我が子は「発達障害」…普通に学校に通うことはできますか?

社会の変化のスピードに比べて、なかなか変わらないと揶揄される「教育現場」。一方で、「自分たちが子供のころとはずいぶんと変わった」などと、その変化の大きさに驚かされる時もある。いま、教育の現場では何が起こっているのか。今回は「特別支援教育」について、現役の小学校教師として活躍する中村歩氏が解説する。

大きく3つに分かれる「特別支援教育」

みなさんは現在公立の小・中学校でどのような特別支援教育が行われているか知っていますか。目まぐるしく変化する社会同様、教育の世界も日々変化しています。そのため、在学中の子どもをもつ保護者世代でもない限り、最新の教育事情は分かりませんし、保護者世代であっても理解しようと努めなければ正しく理解できるものでもありません。教員であっても特別支援教育のことはよく分からないという人も正直いるほどです。

 

「特別支援教育」という言葉、聞き慣れないという方もいると思いますが、以前は「障害者教育」と呼ばれていました。現在の教育界ではその言葉は使われず、「特別支援教育」と呼びます。

 

そこで、「特別支援教育」とはどのような流れのなかで生まれてきたのか、特別支援教育の歴史について少しふれていきましょう。

 

戦後、教育基本法・学校教育法が公布されたことにより盲学校・聾学校・養護学校への就学が義務化されました。ただし、重度の障害者に対しては就学免除・就学猶予の措置が執られ、ほとんどの場合就学が許可されませんでした。

 

そんな状況を受け、1979年、盲・聾・養護学校の義務化が決定します。前年に就学猶予、就学免除が原則として廃止されたこともあり、重度・重複の障害者も養護学校に入学できるようになりました。その一方で普通学級からの障害児の排除が見られるようになっていきました(後述する特別支援への偏見はすでにこの時から始まっていたのかもしれません)。

 

そんな状況が長らく続いた後の平成13年、それまでの「障害者教育」という呼称をやめ、「特別支援教育」という呼称が採用されるようになります。

 

平成18年、学校教育法の一部が改正され、文部科学省では「障害のある幼児・児童・生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児・児童・生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、そのもてる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うこと」を「特別支援教育」として、平成19年4月から学校教育法に位置付けます。すべての学校において、障害のある幼児・児童・生徒の支援を行うとしたのです。これにより正式に特別支援教育の実施が始まり、盲・聾・養護学校を「特別支援学校」に一本化します。

 

このように書くとみなさんのなかには「特別支援教育=特別支援学校=もと盲・聾・養護学校」というイメージをもつ人がいるかもしれませんが、実際はもっと広い範囲に及びます。「特別支援教育」の形は大きく3つに分かれます。

 

 

●特別支援学校

「特別支援学校」とは、学校全体が特別な支援を必要とする児童のために作られています。教育活動全般において特別な支援を必要とする児童・生徒を対象として設置された学校です。対象者は、知的発達に大きな遅れのある場合や視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、病弱な状態で個々の状態に合わせた療育(障害による不自由を減らすトレーニング)を必要とする児童・生徒となります。

 

●特別支援学級

通常の学校のなかにある学級であり、知的学級とも呼ばれます。障害の種別ごと(知的発達に遅れのある場合、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害※情緒障害のなかでも、選択性かん黙など)の学級を編成し、子ども一人一人に応じた教育を実施しています。みなさんがよく知る「1年1組」などの学級と一緒に同学校内に存在します。在籍する児童・生徒は小・中学校に設置されたその学級で教育課程のすべての指導を受けます。各区や各校によってクラス名は工夫されていることが多いです。

 

●通級指導学級(情緒障害等通級指導学級)

これまで通常級に通う障害のあるある子どもに対しての教育の場として、東京都だけでなく全国で設置・実施されてきた教室・指導のことです。

 

簡単に言うと、普段は通常の学級に通う様々な障害のある児童・生徒が、週に何時間かそこを抜け、他校に設置された専門的な学級に通う、それが「通級」です。つまり全教育課程をそこで受ける特別支援学級と異なり、教育課程の一部指導を在籍校以外の専門的な学級で受けるものをいいます。かん黙以外の情緒障害(情緒の現れ方が偏っていたり、その現れ方が激しかったりするもの)、学習障害や注意欠陥多動性障害、難聴や言語障害などのある児童・生徒に対する教育の場となっています。

※すべて「知的発達の遅れがないこと」が前提となっています。

 

