中小企業の悩み「二代目社長」…社員はどうすれば満足するか

親族内承継が多い中小企業。景気の低迷、適当な人材の不在などの理由から、廃業を考える社長も少なくありません。また、息子などの後継者候補側も、知識不足や現社長の意志を尊重したいとの考えから、事業承継に消極的な人が多いものです。そこで本記事では、株式会社わかば経営会計大磯毅氏・中山昌則氏の共著『「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド』より、中小企業の「事業承継」における問題点を解説します。

中小企業の「社長室にこもりきり」な社長は本当に最悪

本記事では、社長交代後に承継候補者がどのように経営すればよいのか、どのように組織をまとめていけばよいのかを解説していきます。

 

「社長はどっしりと椅子に座っていればよい」って…
「社長はどっしりと椅子に座っていればよい」って…

 

ポイント1 組織を良くするのもダメにするのも社長の資質、能力次第

 

前社長の親族が事業を引き継ぎ新たな経営者となった後、幹部や社員の士気が低下して、これまで何の問題もなく処理されてきた業務が回らなくなるなど、組織がガタガタの状態に陥るようなケースがしばしば見られます。事業承継の結果として企業の組織力が低下した場合、最も大きな原因は後継者自身の資質や能力、態度に求められることが少なくありません。

 

[図表1]は、野村総合研究所が行った事業承継に関する調査結果から一部を抜粋したもので、親族内承継と親族外承継をそれぞれを行う場合において、中小企業が問題であると認識している事項があげられています。

 

出所:野村総合研究所
[図表1]親族内承継と親族外承継の問題点(複数回答) 出所:野村総合研究所

 

そこに示されているように、親族内承継で最も懸念されている点は、「経営者としての資質・能力の不足」で41.1%も占めています。加えて、「経営における公私混同」が17.0%です。一方、親族外承継ではこれらの項目は問題点として認識されていません。このように、親族内承継の場合には、事業承継以前から後継者の資質等に不安が抱かれていることが多いのです。そして、そうした不安が現実になることは決して珍しくありません。

 

たとえば先代社長の長男などが事業を引き継ぐケースでは、後継者が社長室にこもりきりになり「現場には全く足を運ばない」「社員と満足にコミュニケーションを取ろうとしない」といった例がしばしば見られます。

 

「社員が働いてくれるのだから、社長はどっしりと椅子に座っていればよい」と思い込んでいるのかもしれませんが、これでは社内の状況を十分に把握することは困難です。社員の心が社長から離れ、組織がおかしくなるのも当たり前です。

 

中小企業では、善きにつけ悪しきにつけ社長の影響力が大きいことを十分に自覚しておかなければなりません。そして、もし組織が機能不全に陥るようなことがあれば、「私にその原因があるのではないか」と自らの経営者としての行いを虚心に振り返り、過ちがあればそれを正していく姿勢が求められるのです。

 

ポイント2 社長就任後に右腕となる番頭役の幹部を選び育成する

 

新たな組織作りの成否は、経営者の右腕となる幹部社員、いわゆる〝番頭〞の選定と育成が重要なカギを握ります。

 

経営者は孤独になりがちです。とりわけ、経験の乏しい若い後継者にとっては心から信頼できる〝番頭役〞が不可欠となるでしょう。社内に関しては番頭がしっかりと目を光らせているため、社長は安心して外に出て事業拡大のための仕事に取り組める――という形は中小企業の一つの理想的なあり方といえます。

 

実際、利益を大きく伸ばし成長し続けている会社には、〝名番頭〞と呼ばれる幹部社員がいることが少なくありません。では、番頭役となる幹部はどのようにして探し出したらよいのでしょうか。

 

番頭役は、誤った経営判断を防ぐため、ときには社長に対して「ノー」を言えることが求められます。また、企業活動にとって重要な財務戦略についてもアドバイスできるよう、会社のお金の流れを十分に理解し、数字に強いことが望ましいでしょう。

 

