100円の債券を97円で手に入れたら、利回りは何%?
金利の世界では、いろいろとややこしい言葉が出てくる。キーワードばかり必死になって覚えるのはあまりよいことではないが、最低限のキーワードが頭に入っていないと理解が進まないのも事実である。ここで取り上げることは、とりあえず頭に入れておいた方がよい。
◆100円の債券を97円で買う方法
金利の世界でよく混同されるのが利率と利回りの違いである。
利率とは債券などにおいて、額面の金額に対して毎年受け取る利子の割合のことを指している。額面100円の債券があって、毎年2円の利子を受け取れると仮定すると、100円の額面に対して2円なので、利率は2%ということになる。一方、利回りというのは、投資金額に対して何%の収益があったのかを示す概念である。
先ほどの利率が2%の債券を例にとって考えてみよう。
この債券を額面で購入して1年後に額面価格で売却すれば、100円の投資が1年後には102円になって返ってくるので、利回りは2%ということになる。だが、この債券を97円で手に入れた場合には話は変わってくる。
1年後には、利子の2円と売却代金の100円が両方入ってくる。97円の投資に対して102円返ってきたわけだから、この投資の利回りは5.2%と計算される。同じ利率でも取得価格が違うと利回りは大きく変わってくる。
ここで読者の方は疑問を抱いたかもしれない。取得価格が安ければ、利率を利回りが上回ることは分かったが、そもそも額面100円の債券を97円で手に入れることなど現実的に可能なのだろうか。
結論から言うと、97円で買うことは十分に可能である。その理由は、時間の概念と大きく関係している。
額面が100円で利率が2%の債券を購入すると、1年後には102円が返ってくる。1年の間に物価が上がらなければ、あるいは物価が上がっても2%以下であれば、この債券の投資は成功ということになる。利率分の利益を黙って手にすることができるからだ。
ところが、インフレが進んでいて、1年後には物価が5%程度上昇すると皆が考え始めたらどうなるだろうか。1年後に102円が返ってきても、1年前に100円だった商品はすでに105円に値上がりしている。これでは債券に投資しても損をするだけになってしまう。
この時、債券を持っている人が何らかの理由で現金が必要で債券を売却すると仮定しよう。この債券は100円で売れるのかというとそうはいかない。少なくとも値上がり分まで利回りが上がっていないと、この債券を買うバカはいないはずだ。
先ほど、この債券は97円で購入すれば利回りは5.2%になると計算したが、最低でも97円以下でなければ、この債券は売れないということになる。
つまり、1年後に物価が5%上昇すると皆が予想したということは、本来であれば、金利は5%以上に上昇していなければならない。しかし、この債券は利率が固定で最初から2%と決まっている。
利率が固定化している中で、利回りを上昇させるには、逆に取得コストを引き下げるしか方法はない。このため取得コストが97円に下がることによって、利回りを5%まで引き上げ、市場で決められた利子の水準まで調整が行われる。このタイミングで債券を売る人は、損すると分かっていてもこの値段を受け入れるしかない。
報道で見る「金利は低下(債券価格は上昇)」の意味
ここで重要なのは、1年後に物価は5%上昇すると皆が予想したことである。つまり、繰り返しているように、金利というのは、時間を数値にしたものであり、将来の動きを今に反映させたものである。
これに対して金利が固定されているものは、金利を変えることができないので、価格を変えることによって金利の変化に対応している。つまり債券価格は金利が上がると下がり、金利が下がると逆に上昇することになる。
よく経済ニュースなどで、「金利は低下(債券価格は上昇)傾向が顕著となっており」といったように、カッコ書きで、金利と債券価格の関係を示す記述を目にすることがある。これは、金利の動きと債券価格の動きが逆になるため、両者を混同することを防ぐためである。
整理すると、金利が上昇するということは、物価が上昇すると皆が予想しているということであり、利回りを確保するため債券価格は下落する。つまりインフレである。一方、金利が低下するということは、物価が下がると皆が予想しているということであり、債券価格は逆に上昇する。これはデフレということになる。
日本銀行の機能が「マヒ」しかねない仕組み
日本では量的緩和策が行われており、日銀が大量に国債という債券を買い入れている。識者には、日本の金利が急上昇することになると、日銀が債務超過に陥ってしまうと指摘する人もいる。その理由は、ここで説明したように、金利が上昇すると理論上、債券の価格は下落するからである。
2019年現在、日銀は約459兆円の長期国債を保有しており、平均残存期間(デュレーション)は9年程度となっている。これらの国債の利回りはかなり低いと見てよいので、もし今後、日本の金利が上昇する事態となった場合には、その分、国債の価格は理論的には大幅に下落することになる。
仮に金利が5%に上昇した場合には、債券価格は理論上、30%値下がりしてしまう。約459兆円の国債が3割値下がりなので、日銀が抱える損失は138兆円にもなる計算だ。日銀の資本金、準備金、引当金は8.4兆円程度しかないので、138兆円の損失となれば、一瞬で債務超過ということになる。最終的にはこの負担は国民が負うことになるため、一部の識者はこれを問題視している。
もっとも日銀が購入した国債は、時価評価はせず、満期まで保有することが大前提だ。だが量的緩和策を中断し、国債を市場で売却するような事態になった場合には、時価でなければ売ることはできない。また、名目上、債務超過になっていなくても、実質的に日銀が破たんしていると市場がみなせば、日銀の中央銀行としての機能はマヒしてしまうだろう。
日銀は金利が上昇しそうになったらさらに国債を買い上げ、金利を低めに誘導することが可能なので、すぐにこうした事態に陥るというわけではない。だが理屈の上では、日銀は資産価格の下落リスクと隣り合わせということになる。
日本国債は、基本的に国内の投資家(日銀含む)しか購入していないので、政府債務の増大は大した問題ではないとの意見もあるが、金利が上がれば、国債を購入した人が損失を被るという現実を忘れてはならない。
加谷 珪一
経済評論家