産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、パートナーのサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。東野産婦人科院長の東野純彦氏が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。

出産を機に育休。どうやら妻は浮かない様子で…

【勇樹と涼子の事例】

 

真鍋さん夫妻はもともと共働きでしたが、出産を機に妻の涼子さんが育休に入りました。それまでずっと仕事を続けてきた涼子さんにとって、1日中自宅にいるのは予想以上にストレスが溜まるようです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

1日中浮かない顔をしている涼子さんに対し、夫の勇樹さんは「せっかく1年も育休があるのだから、子どもとじっくり過ごす時間ができて良かったじゃない」とポジティブな言葉をかけてきたつもりでした。

 

ところがある晩、勇樹さんが仕事から帰宅すると、いつにも増して涼子さんが思い悩んでいる様子。

 

「どうしたの?」と聞くと「朝起きたら子どもにおっぱいをあげて、朝ごはんを作って。洗濯をして買い物に行って、夕ごはんを作る。毎日家事のことで精一杯。自分のために時間を使えないのがつらい」と言うのです。

 

勇樹さんは「なんだ、そんなことか」と拍子抜けしました。あまりに深刻な妻の様子に、もっと大きな問題を抱えているのではないかと思ったのです。

 

そこで、妻の気持ちを少しでも軽くしようと「子育て中のお母さんはみんな同じ気持ち、きっと一緒だよ」と明るく励まします。

 

ところが、その言葉を言った途端に涼子さんは怒り出し「なんでそんなこと言うの⁉   私だって頑張ってるのに!」と声を荒げました。

 

「……(これはヤバイ)」

 

今まで何度も妻を怒らせたことがある勇樹さんはすぐに謝りましたが、涼子さんの怒りは収まりません。

 

「あなたは今までどおり、何も変わらず仕事を続けられるから良いわよね」

 

次第に、涼子さんの怒りの矛先は勇樹さんに向いてしまいます。

 

慌てて「涼子だって育休を終えたら仕事に復帰できるだろう。それまでの辛抱じゃないか」とフォローするも、「1年経てば育児は終わりじゃないのよ!」と、涼子さんの怒りはますますヒートアップ。

 

そのあとも次々と問題が現れてはまた別の話になり、いったい何に悩んでいるのかが分からなくなりました。しびれを切らした勇樹さんは、つい声を荒げてしまいます。

 

「いったい何が不満なんだよ!」

 

勇樹さんにとってみれば、妻が悩んでいるから励ましたのに、なぜこんなに怒られているのかが分かりません。

 

しかし、この一言が〝地雷〟でした。

〝地雷〟を踏み抜き夫婦の口喧嘩はヒートアップ…

「不満? 私はこれだけ頑張ってるのに、愚痴の一つも言っちゃいけないの?」

「そんなこと言ってないじゃないか」

「だいたいあなたは、いつも私の話をちゃんと聞いてくれない」

「聞いてるよ! 聞いてるから解決できるようにいろいろと提案しているんじゃないか」

「それが聞いてないって言ってるの!」

「もう、わけが分からないよ!」

 

口論は続き、時間だけが過ぎていきます。こうなるともう勇樹さんは涼子さんの怒りが静まるまで待つしかありません。

 

いったい何がいけなかったのか。涼子さんの本音は「ただ話を聞いてほしい」それだけでした。

 

だから勇樹さんが解決策を提案したり、「そんなに気にすることじゃないよ」と軽く受け流したりすることに対し「この人は私の話を聞いてくれない」と悲観してしまったのです。

 

「それなら最初からそう言ってくれればいいじゃないか」男性ならそう思うかもしれません。

 

しかし女性は「察してほしい」「話を聞いてほしい」生き物で、解決策やアドバイスは求めてはいません。ただただ黙って話を聞いてあげるのが、ここでは正解なのです。

 

 

東野 純彦

東野産婦人科院長

 

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本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

東野 純彦

幻冬舎MC

知らなかったではすまされない「産後クライシス」―― 産後の妻の変化、訪れる最大の離婚危機…… カギを握るのは夫の行動!? 女性の生涯に寄り添ってきた産婦人科医が伝授する夫婦円満の秘訣とは

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