社内を見回して、そのような資質を備えている人材がいれば、幹部に抜擢し番頭として育成していくことが考えられます。社内に適当な人材が見つからなければ、ヘッドハンティングなどの形で外部から引っ張ってくることも選択肢になります。もし、身の回りにいる友人、知人の中に「これは」と思う人物がいれば、「良かったら、うちの会社にきて助けてくれないか」などと誘うのもよいかもしれません。

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ポイント3 トップダウン経営でいくのか、ボトムアップでいくのか

 

前社長のスタイルを踏襲するのか、それとも新たな社長像を打ち出すのか――事業を承継するにあたり、自らの経営者としての立ち位置、振る舞いについて思い悩む人は少なくありません。

 

企業における経営の選択肢としては、意思決定の仕方によって大きく「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2つがあげられます。トップダウン型は、経営者の一方的な意思決定に基づく命令によって社員を動かしていく経営スタイルで、ボトムアップ型は下からの、つまりは現場の社員などからの意見も尊重して経営に取り入れるスタイルです。

 

これまで日本の多くの中小企業ではトップダウン型の経営が主流で、特に創業社長には「自分が会社のルールだ。文句を言わず従え」というタイプの人が少なくありませんでした。確かに、トップダウン型には決断を早く下せるというメリットがあり、社長の判断が正しければ、事業を速やかに展開し会社を急成長させることが可能です。

 

しかし、グローバル化の進展などの結果、現代の経営環境は昔に比べてはるかに複雑となっており、またビジネスのトレンドもスピーディーに変わっています。そうした変化の激しい状況の中で中小企業が生き残っていくためには、時代の空気を日々感じている現場社員の思考・感覚を柔軟に取り入れて、経営に活かすことが必要となるはずです。

 

したがって、トップダウン型よりはボトムアップ型の経営スタイルを選ぶ方が望ましいといえるのではないでしょうか。もし、「いや、自分はトップダウン型を選ぶ」というのであれば、唯我独尊に陥らないよう、前述した番頭役の幹部をそばに置き、その意見には最低限耳を傾けることをお勧めします。

 

ポイント4 社長就任後の人事で失敗しない組織刷新の進め方

 

事業承継は人事の刷新を断行し、組織を活性化させる絶好の機会になりえます。たとえば、先代経営者が温厚で優しい性格の場合、明らかに能力が不十分な従業員でも雇用し続けているようなケースが見られます。しかし、大企業ならともかく、資金力の乏しい中小企業では、本来そのような従業員に給料を払い続けている余裕などないはずです。

 

また、従業員の高齢化が進んでいる場合には、若返りも検討しなければなりません。製造業の場合には、高齢の作業員が多いと作業スピードの低下などがもたらされ、業務効率の悪化を招くおそれがありますし、一般論として勤続年数の長い社員を多く抱えていると「組織の硬直化がもたらされイノベーションを起こしにくくなる」ことが指摘されています。

 

「創業時から一緒に頑張ってきてくれた」という身内意識もあって、先代経営者の頃は雇用にまで踏み込んだ組織改革はしづらい面があるかもしれませんが、後継者であれば旧来のしがらみにとらわれず大鉈をふるうことが可能となるはずです。

 

もちろん、雇用に関してはデリケートな配慮が必要であり、やり方には慎重さが求められるでしょう。「無能だから」「年を取っているから」などの理由で容赦なくクビを切るようなことをすれば、「社長には血も涙もない」と他の社員の反発を招くおそれがありますし、労働法規に抵触するリスクもあります。

 

したがって、あせらずに時間をかけて、目的が自然と実現される環境や雰囲気を社内に作ることが大切です。具体的には成果主義を導入し、毎月のノルマを決めて、皆の前で成果を報告させるなどすれば、仕事ができない従業員はいづらくなるのではないでしょうか。

 

また、自主的な退職が期待できないようなタイプの従業員については、先代社長がまだ在任している間に対処してもらうことを検討したほうがよいでしょう。たとえば社内で一番勤続年数が長く、誰も面と向かってモノをいえないような長老格の幹部社員がいれば、先代社長に「一緒にやめないか」と引導を渡してもらうなどです。

