プログラミング、英語…2020年、小学校教育はどう変わる?

社会の変化のスピードに比べて、なかなか変わらないと揶揄される「教育現場」。一方で、「自分たちが子供のころとはずいぶんと変わった」などと、その変化の大きさに驚かされる時もある。いま、教育の現場では何が起こっているのか。今回は「新学習指導要領」について、現役の小学校教師として活躍する中村歩氏が解説する。

教科書と一緒に配られる「薄い別冊」の意味

自身のお子さんが、もしくは読者のみなさんが子どもの頃、学校から見慣れた教科書とともに「薄い別冊の教科書」をもらって帰ってきたことはありませんか。実は、今回お話しする「学習指導要領」の改訂に大きく関係があるんです。

 

教育界では約10年に1度「学習指導要領」とよばれるものが改訂されます。来年度(令和2年4月)より、小学校ではその「新学習指導要領」が全面実施となります(※中学校は1年後の令和3年度より完全実施となります)。その変更に伴って、教科書も変わることになります。単元の配列が変わったり、新しい単元が加わったり、既存の単元でも教える学年が変わったりもします。

 

では、なぜあの薄い教科書が存在するのか。算数科の「A」という単元は平成31(令和元)年度までは6年生の教科書に載っていたとしましょう。新学習指導要領の完全実施によって令和2年度、単元の「A」が5年生で学習する内容に変更になったとします。そうすると、平成31(令和元)年度に5年生だった子どもたちは小学校生活の中で「A」を学習する機会がなくなってしまう事態に陥ります。

 

そこで必要になってくるのが「移行措置期間」と呼ばれるもので、あの「薄い教科書」なんです。令和2年度に6年生の教科書から消えてしまう単元「A」を、令和2年度6年生になる5年生は平成31(令和元)年度にうすい教科書を使って学習するわけです。学校全体で見ると5年生と6年生が同じ単元「A」を学習していることになります。

 

さて、今回の学習指導要領の改訂で世間を騒がせているのは間違いなく「プログラミング教育」と「英語教育」でしょう。特に「プログラミング教育」は、今回の改訂により初めて採用される内容ですので、どんな内容なのか注目を集めるのも当然です。

 

ただ、我々教員は改訂においてそういった教科や単元よりも、『教育の基本方針』と呼ばれるものを重要視します。『基本方針』とは、我々教員にとって「教え方や評価の仕方の道標」となるもののことを言います。

 

「こういった子どもを育成するために、この基本方針に則って、教育課程全般を組み立てていきましょう」という言わば教育の根幹をなすものです。

 

平成28年12月の中央教育審議会答申を踏まえ、設定された『教育の基本方針』は以下の3つとなります。

 

Ⅰ、社会に開かれた教育課程
Ⅱ、育成を目指す資質と能力
Ⅲ、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善

 

今回の学習指導要領の改訂は、この基本方針を基に行われていきました。何だか難しいですね。ではもう少しかみ砕いて見ていきましょう。

 

社会と連携する「学校づくり」を目指す

【Ⅰ 社会に開かれた教育課程 】

この基本方針実現のため、キーワードとしてあげられたのが「カリキュラム・マネジメント」です。実は、令和2年度から本格的に「コミュニティ・スクール」が開設されます。

 

コミュニティ・スクールとは、学校と保護者や地域の皆さんが知恵を出し合い、子供たちの豊かな成長を支えるために作られた組織です。ただ、そういった制度や組織を整えただけで学校が変わるわけではありません。

 

「カリキュラム・マネジメント」とは、閉塞的な学校組織だけでは限界にきていた学校づくりを「地域や保護者を交えた新しい目(コミュニティ・スクール等)」によって再検討していこうとする動きのことなのです。そうすることが「社会に開かれた」の意味であり、具体的には、学校の教育目標に始まり、校内組織の再編、部署の新規創出、役割分担の明確化、日程調整、教育内容等(こういったものをひっくるめて「教育課程」と言います。)に至るまでコミュニティ・スクール等と共に再検討することとなります。

「資質と能力」をもった子どもを育てる

【 Ⅱ 育成を目指す資質と能力 】

「育成を目指す資質と能力」は、「あゆみに書かれている評価の観点」とリンクしていますので、現役の保護者世代に分かりやすいようあゆみの観点で説明していきたいと思います。

