「いじめはゼロにできますか?」に対する現役小学校教師の回答

社会の変化のスピードに比べて、なかなか変わらないと揶揄される「教育現場」。一方で、「自分たちが子供のころとはずいぶんと変わった」などと、その変化の大きさに驚かされる時もある。いま、教育の現場では何が起こっているのか。本連載では現役の小学校教師として活躍する中村歩氏が、教育現場のリアルな実情を語る。今回のテーマは「いじめ」である。

「いじめ報道」に対する、教師としての疑問

先日、いじめを訴えた児童の文書にコメントを入れて、教室に1週間掲示した教員について、ネットや新聞上で話題になりました。児童の悲痛なSOSをこのように無下に扱ったことに対し、同じ教員として大変遺憾に思います。

 

また、今夏はいじめにより自殺をしてしまった中学生の事件も世間で大きく取り上げられました。

 

その報道に関連して、「該当生徒の訴えを無視した担任や学校に罰を与えるべきか」とのアンケート結果を目にしました。そのなかで、「厳罰を与えるべき」「罰を与えるべき」との回答が7割以上にのぼったと記憶しています。

 

この案件は被害児童から訴えがあったにも関わらず、担任は対応を怠り、学校は教育委員会の調査に対し事実を隠蔽した、という内容だったので、結果には納得できますし、我々学校側は真摯に受け止め、改善しなければなりません。

 

ただ、この報道に対し、現場の教員として感じたことがあります。


1つ目は、今回の事件が誠心誠意、親身になって対応・指導した上で起こってしまった事件だった場合、世間の反応はどうなのか、という点です。対応・指導したにも関わらず、不幸にも(不幸で済ませてはいけない内容であることは重々承知しています)起こってしまった案件について、世間のイメージが上記と同じだとしたら教員はやるせない気持ちになってしまいます。

 

2つ目は、本当にこの数値が世間一般のイメージなのかという点です。こういった報道を読むと読者はこの数値があたかも世間全般の意見のように思うことでしょう。この報道に寄せられたコメントは筆者が見た段階ではまだ3件程度でしたが、そのいずれもが「加害児童の親の問題でもあって、教員にだけ責任を押しつけるのは酷である」というものでした。

 

正直「わかってくれている人もいる」と安心いたしました。数パーセントの人へのアンケートをあたかも世間全般の意見かのように錯覚させてしまう報道は、現場で働く教員を苦しめています。

「いじめ把握」のアンケートが形骸化している

前述の案件もそうでしたが、なぜ、学校がいじめを隠蔽したり、いじめに気付かずに児童生徒が自殺してしまったりするケースが起きるのでしょうか。

 

文部科学省は、その原因を各都道府県や各学校、各教員による「いじめの捉え方の差」「いじめ認知に対する意識の違い」にあるとしています。東京都では、学期に1回、ふれあい月間(6月・11月・2月)に、いじめに関するアンケートを実施しています。その結果(いじめの認知件数等)を教育委員会に報告するわけですが、文部科学省の調査では、児童生徒1,000人当たりのいじめ認知件数は、最多の都道府県と最少の都道府県とでは30倍以上の開きが生じているという結果を公表しています。その認識の甘さがいじめの見逃しを招いているというわけです。

 

もちろん、そのようなこともあるでしょう。しかし筆者は、文部科学省や教育委員会から依頼のあるいじめアンケートを、「単なる報告のためだけの事務的作業ととらえて取り組む」か、「今後の指導に継続的に活かすための貴重な材料を生み出す、重要な作業ととらえて取り組む」かという、取り組みに対する考え方の違いにあると思います。

 

学校によっては、「ふれあいアンケート調査が件数を把握し、報告するためだけのもの」、もしくは、「聞き取りはしたという事実作りのためだけのもの」になってしまっている可能性があると考えます。つまり、アンケート調査が本来の目的を外れ、形骸化していると言えるわけです。

「いじめ」をゼロにすることはできない

現在、いじめの定義は、「心理的又は物理的(※インターネットを介したものを含む)影響を与える行為により、当該行為の対象となった児童生徒が心身に苦痛を感じているものをいう。」とされています。

 

簡単にいうと「相手が嫌だと感じたらすべていじめ」ということになります。

※たとえば、書き写す作業がゆっくりなAさんにBさんが「早くやりなよ」「ここを書くんだよ」といい、Aさんが「いやだな」「うるさいな」と思ったら、「いじめ」として数えなければいけないのです

 

※「強い者から弱い者への行為の中で」や「継続的に」といった文言が含まれていることもありましたが、現在ではその文言は定義から除かれています。

 

筆者が勤める小学校では、人間が相手である以上、必ずいじめは起こりえると考えます。「いじめが起こるのが当たり前なんて学校の先生が言っていいのか」との意見を持たれる方もいると思いますが、「相手が嫌だと感じたらすべていじめ」というのが現在のいじめの定義である以上、いじめと認知せざるをえない事案はどうあっても起こってしまいますし、報告数もどんどん増えてしまいます。

