自宅の土地を80%割引で相続ができる「小規模宅地等の特例」。この特例が使えるか/使えないで、相続税が千万円単位で変わることがあります。そのため、この特例を巡って“ごまかし”が行われることが多いようです。しかし、ひとたび税務調査が入れば、すぐにバレてしまうでしょう。今回は小規模宅地等の特例で行われる不正は、どうして明るみになってしまうのか、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

小規模宅地等の特例…同居親族が8割引きになる条件

小規模宅地等の特例は、簡単に説明すると「亡くなった人が自宅として使用していた土地については、8割引きの金額で相続していいですよ」という特例です。「小規模」といっている通り面積に制限があり、その面積は330平米、およそ100坪までです。100坪までが8割引き、それを超えた部分は通常の評価額となります。いずれにしてもこの特例は、減額の幅が大きいので、この特例が使えるか使えないかで、相続税は何千万円も変わるケースがあります。

 

この特例が使える人は3人います。しかし3人目は条件が厳しいため、なかなか使うことができません。原則としては初めに紹介する2人が使えるので、3人目はオマケだと考えてください。

 

まず、1人目は配偶者です。2人目が同居親族です。3人目は、亡くなった方と別居していて、かつ、3年以上自分の持家に住んでいない親族です。わかりやすくいえば、賃貸暮らしをしている子どもが当てはまります。他にも細かい条件が付いていて、「配偶者」「同居している相続人」がいてはいけません。

 

少々ややこしいので、シンプルに次のように覚えるといいでしょう。

 

・配偶者か同居をしている親族に自宅を相続させれば、自宅は8割引きになる

 

・配偶者も同居している人もいないときは、持家のない親族に相続させると8割引きになる

 

ここからが本題です。「同居親族が8割引きになる条件」を解説していきます。

 

条件のひとつ目は「相続開始前から同居していたこと」。ここでよく聞かれるのが、「亡くなる前、どれくらいの期間、同居していなければいけないんですか?」という質問です。こちらに正解は特にありません。本当に極端な話、1ヵ月前や1週間前でも認められます。

 

条件のふたつ目。「相続開始から10カ月間、そこに住み続けること」です。亡くなる前には制限はありませんが、亡くなった後には制限があるわけなのです。

 

と、ここまで説明すると、みなさん、こう思うでしょう。「同居とはなんぞや?」。そして多くの方が考えるのです。「住民票だけ一緒にすればいいんでしょ?」。そんな甘い考えの方がいますが、そうはいきません。実態が伴っていないと認められません。税務調査に選ばれたら、細かく追及されます。以下平成15年の裁決です。

 

平成15年4月18日裁決

「居住の用に供している」とは、その者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続し、当該家屋を生活の拠点として利用していることと解するのが相当であり、具体的には、その者及び配偶者その他の親族等の日常生活の状況、その家屋に入居した目的、その家屋の構造及び設備の状況、その他の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして判断することとなる。

 

ようは「同居していたかどうか、日常生活や家屋の構造や設備とか、総合的にみて判断しますよ」ということです。そして「見せかけの同居」は、税務調査でもバレやすいといえます。

 

なんでも見せかけはバレる
なんでも見せかけはバレる

税務調査員は同居実態をどのように調べるのか?

では税務調査では何をもって、同居実態を調べるのでしょうか。

 

まず調べるのは「郵送物」です。たとえば「昔から両親と同居していたんです」というのであれば、当然、その人宛の郵送物は実家に届いているはずです。同居をしている間の水道光熱費の請求書や、クレジットカードの明細などをチェックされます。同居を主張していながら別のところに送られていたら「おかしくないですか?」となるわけです。

 

次に「子供の学校」。三世代同居であれば、子ども(被相続人からみたら孫)が通うとされる小学校や中学校はどこか、調べられます。学区内の学校に通っていなければ、「どうしてですか?」と突っ込まれます。

 

そして「通勤定期」。同居を主張するのであれば「会社から過去の通勤定期の区間を取り寄せてください」と言われます。

 

この辺りまでは、想像の範囲でしょうか。ここからは、「そこまでやるの?」と税務署の本気の程度がわかるものをみていきましょう。

 

まず「相続人の貯金通帳」。「そんな個人情報、見せる必要ありませんよね?」と言う方がいますが、そんなことはありません。税務署の職員は質問検査権といって、職権で個人情報を見ることができます。

 

そして通帳を見てみると、同居しているにも関わらず家賃の引き落としがあるなど、矛盾があれば「なんで?」と突っ込まれます。さらに、どこのATMを使っていたか、過去をさかのぼってみることができます。会社の近くとかであればいいのですが、定期的にある場所で引き落とされていたら、「なんで?」と疑われるのです。

 

さらに「大型家具の搬入日」。税務調査で「あなたの部屋はどこですか?」と聞かれ、「2階で寝てます」と答えたとします。そこにタンスがあったとしたら「このタンスを搬入したのは、実家に引っ越してきた時ですか?」と聞いてきます。「はい」と答えたら、搬入業者の履歴との付き合わせがなされます。

 

そして「電気の使用量」。実家に引越しをしてきた日とされる、その日の前後の電気の使用量が調べられます。そこで全然変わってなかったら「あれ、おかしくないですか?」となるわけです。1人で引っ越してきたのであれば、そこまで変わらないかもしれませんが、家族で引っ越してきた場合、水道光熱費は大きく変わるはずです。

 

そして最後です。「ご近所さんへのヒアリング」が行われます。「あのおばあちゃん、お子さんと住んでいました?」などと、近隣の方に聞いてまわります。過去の判例では、あるおばあちゃんが「こんど入院することになったから、家に誰もいなくなっちゃうから、よろしくお願いします」という会話から、同居は認められない、といことがありました。誤解のないようにいうと、その裁判のときに「ご近所のヒアリングがすべてではない」と言っています。

 

このように「住民票があるから同居していたんですね」などと、簡単に認めてくれるわけではありません。相続税対策には、いろいろな方法があります。こんな危険な橋を渡らなくても、正攻法でいくのがおすすめです。

 

【動画/筆者が「小規模宅地特例と税務調査」について詳しく解説

 

橘慶太
円満相続税理士法人

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