平成31(令和元)年度までの評価は主として「①関心、意欲、態度」「②技能」「③思考力、判断力、表現力」「④知識・理解」の4つの観点からなっていました。「学力の3要素」である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度等」を、4つの観点で評価していたわけですから複雑ですよね。それが今回の改訂により下記の3つの柱にすっきりと統合されることとなりました。

 

 

 

 

図では、皆さんがイメージしやすいよう「近い」という表現を用いましたが、まったく同じものを4つから3つにまとめたというわけではありません。具体的にどのように評価の仕方が変わっていくのか見ていくことで、その違いについて説明していきましょう。

 

1、知識及び技能について

今までの観点である「知識・理解」は、主にペーパーテストの1問1答形式の問題(覚えているかいないか)で評価されてきました。

 

一方、新しい観点である「知識・技能」は、「何を理解しているか、何ができるか」がポイントとなります。つまり、今まで以上に各教科で身に付けるべき知識について、十分に習得及び活用しているかが評価の対象となるのです。ペーパーテストでも1問1答形式で測るような単純な知識だけではなく、深い理解を試す文章問題など、応用的な問題も多く含まれることになると考えられます。

 

また、「技能」が加わったことにより、教科によっては実験や資料の読み取りによる評価など、特性に合わせた評価も加わってきます。

 

2、思考力・判断力・表現力等について

「思考力、判断力、表現力」は、課題や問題に向き合って解決していく能力や、問題解決の糸口を見つけていく力、自分の考えを表現していく力のことです。「理解していること・できることをどう使うか」がポイントとなります。

 

この観点は、ペーパーテストではほとんど評価ができないであろうと予想されます。問題解決型の授業における「1人学び」の時間を主に、グループでのディスカッションや発表、レポートと、各教科の特性に合わせて評価方法を工夫しなくてはなりません。今まで以上に普段の授業での見取りや毎時間の評価が大事になり、「教員の力量」や「各教員の評価の観点への理解度」が大きく影響する観点と言えるでしょう。

 

※資料や感想の混じった新聞やまとめのパンフレット等を作らせ、そのレイアウトの良さ等を含めた作品の出来を「思考力・判断力・表現力」の観点で評価する教員がいますが、それは間違いです。社会科の学習では、ディスカッションや発表のための資料集めの部分を「技能」、その資料を使って自分の考えを表現する「スピーチ原稿」等で「思考力・判断力・表現力」を評価します。(社会科教科調査官の講演内容より抜粋、筆者が再構築)

 

3、主体的に学習に取り組む姿勢について

今までの観点である「関心・意欲・態度」は、ノートの取り方や挙手の回数など、主に児童・生徒の性格による部分や見た目でわかる意欲的な部分によって判断されてきました。

 

一方、新しい観点である「主体的に学習に取り組む姿勢」は「学びに向かう力、人間性等」の評価です。各教科の内容を理解するために、児童・生徒が「いかに学習の仕方を工夫し、知識を習得するために粘り強く試行錯誤しているか」という部分を評価していくのです。

 

見た目の意欲だけにとらわれないという意味では、毎時間教員が一人ひとりの児童・生徒をより細やかに見ていくことが求められると言えそうです。「どのように社会と関わり、よりよい人生を送るか」もポイントの一つとなりますので、学習したことを基に「自分たちにできることを考えているか」という活動内容も大切な評価対象になると考えられます。たとえば、社会科でいうと「防災」の学習をした際、「防災に向けて自分には何ができるかも含めて考えているか」に関しても「主体的に学習に取り組む姿勢」の観点で評価することになるということです。

「子どもたちの達成感」を重視する授業へ

【 Ⅲ「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた具体的な授業改善 】

では、学習指導要領の求める「深い学び」とは何なのでしょう。鍵となる活動は「ふりかえり」であると考えます。

 

筆者にとって今まで「深い学び」と言えば、子どもの思考を、「このように考えて欲しい」「こう教えたい」と願う教師本位の考えに至らせることだと思っていました。そう考えていたため、その考えに至らない場合、児童と教員の一問一答になったり、教師がその考えを引き出そうと誘導するような説明を繰り返したりする授業に陥ってしまった経験があります。