東京都以外は今でもこのスタイルをとっている自治体が多いかと思われます。一方、東京都では、特別支援教育(情緒)について、通級から以下のようにシステムを変更しました。それが「特別支援教室」と呼ばれるものです(東京都でも、難聴や言語障害のための「ことばときこえの教室」等では今まで通りの通級による指導が行われています)。

 

●特別支援教室

東京都は平成28年度より準備の整った区市町村から順次通級をやめ、すべての小・中学校に「特別支援教室」を設置し、専門の教員が巡回して指導・支援を行うことで、発達障害のある児童・生徒に対する在籍校における指導・支援の充実を図ることを公表しました。

 

通常の学級に在籍する発達障害による困難さがある、または情緒障害のある児童・生徒を対象として、特別支援教育を担当する教員が各学校を巡回して指導することにより、これまで通級指導学級で行ってきた特別な指導を児童・生徒が在籍校で受けられるようにするものが特別支援教室です。制度上は、国の通級による指導に位置付けられるものであり、対象者及び指導内容はこれまでの通級指導学級と同様です。

 

出所:筆者作成
[図表1]特別支援教室イメージ 出所:筆者作成

特別支援教室の対象の一つである「発達障害」とは?

通級や特別支援教室に通う対象児童のなかには発達障害による困難さのある児童・生徒が含まれます。発達障害という言葉は、「発達障害者支援法」という法律で初めて、法律上の用語として取り上げられました。同法の第一章第二条において、「発達障害は自閉症、アスペルガー症候群やその他の広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と定義されています。

 

※以下は特徴的な例であり、他の面が表出したり、複合的に表れたりすることも多分にあることをご承知おきください。

 

●注意欠陥多動性障害(ADHD)

不注意(集中力のなさ)、多動性(落ち着きのなさ)、衝動性(順番待ちができないなど)の特徴がよく見られます。すべてが悪いというわけではありませんが、思いついたらすぐ行動に移したり、授業中でも席を立ったり歩き回ったりしてしまうことがあります。後述する「自閉症スペクトラム障害」とよく混同されますが、「自閉症スペクトラム障害」は、コミュニケーションや対人行動に困難を抱えるものを指し、この「ADHD」に「対人関係」はありません。

 

●学習障害(LD)

教育の世界においては、【Learning Disabilities】の略とされます。知的な遅れがなく、充分な教育歴と本人の努力があるにもかかわらず、たとえば字を読んだり、書いたりすることだけが困難な状態と定義されます。「文字間や単語間が広い場合は読めるが、狭いと読み誤りが増えて行を取り違えてしまう」、「音読不能な文字を読み飛ばしてしまう」、「文末などを適当に変えて読んでしまう」、「助詞のはをわと書いてしまう」「形態的に類似した文字のめとぬを書き間違えてしまう」などが例として挙げられます。最近では、それも子どもの大切な個性の一つであるという観点から【Learning Differences】(学び方の違い)と表現する学者もいます。

 

●自閉症スペクトラム障害

「自閉症スペクトラム障害」とは、「自閉症」を広くとらえた新たな概念で、昔で言う「自閉症」と「アスペルガー症候群」の2つのことを指します。どちらの子どもも雰囲気を読むのが苦手、コミュニケーションが苦手、興味や活動に偏りがあるなどを類似点としてもっていることが多いです。

 

ある学者は、「自閉症」は、話に全く応じない、目も合わせないといった、自分のなかに閉じこもってしまったような非常に極端な症例だけを言い、「アスペルガー症候群」は、流暢に話し、積極的にコミュニケーションを取ろうとすることもあるが、相互的な対人関係が難しく、想像することが苦手で融通が利かないといった病態を言うと定義しました。ただ、この2つを明確に区別することは難しく、「自閉症」の概念を広げた「自閉症スペクトラム障害」という概念が生まれたとされています。

 

通常、会話のなかに入っていこうとするときには、その場がどのような雰囲気なのか、どのような話をしている最中なのかを確認することはコミュニケーションにとって重要なことです。しかし、自閉症スペクトラム障害の子どもは、いきなり会話に割って入って、自分が思いついたことを喋り出してしまうことがあります。そのため、周囲の人から「空気が読めない」と思われてしまうこともしばしば。特定の物に強いこだわりをもつといった特徴が見られることもあります。

 

たとえば、電車の踏み切りが好きな子どもは、色々な踏み切りを見に出かけます。くるくる回るものに強い関心をもっている子どもは、扇風機などが大好きでずっと見ていても飽きません。これらも、その子どもの個性であり、尊重すべきものであることに間違いはありません。

