「やる気があるから勉強する」の根本的な間違い
「やる気、モチベーションで乗り切ろうとする」人は、それがかえって逆効果になっていることに、まず気づくことから始めましょう。
「どのように勉強のモチベーションをキープすればよいでしょうか」という質問は、高校生だけでなく、社会人の学習者からもよく聞かれることです。
確かにやる気はないよりあるに越したことはありませんが、あまり重要視すべきものでもありません。なぜなら、「やる気があるから勉強する」というのは「やる気がなければ勉強しない」ということと表裏一体だからです。勉強を続けるために本当に重要なのは、「やる気がなくても続けられる仕組み」を持っておくことです。
受験勉強に取り組むことは、定期テストのために一夜漬けをするのとは性質が違います。たった一晩頑張るだけなら、やる気に任せて乗り切ることもできるかもしれませんが、受験は人によっては数年を要することもある長丁場です。それを、ずっとやる気に満ちた状態で過ごすのは不可能なことです。
そもそも、「やる気」「モチベーション」というのは気分です。気分はその時々で移ろいやすいもの。朝はやる気が満ちていたけど、午後から急にやる気がしぼんだ、という経験は誰しもあるものです。
モチベーションは上がり下がりのあるのが当たり前で、ずっと高い状態で維持されるようなものではないということを、前提として理解してください。そうした不安定なものに頼るのは、得策ではないのです。
医学部や難関大学に合格していった生徒で「やる気があるときだけ勉強していた」という人を、少なくとも私は見たことがありません。いつも決まった時間に、必要な量を着実にこなしていく、そんな生徒が多いものです。
やる気を重視し過ぎるあまり、やる気を出すコツやモチベーションアップ術を学ぼうとする人がいたら、遠回りなのでやめましょう。そんなことをするより、「やる気がないときでもやれる仕組み作り」つまり「習慣化」をして、勉強を日常の一つに組み込んでしまうのが近道です。
勉強を習慣化するコツ「始めるハードルを下げる」
気分が乗らないときでも、少しくらい嫌なことがあったときでも、逆にうれしいことがあったときでも、それに影響されることなく決まったことをしっかりと実行できる。やる気に左右されないというのは、そのような安定感を作ってくれるものです。
やる気に左右されずに学習を継続できることはなにも、「強い気持ち」や「努力の才能」といった精神的なものによって成し遂げられるものではありません。
学習の継続を達成させているのはむしろもっと技術的なものです。では、具体的にどうすればよいか。6つのコツを伝授します。それぞれに共通している勉強の習慣化の最も大切なキーワードは、「始めるためのハードルを下げる」です。
コツ1 すぐに勉強を始められる環境にしておく
行動を起こすときに邪魔になるものを取り除くことによって、勉強に取りかかるハードルを下げておくのです。
例えば、勉強を始めようとしたときに、目の前にスマホが置いてあると、つい手に取ってしまい、気づけば1時間が経過していたということがあります。これはスマホを目の前に置くという行為によって、結果的に勉強を始めるハードルが高くなっている状態です。そこで、スマホや漫画のような勉強の妨げになる誘惑は目に入らない場所へ。塾や予備校の自習室のように、「勉強するしかない」状態に持っていくのです。
誘惑に負けないように気合いで耐えるとか、邪魔があっても頑張る精神力が大切とか、そんな精神論は無駄なものです。物理的に誘惑を絶ってしまえば、余計なことに力を使わずに済みます。
コツ2 前の日に「次の日、最初にやること」を決めておく
机に着いてから、「さあ何から始めよう」と考えていたのでは着手が遅くなり、あれもこれもと無駄な時間を費やしてしまいます。この迷っている時間も、一つのハードルになってしまうのです。
それを避けるためには、その日、最初にやることを前日に決めておきましょう。翌日、最初に取りかかる問題集のページとノートを開いて、ペンや消しゴムも片づけないでそのまま置いておく。すると、机に着いただけで勉強がスタートできるので、ハードルはかなり下がります。
コツ3 5分だけやってみる
勉強習慣が身についていない人におすすめは、「まずは5分だけ」と思って始めることです。「これから2時間ぶっ続けで勉強するぞ」と思うとなかなか机に向かえなくても、「5分だけ勉強したらやめてもよい」と思って始めれば、ハードルはぐっと下がります。やってみると分かりますが、5分くらい勉強する頃には、勉強をもう少し継続してもいいかなと思えるようになっているはずです。