 

ただ、今求められている「深い学び」とはそういった「教師が求める完璧な考えや答えに至らせる」ことではなく、「児童同士が意見を交流したり、資料を見たりする中で新たな発見をすること、新たな考えに出会うこと、自分の考えを広げ深めること」なのです。つまり、「教師」ではなく、「児童・生徒本人がいかに達成感を得られたか」が「深い学び」の意味となります。その「深い学び」ができたか(児童の達成感)を知るための材料となるのが「ふりかえり」というわけです。

 

児童同士が意見を交流したりする中で得られるものが「深い学び」である以上、対話的な活動は必須となります。そのため、本校では、以下のような「多様な意見交流の場」を授業の中で必ず設定するようにしています。

 

・ぶらぶらタイム
…1人学びが終わった児童から教室後ろへ、不特定多数の友達と意見交流

・お散歩タイム
…全員が教室内を歩いて、友達のノートを見合う中で意見交流

・ペア学び
…隣の席の友達と意見交流

・班学び
…ホワイトボードに班の全員が自分の考えを書いて意見交流(全員が活躍する場)

・全体学び
…全員の考えから違うところや同じところを見つけ出す活動の中で意見交流


<実際の児童の声※原文まま>

「決められたペアやグループで話し合うのが苦手な私にとって、後ろに行って意見交流ができるというやり方は、話しやすい親友と話せるのでよい」

「班遊びでは、ホワイトボードに必ず自分の考えを書くので、自分も活躍していると感じるし、自信となる」

 

最後に「主体的な学び」についてですが、上述した評価の観点「主体的に学習に向かう姿勢」が「いかに学習の仕方を工夫し、知識を習得するために粘り強く試行錯誤しているか」であることから、鍵となる活動は「見通し」だと考えます。

 

児童それぞれが主体的に学習に取り組むために、本校では以下のような活動を取り入れています。

 

・問いについて今の自分の立場を明確にする
・分からない友達がいたら大ヒント大会を行う
・大ヒント大会で出たヒントや教師の提示するキーワードを使って自分で考える

これらの活動を通して、問題の自力解決に向け、「見通し」をもたせるわけです。

<実際の児童の声※原文まま>

「グーパーチェック(本校では自分の立場を表すのに分かればパー、分からなければグーを出します。)でグーを出すと、みんながヒントをくれるので、自分で考えることができるようになった」

「キーワードがあると自分の考えが合っているか何となく予想できるし、まとめの文章もそのキーワードを使って自分の言葉で考えることができるようになった」

 

6年生の社会は「政治・経済」からスタート

筆者は社会科を専門に勉強してきましたので、社会科の改訂についても少し触れておきたいと思います。

 

今回、筆者が驚いた社会科の大きな変化は6年生の学習が「歴史」ではなく、「政治・経済」から始まる、というところです。今までは、歴史を学ぶ中で現在と違いはあるものの「政治とはどういうものか」「経済とはどういうものか」を少しずつ理解していきました。そんな中で「政治・経済」の学習に入っていったわけです。

 

ただ、来年度からは政治経済への知識がゼロの状態で社会の学習が始まることになります。そのため、いきなり社会が嫌いになってしまう子どももいるのでは!? と危惧しています。そこで、お子様をもつ保護者の方には、政治や経済に関するニュースに触れる機会や政治や経済について家族で話をする機会を増やしておくことをおすすめします。

 

新しい学習指導要領、それを受けた学校の授業改善、そして、新しい教科書での指導のもと、子どもたちが今後どのように成長していくのか楽しみでなりません。

東京都板橋区内公立小学校
 主幹教諭

東京学芸大学小学校課程社会科卒。文京区立金富小学校、足立区立花畑小学校、現任校に従事。各区で社会科副読本改訂委員、社会科教科書採択委員、不登校対策委員を経験し、現在に至る。2014年より現職。生活指導主幹として「いじめの早期発見・見逃しゼロ」のほか、「不登校児童の学校復帰率UP」に注力する。

著者紹介

連載現役小学校教師が語る「教育現場」のリアル

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