産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、パートナーのサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。東野産婦人科院長の東野純彦氏が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。

ゴミ出し当番を渋る夫に、しびれを切らす妻

【悟と奈々子の事例】

 

夜、職場から帰ってきた悟さんは、帰るなりソファに倒れ込み「ああ、やばい。頭が割れそうだ」と言っています。奈々子さんは心配し、体温計を持ってきました。熱を測ってみると37度3分。微熱があるようです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「やっぱりなあ。朝から身体がだるかったんだよ。ああ、しんどい。今日はもうこのまま寝ようかな」と弱気な発言をしています。しかし奈々子さんは少し驚いたように言いました。

 

「え、でも37度くらいなら身体は動くよね。今日ゴミ出しの日なんだけど」

「ああ、ゴミ出しね」

「うん、ゴミ出しはあなたの当番でしょう。遅くなったら間に合わないから今のうちに出してきて」

「ああ~」

 

しかし、悟さんは返事をしたきりソファに寝転がったまま。

 

「ちょっと!」

「ああ、うん」

「ああ、うんじゃなくて、ゴミを出してきてよ」

 

奈々子さんの声色は明らかに怒っています。それでも悟さんは大げさにため息をつき、「分かってるよ。今ちょっと休んでるんだ。病気のときくらいもっと優しくしてくれよ」と、ふてくされてしまいました。

 

「病気って、ただの微熱でしょ? 私なんてちょっとくらいの熱じゃそんなの顔にも出さずに、仕事も家事もしてるんだから!」

「いや、俺、おまえに『体調が悪くても働け』なんて言ったことある?きつかったら休んだら良いじゃん」

「私が休んだらこの子の面倒は誰が見るの? 家の片付けは誰がするの? あなたの洗濯物は?」

 

次第に奈々子さんの声は大きくなります。悟さんは頭をかきむしりながら叫びました。

 

「ああ、もう分かったから! そんなにキイキイ怒鳴らないでくれ! 頭に響くんだって!」

「なんでそんな言い方しかできないの? 信じられない! あなたは良いよね。子どもが生まれても今までどおり好きな仕事ができて、家に帰ればごはんがあって、洗濯物はきれいに畳まれていて、子どもと好きなときだけ触れ合ってれば良いんだから」

 

何か言い返すたびに奈々子さんのボルテージは高まっているようです。悟さんは頭が痛くて休んでいるだけなのに、なぜここまで責められているのかが理解できません。たまたま虫の居所が悪く八つ当たりされただけのような気がして、不愉快な気分です。

 

(体調が優れないときくらい優しくしてくれたって良いじゃないか。付き合っていたころや、新婚当初はあんなに大事にしてくれたのに……)

「きつい」と言えない妻には「観察」を

ところが、奈々子さんは八つ当たりしているわけではありませんでした。努力家で責任感の強い彼女は、多少体調が悪かったとしても、そんなそぶりをいっさい見せまいと努めてきたのです。微熱くらいで寝込んでしまっては家庭を切り盛りすることはできない。

 

ましてや、一人ではまだ何もできない赤ん坊が目の前にいるのだから、泣き言をこぼすわけにはいきません。だから、きつくても疲れていても頑張り続けていたのに、夫は微熱で大騒ぎをしている。「私はいつも我慢しているのに」と不公平な状態にあることに、不満爆発してしまったのです。

 

「きついならきついと言ってくれれば手伝うのに」と思うのが男性です。しかし、母親になった女性たちは「自分がしっかりしなくちゃ」と常に気を張っています。

 

自分から「きつい」と言えない妻に対して、必要なのは「観察」です。無理をしていないか、平気なふりをしていないか、普段と違う様子はないか。観察をして気づくことができれば、優しい声をかけられます。

 

妻が求めているのは励ましの言葉や応援する言葉ではなく、「いつもありがとうね」「つらくない?」という労いの声かけなのです。それだけで「私のことを見てくれている」「大切にしてくれている」と感じ、優しい気持ちになります。

 

妻も本当は、夫に優しくしたいと思っています。しかし、それだけの余裕がないのです。夫としてできることは、妻の心に余裕がないと思ったら手を差し伸べてあげること。それだけで二人の関係はぐっと改善されるでしょう。

 

 

東野純彦

東野産婦人科院長

 

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本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

東野 純彦

幻冬舎MC

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