多くの企業は採用に多額の資金を投資し、多くの応募者を集めていますが、思うような結果を得られていません。一部の大手企業以外では、質の高い応募者が少ないばかりでなく、内定辞退や早期退職の問題も抱えています。そこで本記事では、中小・無名企業でも、求める人材を効率的に獲得し、定着へ導くことができる「採用ブランディング」の戦略を紹介します。※ 本連載は、2018年1月16日刊行の書籍『「無名×中小企業」でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング』(幻冬舎MC)から抜粋したものです。

「絶対に入社したい」「絶対に辞めたくない」企業

採用ブランディングを意識した理念型の採用を実践できている企業というのは、現場の活動からして一般企業と異なっています。あらゆるシーンにおいて理念をベースにしたコンセプトが浸透しているため、他社との違いが明確になっているのです。

 

例えばブライダルやホテルに関する事業を行っている株式会社PlanDoSee(以下、プランドゥシー)は、採用に理念を活かすことに成功している事例です。その結果、プランドゥシーは並み居る競合の中において、非上場にもかかわらず「就職したい人気企業ランキング」などで上位にランクインしています。過去、女子では1位に輝いたこともあります。

 

しかもプランドゥシーは、事業活動のプロモーションをほとんど行っていません。それにもかかわらず、資生堂や電通、JALやANA、サントリーなどランキング上位の常連企業の中にあっても人気を博しているのです。

 

では、プランドゥシーはなぜそれだけ人気があるのでしょうか。それには理念や強みが採用活動全体に浸透し、応募した先輩、友人たちがファンになり、口コミで知名度が上がってきたという背景があります。

 

プランドゥシーの選考過程に参加した人は、いかに細部まで理念が浸透しているかということを、身をもって体感することになります。スタッフの対応はもちろん、プログラムの内容からパンフレットまで、あらゆる部分に理念が貫かれているのです。その結果、プランドゥシーの理念に共感できる人であれば、あっという間にファンになってしまいます。

 

たとえ選考から漏れてしまった人であっても印象が悪くなるということはありません。このようにプランドゥシーでは、理念を徹底的に伝えているために、採用市場で成功をおさめています。理念型の採用とは、それだけ効果があるものなのです。

ファン化した応募者による「口コミ効果」も

プランドゥシーのように、きちんと理念を伝えている企業の場合、自然とファンを獲得することができます。そして、獲得したファンの評価が口コミとして広がっていくのです。一般的なプロモーションとは異なり、ファンの口コミには信ぴょう性があります。単なる宣伝というのではなく、いかにその会社が素晴らしいのかをその人なりの言葉で伝えてくれるために、伝達力があるのです。

 

さらにプランドゥシーの場合、理念を伝える採用現場のスタッフたちは、実際に結果を出しているエリート社員が中心です。社員自身が理念に共感し、結果を出しているので、説得力のあるアピールができるのです。

 

プランドゥシーの理念に共感した応募者は、活躍する先輩社員を見て「自分もああなりたい」と思うようになります。そのため、入社した後も仕事に対する意欲が高く、活躍人材へと成長してくれるというわけです。つまり、人材採用、教育、さらにはブランディングまでの道筋が採用の段階からできているのです。

 

理念に共感して入社してもらうことが、ブランディングにつながる
社員が自社理念に共感することで、説得力のあるアピールができる

 

このように、採用ブランディングを実践できている企業というのは、競合他社に負けない競争力を獲得することができるようになります。あとはいかに徹底できるかという点がポイントとなります。

 

例えば、プランドゥシーの面接では志望動機よりも、価値観を深掘りする質問を徹底します。自社の価値観に合っている人を選ぶために、多い場合では10回ほど面接を繰り返すこともあるのだそうです。

 

今や同社は平均して5~6万人のエントリー数を誇り、説明会には約2万人を動員する企業になりました。そしてエントリー数の約5%が実際に同社の顧客になるというのです。採用活動を入り口にしてファンを増やし、業績アップにまで影響を及ぼしている好事例です。

 

理念を浸透させるとはつまり、細部まで徹底して行うということに他なりません。自社の理念を深く理解し、そのうえで最適な活動を実施していく。細かい部分にまで徹底的に配慮した姿勢こそ、理念採用の肝となります。

理念への共感は「辞めたくない」という忠誠心を生む

私は2016年に、就職活動後の学生(内定者)を対象に調査を行いました。その内容とは、「会社選びの決め手に理念がどれだけ影響を与えるのか」というものです。アンケートの結果、驚くべき事実が明らかになりました。

 

なんと、内定者の70.5%が「内定先企業の理念・価値観に共感している」と回答し、そのうち94.3%が「企業の理念・価値観が志望動機に影響した」、あるいは「どちらかといえば影響した」と回答したのです。つまり、応募者は企業の理念や価値観に共感して「入社したい」と思うということです。

 

[図表1]企業の理念・価値観が「志望動機」に与える影響
[図表1]企業の理念・価値観が「志望動機」に与える影響
 

 

退職者が多くて悩んでいるというのであれば、改めて理念や価値観の浸透ができていないのではないかと考えてみることです。逆に、理念や価値観ではなく、採用活動の時点で仕事内容や待遇などの面でアピールしていることが、離脱につながっている可能性も考えられます。仕事内容は異動で変わる可能性もありますし、戦略によっては事業を変更する可能性もあります。また待遇などは、大手企業のほうが一般的に整っています。

 

採用時点でもちろん伝えるべきことですが、それらを主にアピールすれば、当然、待遇面に惹かれた人が応募してきます。それでは結局入社後のミスマッチを誘発するだけなのです。企業の理念や価値観を正しく理解し、共感したうえで入社した人は活躍人材となりやすく、そうでない人は、ミスマッチが起こって辞めてしまう可能性が高くなるということです。

 

この調査をして出てきた1つの仮説は、応募者は理念や価値観を重視しているが、企業側はそれほど理念や価値観を押し出しておらず、それが入社後のミスマッチの原因の1つになってはいないか、ということです。

 

私は、3年以内の退職の原因の多くもここにあるのではないか、という仮説を立てています。企業側がどれほど理念や価値観を訴求できていないかという点については、あくまでまだ実感の範囲内にすぎませんが、この仮説は正しいのではないか、と考えています。これらを防ぐ意味でも、採用ブランディングを推し進めていくことは、理にかなっていると言えます。

 

繰り返しになりますが、相手のことをきちんと理解したうえで、自分たちのことを理解してもらえなければコミュニケーションが成立しているとはいえません。その理解とは、表面的なものではなく根本的なものでなければなりません。例えば、「業務内容」「職場の雰囲気」「仕事の量」「社員数」などは、表面的なものでしかありません。もちろん、それらも大事な要素ではありますが、その会社を表現するすべてとはなり得ません。では、何がその会社を根本的に規定するのでしょうか。

 

やはり理念しかありません。理念こそが、その会社を理解するための最も大切な要因となるのです。なぜなら理念とは、会社の存在意義そのものだからです。「その会社は何を目指しているのか」「何のために存在しているのか」「これからどうなっていきたいのか」。

 

それらを理解し、共感してもらったうえで入社してくれる人材は、「自分がその企業に入社したときに、何を叶えられるか(=自己実現)」を考えます。それにより彼らの中にやりがいが生まれ、活躍人材へと成長する可能性が高くなるのです。

 

 

深澤 了

ブランディング・ディレクター
クリエイティブ・ディレクター

 

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