 

上記をいじめの定義として、いじめの件数をカウントすると、ほとんどの学校のいじめ認知件数は学期に数十件を数えます。

 

一般的に、学年が上がるにつれ、件数は増え、いじめの内容も複雑でより陰湿になっていきます。筆者は小学校の教員ですが、この調子で小学生が中学生になったら、いじめの対応件数はどれほどの数になるのか、そして、どれほど複雑で陰湿な事案になるのか、想像に難くありません。

 

中学生の場合、逆にアンケート等で訴えないという生徒も増えることでしょう。上述の中学校を擁護するわけではありませんが、そう考えると中学校の先生の生活指導の大変さは、推して知るべしです。同情すら感じます。

 

いじめをなくすことは難しい
いじめをなくすことは難しい

小学校で行われる「いじめ」に対する取組みの具体事例

このような現況から、本校では「いじめ0」ではなく、「いじめ早期発見」「いじめ見逃し0」を学校の経営方針に掲げています。

 

では本校ではどのようにいじめに対応しているのか、その取組みをいくつか紹介します。

 

①「学校いじめ防止対策基本方針(概要版)」を全家庭に配布

②学期に1回ふれあいアンケート実施(その結果の活用方法については後述)

③学期に最低1回 いじめに関する教材を使って道徳の授業を実施

④5・6年生を対象に「Hyper QU」を年に2回実施(Hyper QUの詳細については後述)

⑤スクールカウンセラーによる5年生への全員面接を実施

⑥「SOSの出し方」指導の実施

⑦学校独自のいじめ一覧表を作成

 

①は、いじめへの対応は「家庭と学校の協力があってこそ」という考えのもと、以下のようなプリントを全校児童に配布して、家庭にいじめへの理解を呼びかけています。

 

筆者が勤務する小学校で配布する「「学校いじめ防止対策基本方針(概要版/表)」
筆者が勤務する小学校で配布する「「学校いじめ防止対策基本方針(概要版/表)」
筆者が勤務する小学校で配布する「「学校いじめ防止対策基本方針(概要版/裏)」
筆者が勤務する小学校で配布する「「学校いじめ防止対策基本方針(概要版/裏)」

 

②は、いじめを受けているか認知するためのアンケートです。質問項目は、「いじめられていると感じたことがありますか」や「嫌な思いをしていますか」といった直接的な聞き方となっています。アンケートで訴えのあった児童全員に対して担任が聞き取りを行い、関係児童等に指導、その後いじめ対策委員会という機関に報告、そこで重篤だと判断した案件についてはいじめ対策委員会において対応します。

 

④の「HyperQU」は、別名「よりよい学校生活を送るためのアンケート」と呼ばれ、「自分は学級で役に立っていると感じる」などの前向きな文言を使ったアンケートになります。マイナスの表現に対して、子どもはマイナス思考にしかならないという考えから作られたとも言われています。上述のふれあいアンケートの質問の文言とは対極をなすものです。

 

⑤は、東京都としての取組みで、人間関係が複雑になり始める、また、思春期に入ると言われる5年生に対し、スクールカウンセラーによる全員面談が義務づけられています。

 

⑥は、文部科学省が行った、子どもたちの悩み事の相談先をたずねる調査を元にした指導です。1位の「家族」に次いで多かったのが、教員ではなく、「友だち」でした。教員は数々の研修においていじめへの対応の仕方を勉強していますが、保護者や子どもたちにとっては、なかなか相談しづらいというのが現状です。相談先の1位と2位が保護者と友だちである以上、教員の研修以上に保護者と子どもへの指導が大切であるという考えは至極当然の流れといえるでしょう。

 

そこで今重視されているのが、被害者側の「SOSの出し方指導」や相談された友だちの「声かけの仕方指導」といったものです。SOSの出し方を知っていれば、言い出せないうちに事態が深刻化する事態を防ぐことができる。また、相談を受けた友だちが適切な声かけをできれば、悩んでいる子どもの気持ちを軽くすることができる、というわけです。

 

本校では土曜授業プランの際、保護者や児童に向けて、校長から声かけや声の出し方について講演を行いました。

※SOSの出し方の例「悩みがあるのですが少しお時間いただけますか」

※悩みを相談された際の声かけの例 「がんばって」は禁句であるなど

 

⑦ ②のアンケートの結果を学校独自の一覧表にまとめます。この表を

 

1.全教員でいじめに悩む児童を共通理解し、その児童のことをみんなで見守る

2.次の学期や次の年度もその表を使って継続的に経過を観察する

 

ために活用します。また案件を「いつ、どのような状態をもって解決済みとするか」についても明確な基準を設けています。逆に上記基準にのっとって「解決済み」とならない以上、本校に在籍中は常に継続して観察や指導を行い、クラス分けの際もそれらを考慮したり、引き継いだりするわけです。上記で述べたように「報告のためだけに使う」のではなく、今後の指導に継続的に活かすための貴重な材料」として活用していると言えます。

 