これは、心理学者のクレペリンが発見した「作業興奮」と呼ばれる状態を利用した方法です。始めはやる気がなくても手を動かし、脳を働かせることで、脳の側坐核と呼ばれる場所から、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌されます。このドーパミンには人間のやる気を引き出す働きがあるそうです。
このドーパミンの効果は、やり続けることによってどんどんアップします。やる気がアップすれば、さらに脳の働きが加速度的によくなります。無理をすることなく、勉強を続けることができるのです。
やる気は待っていても湧いてきません。とりあえず、少しだけ。まずはやってみるくらいの気軽さが、勉強を始め、続けるためのコツなのです。
コツ4 簡単なものから始める
勉強に取りかかる最初の5分。この5分のために軽めのものを用意しておくのがおすすめです。計算トレーニングや前日の復習などがよいでしょう。入試問題のような重い内容に急に取り組もうとすれば、たった5分すら乗り越えられないということにもなりかねません。
参考までに、私たちの予備校では、前日に扱った内容について翌日に復習テストをしています。前日の内容を解くことで、脳の準備体操をするイメージです。ポイントは、あまり深く考え込むことなく、手を動かして始められるもの。手を動かしているうちに、最初の5分は乗り越えているはずです。
コツ5 飽きたら休む
勉強を始めてしばらく経ち、気分も乗ってきた。けれど、なんだかまた面倒になってきた。そういうときは「飽きた」状態です。そうなったら、いったん休んでください。無理に続けても非効率です。
ただし、休む時間と再開の仕方を決めておきましょう。5分、10分休んで、再開時にはこれをすると決めておくのです。あまり長く休憩を取ると、再開する際にまた面倒だと感じてしまいますから、短く休むのもコツです。
再開時には、続きの内容から始めなくても構いません。なにしろ、中断の理由は飽きてしまったからなのです。やりたくないと感じることから再開するのはハードルの高いことです。別のことをやっているうちに、また気分が変わることもあります。
いずれはそこに戻ってくることになるので、そのときにクリアすればよいだけのことです。「飽きたら休む」「飽きたら変える」というのは、長く学習を続けるために有効な技術なのです。
コツ6 「面倒くさい」だけ乗り切ればいい
「勉強が面倒だ」と思うことと、「勉強が嫌いだ」ということは混同されやすいものですが根本的に違います。
勉強とは知らないことを知ることであり、できなかったことができるようになることです。新しい知識や技術を身につけることそのものが「嫌いだ」という人はあまりいないと思います。ただ、何かを身につけるのにはある程度の時間がかかるし、一定の労力もかかります。すぐに結果が出るものでもありません。だから、面倒だと感じるのは普通の感覚です。
おそらくあなたも勉強が嫌いなのではなく、ただ面倒くさいだけなのです。それならば、解決の方法があります。嫌いなものを好きになるのは難しいですが、面倒くさいだけなら大丈夫。
まず、勉強が嫌だなと感じたときに、「これは面倒なだけだ」と自覚してください。自分は勉強嫌いなんだと誤解して思い込んでしまうと、勉強に向いていないのではないかとコンプレックスを抱いてしまうことにもなりかねません。ここはしっかり「面倒」と「嫌い」を切り離しましょう。
そうしたうえで、手を動かしてみる、頭を少し使ってみる、そんな小さな取り組みで面倒な気持ちは克服していくことができます。
大学入試は着実に取り組みさえすれば、すべての人に合格の可能性があります。ただ、着実に取り組める人が少ないから、大学入試は人生における大きなハードルといわれるだけなのです。毎朝毎晩ほとんど無意識で歯磨きをしてしまうように、勉強を当たり前のことにできれば、来春の合格を大きく引き寄せることができるに違いありません。
テストの点数より「目標通り勉強したか」を重視する
「テストの点数に一喜一憂」してしまう人は、結果よりもプロセスにフォーカスするようにしましょう。
結果を決めるのは、「行動」+「運や状況」です。運や状況はコントロールできませんが、行動はあなたがコントロールできる部分です。ここに目を向けるのです。
「単語テストで満点を取る」というのは結果。それに対して、「前日までに単語帳の該当範囲に10回目を通し、英単語を見たらすぐに日本語訳を口に出す」は行動です。単語テストで満点を取ること自体は結果ですから、頑張ったけれど失敗したということもあるでしょう。しかし、そのための準備をやったかやらなかったかというのは行動ですから、完全にコントロールできます。
正しい手順で行動が行われていれば、高い確率で望む結果が得られるものです。入試をパスするというゴールがあるなら、するべきことを、実際の具体的な行動に分割して、丁寧にそれを遂行していくことです。
学び舎東京PLUS