油が再び急落しました。その背景には何があるのでしょうか。

米国政府は航空機や観光産業を支援する姿勢

3月18日の米国株式市場では、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる懸念が再び広がり、終値ベースでも節目の20,000ドルを割り込みました。終値は19,898.92ドル(前日比-1,338.46ドル)で、-6.30%の下げ幅です。本来、4ケタの上げ幅や下げ幅はほとんどないことですが、このところは連日で記録しており、慣れてきた感じさえします。

 

この日もトランプ政権から、良い材料と悪い材料の双方が出ています。いわゆる「バッドトランプ」では、前日から米国と中国の間で繰り広げられている「中国ウイルス」の問題で、「中国ウイルスと呼ぶことは差別ではない」と発言し、強硬(対決)姿勢を崩しませんでした。新型コロナウイルスの世界的な拡大は、中国政府の初期対応がひどかったせいだと言いたいようなのですが、今この状況で言い合うことかと、現地のメディアもあきれているようです。

 

「グッドトランプ」としては、業績への懸念が高まっている航空機産業、観光産業を政府としてしっかりと支える姿勢を示しました。デルタ航空などのエアライン各社の株価は暴落しています。そして、エアラインの業績への懸念から航空機製造のボーイング株が売られたり、シェブロンをはじめとする石油産業の株価もひどい状況です。

 

米国では石油産業の株価もひどい状況になっている。
米国では石油産業の株価もひどい状況になっている。

 

このほかに、米国食品医薬局(FDA)に対する規制緩和の要請、マスクの生産増強を目的とした国防生産法の発動の方針、米国とカナダの不要不急の際を除く国境閉鎖の方針なども示されました。中国や欧州各国の対応が後手にまわり、状況が悪化したことを分析し、先手を打っているとのことです。向こう2週間ほどで封じ込められるか否か、重要な局面と言えます。

米国の石油在庫統計では8週連続の増加に

連日の株式市場の急変動に目を奪われがちですが、18日の米国市場では再び原油相場が急落しています。

 

WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で期近の4月物はこの日、前日比6.58ドル安の1バレル20.37ドルで取引を終えました。下げ幅は-24.4%になります。一時は20.06ドルと2002年2月以来、18年1カ月ぶりの安値を付けました。新型コロナウイルスに伴う世界景気の落ち込みに加え、サウジアラビアなどの増産で原油需給が緩むとの見方から売りが膨らんだようです。

 

WTI原油先物・日足チャート 【提供:楽天証券マーケットスピードⅡ】
WTI原油先物・日足チャート
【提供:楽天証券マーケットスピードⅡ】

 

マーケットが荒れている際の水曜日の米国市場は要注意です。この原油価格の暴落の材料は、米エネルギー情報局(EIA)が18日に発表した週間の石油在庫統計でした。普段はあまり材料視されない統計データですが、相場急変の際に注目度がグッと高まります。原則として毎週水曜日に公表されます。リーマンショックの際にも、よく材料視されました。

 

見方は単純です。原油の在庫が増えていれば、それは市中で原油が余っているために当局が備蓄として買っていると解釈され、供給過多との見方で原油価格は下落します。逆に原油の在庫が減っていれば、市中で足りないから当局が備蓄を放出していると考えて、供給が増えるとの見立てで原油価格は上昇します。

 

18日発表分では、原油は前週比+195.4万バレルとなり、在庫は8週連続で増加しました。米国内の生産量も増えています。

原油価格下落はNYダウなど株価の下押し圧力を強める

サウジアラビアなど主要産油国が4月から増産に転じる見通しであり、需給悪化に拍車がかかるとの観測が強まっています。新型コロナウイルスの影響で世界的に経済活動が減速しており、航空機や自動車用燃料としての需要減少、ひいては原油の余剰、原油価格下落という構図は、誰でも思いつくはずです。

 

教科書的に言えば、原油価格の下落は景気にプラスに働くことに間違いはないのですが、石油産業の業績を押し下げます。日本とは異なり、石油に携わる各社の株価は米国やロシアなど世界各国で指数に対する寄与度が大きいため、NYダウやS&P500といった株価指数の下押し圧力を強めます。つまり、マーケット全体がリスク回避の様相を強めることになります。

 

足もとの原油価格の下落については、新型コロナウイルスの悪影響が警戒され始めたところで、3月11日の石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の協調減産をめぐる協議決裂が、拍車をかけました。産油国による「適正供給」がいつになるのか、これも金融マーケット全体に落ち着きを取り戻せるかどうかのカギになりそうです。

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