受験生にとっての入試は、プロスポーツ選手の試合と同じように、ときにはそれ以上に「負けられない」もの。しかし、やらないといけないと分かっていても、「やる気」がその日の勉強量を左右してしまう人も多いはずです。今回は、いくつもの予備校を開講し、医学部合格者を多数輩出させている岡 健作氏の著書『逆転合格を実現する 医学部受験×パーソナルトレーナー』より一部を抜粋し、やる気や気分に左右されない、勉強を習慣化する方法を解説します。

「やる気」頼りでは、勉強は続かない

勉強を続けるためにはやる気、モチベーションが重要だと考える人は少なくありません。「どのように勉強のモチベーションをキープすればよいでしょうか」という質問は、高校生だけでなく、社会人の学習者からもよく聞かれることです。

 

確かにやる気はないよりあるに越したことはありませんが、あまり重要視すべきものでもありません。なぜなら、「やる気があるから勉強する」というのは、裏を返せば「やる気がなければ勉強しない」ということだからです。そのような不安定なことに頼るのはあまり得策ではないのです。

 

勉強を続けるために本当に重要なのは、「やる気がなくても続けられる仕組み」を持っておくことです。受験勉強に取り組むということは、定期テストのために一夜漬けをするということとは違います。

 

たった一晩頑張るだけなら、やる気に任せたがむしゃらさで乗り切るということもあるかもしれませんが、時には数年を要することもある長丁場を、ずっとやる気に満ちた状態で過ごすのは不可能です。落ち着いた状態で、ごく自然に学習を続けるためにどのような仕組みを作るか、ということにフォーカスするほうがよほど成功に近づけます。

 

現に、医学部や難関大学に合格していった生徒で「やる気があるときだけ勉強していた」という人を、少なくとも私は見たことがありません。いつも決まった時間に、必要な量を着実にこなしていく、そんな生徒が多いものです。

気分に左右されない仕組みづくり

「勉強しなさい」と子どもに言う母親。その言葉に対して、「やろうと思っていたのに。今の一言でやる気がなくなったよ」と言う子ども。そんな会話を耳にしたことはありませんか。

 

やる気は文字どおり、その日、その時のさまざまな状況次第で変化します。人の気持ちはさまざまなこと、しかもほんのささいなことで揺れ動き、落ち込んだり、盛り上がったりを繰り返します。親に叱られたり、友達とケンカしたり、好きな人に振られたり……。低気圧の接近や、季節の変化によって気分が落ち込む人も少なくありません。

 

逆に、誰かに褒められたり、好きなものを買ったり、おいしいものを食べたりといったプラスの働きがあれば、何でもうまくいくような気分になります。しかし、気分が上がることが毎日起きるとは限りませんし、プラスに働いた効果がいつまでも続くわけでもありません。

 

多種多様な原因から上がったり、下がったりを繰り返すやる気を頼みにしていては、毎日の勉強がはかどるはずがないのです。やる気を重視しすぎるあまり、やる気を出すコツやモチベーションアップ術を学ぼうとしたり、そればかり気にすることも賢明ではありません。必要なのは、「やる気がないときでもやれる仕組みを持つこと」です。

勉強を始めるハードルを下げる

気分が乗らないときでも、少しくらい嫌なことがあったときでも、逆にうれしいことがあったときでも、それに影響されることなく決まったことをしっかりと実行できる。やる気に左右されないというのは、そのような安定感を作ってくれるものです。

 

やる気に左右されずに学習を継続できることはなにも、「強い気持ち」や「努力の才能」といった精神的なものによって成し遂げられるものではありません。学習の継続を達成させているのはむしろもっと技術的なものです。

 

今までやっていなかったことを、新しく習慣にすることを難しいと感じる人もいるでしょう。しかし、私たちは誰もが、習慣を身に付けることができます。例えば、朝の洗顔や歯磨きのことを考えてみてください。子どもの頃から繰り返すことで身に付いた生活習慣は、生涯を通して続く場合がほとんどです。

 

洗顔、歯磨き、シャンプーの方法、体の洗い方、そんな一つひとつの行動を、やる気を意識しながら行う人はいないのではないでしょうか。たいていの人は、今朝はやる気が出ないから歯磨きはやめておこう、とは思わないはずです。人によっては、スマホでLINEのチェックをするのも同じことかもしれません。チェックしなければいけないと意識している人は少ないはずです。

 

意識して取り組むのではなく、無意識のうちに体が動いていることが習慣。人の活動の8割は、習慣化した行動=ルーティンで成り立っているという説もあります。ルーティンは身に付けるまでは時間がかかる場合もありますが、いったん身に付いてしまえば、そうそう失われることはないのです。

 

毎回毎回、「よし、今から勉強をしよう」と意気込んでいるようでは、勉強に取りかかるためのハードルが不必要に上がってしまいます。「よし、やるぞ」という意気込みが、勉強を難しく大変なことだと思わせてしまうのです。勉強の習慣化のためにまず大切なことは、始めるハードルを下げることです。