 

上記3例とも知的発達の遅れがないことから、一見すると「ちょっと変わった人」程度に認識されることがあります。

 

出所:筆者作成
[図表2]発達障害のアウトライン 出所:筆者作成

東京都が推進する「特別支援教室」の課題

では、通級から「特別支援教室」にシステムが変更したことで何が変わったのでしょうか。

 

通級では、早退という名目で学校を抜けることができたため、周りに知られたくないという保護者にとっては都合が良かったとされています。一方で、通級は送迎が必要で、保護者の負担は大きいものでした。また、通級指導学級の担当教員と在籍学級担任との学校が異なることによる連携の図りにくさも問題点として挙げられていました。

 

特別支援教室となったことで、学校全体で協力体制がとれ、連携が図りにくいという問題点を解消することができました。また、通級で他の学校に行くのは躊躇するけれど、「自校で指導が受けられるなら」と利用する家庭が大幅に増えた点も成功した点の一つであると言えます。さらに、保護者による送迎がなくなったため、家庭の負担も減りました。しかし、同じ校内にある教室に移動するため、周囲(特に友だち)の目が気になるという児童や保護者の声も聞かれるようになりました。

 

保護者のなかには、

 

・発達障害であること自体、受け入れられない

・発達障害であることを受け入れても、全教育課程を通常級で受けさせたいという強い希望をもっている

・発達障害であることを受け入れ、なおかつ必要性も感じているが、周囲の目が気になる

・発達障害であることを受け入れ、なおかつ必要性も感じているが、子ども自身が嫌がっている

 

などの理由から、特別支援教室への入級をためらったり、断念したりすることがあるようです。

 

また、子ども自身も、

 

・特別支援教室は、問題ある児童が行く所と誤解している

・友だちにバカにされると思っている

・好きな授業を抜けなくてはいけない(算数などの主要教科は抜けてしまうと遅れが出てしまうため、体育など児童に人気の授業と置き換えることが多い)

 

などの理由から、特別支援教室への入級を躊躇するケースが見受けられます。

 

文部科学省が行った2012年の調査によると、通常学級に通う児童・生徒の約6.2%(約16人に1人)が何らかの発達障害をもつとされています(そのすべてが特別支援教室や通級による教育を必要としているというわけではありませんが、都教育委員会が行った全公立小・中学校を対象とした発達障害のある児童・生徒に関する調査によると、これら発達障害の可能性がある児童・生徒のうち、小学校では48.9%、中学校では28.3%の児童・生徒が、在籍学級における一部の授業を抜けて特別な指導を受ける必要があるとしています)。

 

文科省の公表する別の資料によると、全国で約7万人の児童生徒が特別支援学校に、約23万5000人の児童生徒が特別支援学級に、約11万人の児童生徒が実際に通級や特別支援教室に通っていることから、全国の児童生徒1,000万人として計算すると、約24人に1人が特別支援教育を受けていることになります。ただ、特別支援教室(通級)に限っていうと、約1.1%(約90人に1人)しかその教育を受けていないことになります。

 

先ほども述べましたが、東京都では、特別支援教室にシステムを変えてから利用者が増加し続けています。16人に1人という割合の児童・生徒のすべてが特別支援教室や通級による教育を必要としているわけではないという点を考慮しても、約90人に1人という現状にはまだまだ課題があると言わざるをえません。「教室の人数に制限があること」や「特別支援教育を担当する教員が不足していること」など理由は様々挙げられますが、やはり先に述べた「世間の偏見」もその理由の1つに挙げることができるのではないでしょうか。

 

発達障害の疑いがある子どもをもつ保護者にとって「それらを受け入れられない」「通常級で全教育課程を受けさせたい」という葛藤や希望は当たり前のものであり、その葛藤は誰しも想像に難くないでしょう。

 

その葛藤をクリアしたとしても、周囲の目が保護者を苦しめます。発達障害の子どもをもつ保護者(特にお母さん)は、クラスのお母さん仲間のなかでも辛い思いをしていることが多いです。お母さんたちの何気ない一言に涙を流す方もいるほどです。

 

周りの目など気にせず、特別支援を必要としている子どもやその保護者が当たり前のようにこの制度を活用できる環境を、世の中が協力して作りあげていくべきだと筆者は考えます。

 

そのために「特別支援教室の役割を正しく理解してください」。

 