さらに本校では今のところ実施してはいませんが、筆者が今まで見聞きした取り組みの中で有効であると思えたものについても紹介します。

 

■「無記名Ver.のアンケート」の実施

「ふれあいアンケート」や「HyperQU」のような記名ありのアンケートでは訴えることができない児童もいるはず、という考えから作成する学校が多いです。これは記名式のアンケートと併用すると絶大な効果を挙げると言われています。

 

■「自由記述タイプのアンケート」の実施

上述した「ふれあいアンケート」や「HyperQU」のように質問項目が何点かあり、それらに選択肢で答えるタイプのアンケートではなく、訴えたいことがある人は自由に書きましょうという記述式タイプのアンケートです。

 

なかには、「訴えたい人だけ書きなさい」という形式のアンケートだと、書いている音で誰が書いているか周りの友だちにわかってしまうからと、書く内容がない児童には指定された文章を視写させるなど、様々な配慮や工夫をしている学校もあります。

教師でも難しい「被害者児童の対応」

いじめの対応で現場の教員が悩んだり苦労したりしていることについて、あくまで一例ですが挙げてみましょう。

 

■「親には言わないで」という被害者児童の訴え

子どものなかには「保護者には言わないで」と訴えるケースがあります。この場合、保護者に伝えた結果、児童が担任への信頼をなくし、次回から相談しなくなる、という事態が起こりえます。逆にそれが「言ってほしい」の裏返しの時もあります。そうは言ったけれど実は言ってほしかったという場合です。かくいう筆者も若いとき、子どもの言い分通り保護者に言わずに対応した事案がありましたが、その児童が大きくなって再会したとき、「今だから言うけど、先生、実はあの時本当はお母さんに言ってほしかったんだよ」と笑いながら言われたことがあります。

 

■「加害者児童に言わないで」という被害者児童の訴え

一番多いのは「加害者には言わないで」と訴えるケースです。これが一番やっかいかと思われます。その多くは「仕返しが怖いから」というものです。その児童の気持ちは大変よくわかります。ただ、子どもの訴え通り全体に抽象的な指導をしたとしても、正直、加害児童には響きません。加害児童の多くは、教員の話を「自分とは関係ない話」と受け止めがちだからです。

 

逆に子どもの訴えに反し、加害者に直接指導した結果、児童が担任への信頼をなくし、次回から相談しなくなるだけでなく、被害者児童の心配していた通り、いじめがよりエスカレートしてしまうという危険性もはらんでいます。

 

現場の教員はそれらを見極めて適切な指導をする必要があるのです。見極めたり適切な指導をしたりするためには、相当の経験を積む必要がありますし、経験を積んだからと言ってうまくいくとも限りません。やはり案件はケースバイケースであり、こういった案件はこうやれば絶対うまくいく、という「答え」がないのがいじめへの対応なわけです。

「いじめ加害者への対応」が進まない理由

実は数年前に各校での作成が義務付けられた「いじめ防止対策基本方針」には「いじめ加害者への対応」も定められています。学校側が加害者の登校を拒否したり、別室や自宅での学習を命じたり、警察へ引き渡したりしてもよいというものです。

 

ただ、残念なことに文部科学省の問題行動調査(問行調査)において、筆者が関わり始めたここ数年で、それらの対策を取ったという報告は1件もありません。

 

なぜなのでしょうか。

 

考えられる理由は、大きく3つあります。1つ目は、加害児童に前述のような対応をする前に被害者の児童が不登校になったり、別室登校になったりしてしまうからです。そのため加害児童は何事もなかったかのように教室で過ごすことになり、いじめは教室の中を見る限り解消したように錯覚してしまうのです(実は全く解決に至っていません)。

 

2つ目には、保護者の謝罪をもって、いじめは解決したとする傾向が強いからです。このような場合、当の本人は何も変わっていない、ということが多いようです。

 

3つ目は、前述のように対応すると加害者の保護者が反発をする可能性があり、仮に前述の対策を強行に実施しても、結局、学校側が泣き寝入りをするはめになってしまう、という情けない学校側の実情もあると考えます。

 

今回、筆者は、教員のいじめを取り巻く現況をお伝えすることで、

 

・いじめに対する学校や親のあり方について深く考える

・報道に多い「教員をたたく」風潮を「学校・保護者・世間が連携していじめをなくしていこう」という方向へと転換する

 

そのような機会になればと考えました。この記事が、いじめに苦しむ児童や保護者の方の気持ちが少しでも楽になるための役に立てたらと願っております。

 

東京都板橋区内公立小学校
 主幹教諭

東京学芸大学小学校課程社会科卒。文京区立金富小学校、足立区立花畑小学校、現任校に従事。各区で社会科副読本改訂委員、社会科教科書採択委員、不登校対策委員を経験し、現在に至る。2014年より現職。生活指導主幹として「いじめの早期発見・見逃しゼロ」のほか、「不登校児童の学校復帰率UP」に注力する。

著者紹介

連載現役小学校教師が語る「教育現場」のリアル

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