 

このように、組織の若返りに関しては先代社長の引退前から計画的に進めることが求められる場合もあります。

 

ポイント5 組織の改善面を探るためには現場の意見を聞く

 

組織に潜む問題点を明らかにし改善するうえでは、現場の声に耳を傾けることも必要です。営業部門にせよ生産部門にせよ、現場で働く従業員はみなそれぞれ、日々、業務を行う中で「この上司のもとではやりにくい」「あの人は少し問題があるな」などと感じ、気づくところがあるはずです。そうした従業員の率直な意見は組織改善の手がかりとなります。

 

また、このように経営者が現場の声に耳を傾ける姿勢を示せば、従業員との心理的な距離を縮めることもできます。社員の多くは、新しく社長となった後継者に対して「この先、会社をどのように動かしていくつもりなのだろう。労働環境が悪くなったらどうしよう」などと、多かれ少なかれ不安や警戒心を抱いているはずです。

 

しかし、現場に積極的に出て従業員たちと言葉を交わせば、「新しい社長は、自分たちと同じ目線に立とうとしている」と、不安や警戒をいくらかやわらげる効果が期待できます。

 

従業員の意見や思いを汲み上げる手段としては、社内アンケートの実施も効果的です。アンケートでは匿名での回答が可能なので、面と向かって話せないような職場環境や待遇等に対する不満などを知ることができるでしょう。アンケート調査を実施するノウハウが社内にないのであれば、外部のコンサルタントに委託するという選択肢もあります。

 

ポイント6 会社の成長を阻害する部門間の対立を解消する

 

先代の頃から存在していた組織上の問題を探るうえでは、部門と部門の関係に着目することも大切です。製造業の場合であれば、工場部門と営業部門が反目し合っている例がよく見られます。工場側は「営業はこちらの都合を考えずに納期の厳しい注文ばかりを取ってくる」、営業側は「こちらが頑張って注文を取ってきたのに、工場の連中は文句ばかり言っている」と、互いに相手の陰口、悪口を言い合っているのが典型的な例でしょう。

 

こうした部門間の対立やセクショナリズムを放置しておくと社員の一体感が失われ、会社の成長を阻害するおそれがあります。そのような事態を防ぐためにも、部門と部門が対話する場を設け、共通の問題があればともに連携して解決にあたれる仕組みを整えることが望ましいといえます。

 

仕組み作りの手始めとしては、たとえば製造と営業それぞれのスタッフが参加するミーティングを週1回開き、さらに、製造、営業の責任者が集まるミーティングを1日1回開催するなどして、両者に意見交換を行わせる方法が考えられます。はじめは、お互いぎこちない雰囲気で沈黙状態が続くかもしれませんが、慣れてくればどんどん意見が活発に出てくるはずです。

 

もちろん、両者の主張が対立することもあるでしょうが、その場合には社長が調停役を務めればよいのです。こうしたやりとりを通じて、自然と部門間の対立が解消され、最後にはともに協力し合う関係が築かれるようになるはずです。

株式会社わかば経営会計 代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

1984年、兵庫県神戸市出身。2006年、京都大学経済学部卒業、在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人・中堅税理士法人での勤務を経て、2013年に大磯経営会計事務所(現「わかば経営会計」)創業。「中小企業の未来を創造する」を経営理念に、事業承継・M&A企業再生といった中小企業向けの財務・経営コンサルティングおよび税務サービスを展開。

著者紹介

株式会社わかば経営会計 代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

1986年、千葉県松戸市出身。2009年、慶應義塾大学経済学部卒業、在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人、中堅税理士法人での勤務を経て、2013年より千葉県中小企業再生支援協議会に出向。数多くの中小企業再生支援業務(経営改善支援、金融調整業務等)に従事。2015年4月に株式会社わかば経営会計代表取締役に就任。

著者紹介

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