特別支援教室は「濃さの違いこそあれ、もっている個性により、学校生活に困難さがある児童・生徒」がそれらを克服し、より楽しい学級生活を送ることができるようにするための場です。本校では特別支援教室に通うクラスの友達がクラスになじんでいく姿を見て、自分から入級を申し出た児童もいますし、しばらく特別支援教室に通った後、「もう大丈夫」だとして退級した児童もいます。

 

「特別支援への偏見や差別をなくしてください」。

 

保護者や地域の方などの大人が差別的な発言や態度をとらない限り、子どもからそのような発言や態度をとることは絶対にありません。くれぐれも子どもの前でそのような発言や態度をとらないよう心がけてください

4者の努力と協力で「特別支援教室」の充実を

「保護者」「教員」「児童」「地域の方」それぞれにお願いしたいことがあります。

 

【保護者】

・自分の子どもが発達障害等を持っていることは恥ずかしいことでも何でもありません。むしろ自分からがんばろうとする我が子を受け入れ、応援してあげる気持ちをもってください。

 

・他者からの目や自分のプライドよりも、子どもにとって何が最良なのかを第一に考えてください。

 

・「自分の困り感」ではなく「子どもの困り感」を大切にしてください。

 

・入級させるタイミングを見誤らないでください。

 

※たとえば、子どもが学級で問題を起こし、担任から連絡が来たとしましょう。その電話の後、「そんなことなら特別支援教室に入れちゃうからね。」などと発言した場合、本来、前向きに通って欲しい教室が子どもにとって罰を与える場となってしまいます。

 

【教員】

・特別支援教室に通う児童が学級にいる場合、担任は時間になるとその児童を特別支援教室に送り出す必要があります。そのとき、本人やクラスの他の児童にいかに声をかけるか、その声かけが他の児童からの差別を生んでしまったり、本人のやる気をそいだりしてしまうこともありえます。逆にその声かけの内容次第で、より前向きにがんばって教室に通おうとやる気を出すこともあるのです。教員はその声かけの重要性を深く認識し、研鑽を積む必要があると考えます。

 

・自分の学級の児童が特別支援教室へ入級が必要だと感じたとき、「いかに保護者に伝えるのがよいか」、「誰が伝えるのがよいか」、「どう伝えるのがよいか」、「本当に必要なのか、すすめるべきか」、やはりそれはケースバイケースとなります。特別支援教育は単純に「○か×か」で分けられるものではないからです。

 

筆者としては、保護者が「困り感」をもって相談に来たときではなく、普段の学校生活で子どもが「困り感」を吐露したときがベストなタイミングだと感じています。ベストなタイミングでベストな方法を経由して保護者に理解してもらう(入級につなげる)には、それなりの力量が必要であり、教員にはそれを高める努力が求められます。

 

【児童】

・他の保護者や友だちからの言葉など気にせず、「自分がよくなるために行くんだ」という強い気持ちをもってください。

 

・苦しいときに誰かに困り感を相談できるようになってください。SOSを上手に出せるようになりましょう。

 

【地域の方】

・「自分の子どもに発達障害がある」ことを受け入れることはその子どもをもつ保護者にとってどれほど大変なことかを理解してください。地域の方が特別支援を偏見の目で見てしまっては、さらに入級のハードルを上げてしまいます。入級がベストだと思っても、地域の目が気になって躊躇する家庭、苦しんでいる親子がいることを理解した上で偏見をなくす努力をして欲しいと願います。

 

4者それぞれにお願いしたいことをあげましたが、これはどれか1者だけが努力すれば良いというものではありません。4者が特別支援教育に正しい理解をもち、改善に努めることで、特別支援教室は「周りの目など気にせず、児童・生徒が当たり前に利用できる」「周りの目など気にせず、保護者が当たり前に入級を後押しできる」、より充実した場になるでしょう。

 

筆者の教員人生のなか、特別支援学級に在籍したり、通級に通ったりした教え子が、自分らしくステキな大人になって社会で活躍する姿をたくさん見てきました。

 

子どものことを第一に考え、世の中全体でサポートができる、そんな素敵な家庭や地域を目指していけたらと考えています。

 

東京都板橋区内公立小学校
 主幹教諭

東京学芸大学小学校課程社会科卒。文京区立金富小学校、足立区立花畑小学校、現任校に従事。各区で社会科副読本改訂委員、社会科教科書採択委員、不登校対策委員を経験し、現在に至る。2014年より現職。生活指導主幹として「いじめの早期発見・見逃しゼロ」のほか、「不登校児童の学校復帰率UP」に注力する。

著者紹介

連載現役小学校教師が語る「教育現場」のリアル

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