判旨についての考察…医師法第20条について
医師法第20条は、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、(中略)又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない」としている。この但し書については前述したとおり、同趣旨の2つの通知が出されている。平成24年通知を中心に考察する。
判旨は、医師法第20条によれば、24時間を超えて医師の管理を離脱して死亡した場合には、診療中の患者とはいい難く、当該医師による死亡診断書の作成は禁じられていると述べている。
しかし、厚労省通知においては、医師が死亡の際に立ち会っておらず、生前の診察後24時間を経過した場合であっても、死亡後改めて診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には、死亡診断書を交付することが認められている。医師法第20条に関する本判旨は誤りというべきであろう。
論点は「24時間を経過しているから死亡診断書の交付ができない」のではなく、「生前に診療していた傷病に関連した死亡であるか否か」なのである。生前に診療していた傷病に関連した死亡であると判定できない場合には、死体の検案を行うこととなる。死体の検案を行って死体に異状があると認められた場合に、この時点で、初めて警察への届出義務が発生するのである。
本判旨は、生前に診療していた傷病に関連した死亡であるか否かの検討を行っておらず、ただ単に24時間を経過したことのみをもって医師法第20条違反と断じているが、これは早計と言うべきであろう。
この判決は昭和44年に出されたものである。当時広く知られていた昭和24年通知においても、「(中略)診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第20条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない」と記載されており、死亡後24時間を経過していても、死亡後あらためて、診察を行うことにより死亡診断書の発行が可能である。
また判決は、「医師が自ら診療中である患者の死体を検案した場合であっても同様である」と断じている。死亡診断書と死体検案書の明確な定義も示さず、ここで交付すべきものが死亡診断書か死体検案書かも明示せず、死亡診断書交付についての誤判断の下に、唐突に「医師が自ら診療中である患者の死体を検案した場合であっても同様である」との結論は参考とすべきものとは考えにくい。
医師法第21条との関係性
本判決は、供述調書の内容も含め、死亡診断書と死体検案書との区別なく論述されている。また、検案についても明確な定義がなされていない。
本判決は、医師法第21条につき、「医師法にいう死体の異状とは単に死因についての病理学的な異状をいうのではなく死体に関する法医学的な異状と解すべきである」と述べ、「死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情を考慮」と述べている。
この法医学な異状というのは、本判旨に照らせば、死体の状況、死体発見のいきさつ、死体発見場所等のことであり、いわゆる変死体のことである。病院内死亡のいわゆる診療関連死を対象としたものではないと解すべきであろう。法医学的異状の言葉が拡大解釈・流布されて一人歩きした結果、その後の問題を引き起こすこととなったという別の意味で注目すべき判決である。
また、「死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合は別として・・・」との記載があり、これが、「経過の異状」説として流布された。
しかし、この文脈は「経過の異状」を問題としたものではなく、「死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合は別として・・・」という記載内容である。「経過の異状もない場合」は、全く問題がないとして、除外項目を述べたものにすぎない。この文脈を「経過の異状」が対象と読むのは誤読であろう。