「やる気」が湧かないときは、誘惑を遠ざける

やる気に満ちあふれているときは、どこにいても、すぐに勉強に取りかかれることでしょう。問題は、やる気が湧かないけれど、やらなければならないときにどうするか。このときのコツは、勉強に取りかかるための環境をあらかじめ整えておくことです。行動を起こすときに邪魔になるものを取り除き、それによって勉強に取りかかるハードルを下げておくのです。

 

例えば、勉強を始めようとしたときに、目の前にスマホが置いてあればどうでしょうか。つい手に取ってしまい、気づけば1時間が経過していたということになりかねません。こうした事態を避けるためには、スマホや漫画のような勉強の妨げになる誘惑を遠ざけておけばよいのです。近くにあるから、誘惑に負けてしまいます。誘惑を遠ざけることで勉強に集中しやすくすればよいのです。

 

塾や予備校には自習室がありますが、その空間では、勉強するしかありません。勉強の妨げになるものがない空間で皆が勉強していると、自分も勉強する以外、やることがなくなります。やる気が湧かなくても、勉強する環境に身を置くことで勉強しようという気持ちに変えることができます。

 

こんな小さなことも、どんなときでも取りかかるための仕組みを作るということの一つです。とてもシンプルで、当たり前のことのように思われるかもしれません。でも、部屋を見渡してみてください。誘惑になるものがたくさんあるのではありませんか?誘惑を遠ざけるという、ただそれだけのことを、まずは試してみてください。

 

誘惑に負けないように気合いで耐えるとか、邪魔があっても頑張る精神力が大切とか、そんなことは無駄なことです。邪魔なものは取り除いてください。余計なことに力を使うべきではありません。

 

また、勉強を始める際に邪魔になることがもう一つあります。それは、何から手をつけていいか迷ったり、途中でやることを無秩序に変えたりする、計画性のなさに起因することです。机について、さあ何から始めよう、と考えていたのでは着手が遅くなり、あれもこれもと無駄な時間を費やしてしまいます。この迷っている時間も、一つのハードルになってしまうのです。

まずは、5分だけやってみる

勉強習慣が身に付いていない人におすすめの勉強を続ける仕組みは、「まずは5分だけ」と思って始めることです。「5分だけ勉強したらやめてもよい」と思って始めるのです。これから2時間ぶっ続けで勉強するぞ、となるとなかなか机に向かえなくても、5分だけと決めておけば始めるためのハードルはぐっと下がります。

 

5分くらい勉強する頃には、勉強をもうすこし継続してもいいかなと思えるようになっているはずです。これは、心理学者のクレペリンが発見した「作業興奮」と呼ばれる状態を利用した方法です。

 

5分勉強すると、もう少し勉強したくなる?

 

やる気がアップすれば、さらに脳の働きが加速度的に良くなります。無理をすることなく、勉強でも作業でも続けることができるのです。これは、やる気にスイッチを入れるようなもの。だからこそ、まずは5分始める

が大切なのです。

 

最初の5分をスッと始められさえすれば、あとは脳が働いてくれます。大変なのは、何もしていない状態から始めるというところですから、そこさえ乗り越えれば、止まらない状態になって、いくらでも続けられるというわけです。自転車をこぎ出すときに重く感じたペダルも、やがて重さを忘れてしまい、快調にこぎ進むうちに自然と回転数が上がっていくような感覚です。

 

勉強に取り組むための仕組みの一つがこの「5分だけ、始めてみる」ことです。勉強を始めるためのハードルを下げておくことによって、気持ちにストレスをかけずに、スッと始められるようになります。やる気は待っていても湧いてきません。とりあえず、すこしだけ。まずはやってみるくらいの気持ちが、勉強を始め、続けるための一番のコツなのです。

リラックスして机に向かおう

とりあえず始めるということの対極にあるものが、ハチマキだと思います。「今から、集中して勉強するぞ!」と自分を含め、周囲に宣言するために巻くハチマキですが、それはむしろ逆効果になってしまいかねないものです。ハチマキを巻いて気合いを入れることによって、普段のリラックスした状態と勉強している状態を分けようとしているのかもしれません。しかし、勉強はむしろ日常的に、リラックスして行いたいもの。

 

気合いを入れるのもいいけれど、1年間ずっと気合いを入れているなんて、そんなことは不可能です。新しいことを始めるときに道具をそろえ、スタイルを整えるといった「形から入る」ことで、気持ちを盛り上げる方法は確かにあるでしょう。

 

やりたい行動、始めたい行動のきっかけになることですから、これは役に立つことです。しかし、その道具としてハチマキが有効だとは思えません。ハチマキを巻くことによって「とても大変で難しいことに取り組むぞ」と自分に言い聞かせるわけですから、勉強はますます敬遠したいものだと感じるようになってしまうでしょう。

 

受験勉強は気合いで乗り切れるような「短期決戦」ではありません。もう、ハチマキに頼るスタイルはやめましょう。最初の5分をスタートするためには、リラックスできる心地よい環境が必要です。塾や予備校の自習室も集中できる環境が整っています。カフェなどの快適な空間も悪くありません。リラックスして机に向かうことで、落ち着いた状態で勉強を始められるはずです。

 

岡 健作

株式会社スタディーハッカー代表取締役

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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