「窓の外を眺めてうつつを抜かす」ができなくなる
◆データ化が学習指導の根幹を成す
ちょっと流行り言葉を使わせていただければ、エドテックとは「テクノロジーで教育をアップデートする」ことです。特徴を3つあげるとするならば「データ化」と「可視化」と「効率化」です。順番に説明していきます。
まず「データ化」です。エドテックでは、これまでアナログで行ってきた教育の営為を、コンピュータを通じて行うことが増えます。このときに、コンピュータを通った情報はすべてコンピュータにわかるように0と1(オンとオフ)の信号でデータ化されます。
このように学習の履歴や学習内容、習熟度、理解度などが数値としてデータ化されることは、学習効率の向上をもたらします。なぜなら教師にとっては、生徒が今どのような状態で、どこまで理解していて、どこにつまずいているかを知ることが、学習指導の根幹を成しているからです。
一方、生徒自身も、自分がどこまで何ができているのかを、客観的に知ることは意味があります。自分は何が得意で何が苦手かは、データ化しなくてもわかっていると思われがちですが、好きと得意、嫌いと苦手の混同もあり、意外と思い込みによってわかっていないことがあります。
受験での合格を目標とする塾や予備校などは、生徒の学力を向上させるために、まず学習の記録をつけて、復習すべき苦手分野と、これ以上時間を費やすべきではない得意分野とを分別することを推奨してきました。しかし、受験勉強に勤しみたい生徒のほうは、記録をなおざりにすることが多く、学習の仕方を教えるのは困難でした。
この問題はエドテックの「データ化」が解決してくれます。頼まれなくてもコンピュータはすべての記録を取っているからです。あとはそのデータをどのように分析したらよいか、人間がプログラムを作るだけです。
◆生徒も「見過ごされない」
エドテックによる学習履歴の「データ化」は、必然的に2番目の「可視化(見える化)」を呼び込みます。
これまでの教師は、生徒の成績は何とか見ることができても、もっと細かい「つまずきどころ」、「苦手なところ」、「やる気」、「学習への取り組み方」などは、生徒一人ひとりと個人的に深くかかわらない限り見えませんでした。
教師にとって、教室は一つの生命体です。一人ひとりの生徒よりも、その生徒たちが30人、40人集まったときの動き方や流れを、勘と経験でとらえるのが教師の仕事でした。そのため、キーパーソンとなる「クラスのリーダー」や「問題児」、「優等生」以外の生徒は「モブ(一般群衆)」として、目が行き届かないことがありました。おとなしい生徒は、たとえ内面に問題を抱えていても、非行などで外面に問題化しない限り、教師からは見過ごされてしまったのです。
その点、エドテックは、一人ひとりの生徒の学習状況を可視化して、教師に教えてくれます。例えば、これまでの学校の教室では、受動的な生徒はたとえ内容を理解していなくても、教師に当てられることがなければ、手をあげて質問することもなく、ぼんやりと授業を受けてしまい、時間を無駄に過ごすことになりがちでした。
しかしエドテックが導入されて、1人に1台が割り当てられたタブレット端末で、常に作業内容が教師に筒抜けになると、窓の外を眺めてうつつを抜かしたりができなくなります。熱意のある教師にとって、エドテックは生徒一人ひとりをよく見るためのツールとして機能することになります。
先生が指導者として自由にふるまえる時代は終わった
◆教師の評価も数値で分かる
可視化されるのは生徒だけでなく、教師にも当てはまります。
これまで、学校の教師は、ひとたびクラスのなかに入ってしまえば、同僚や上司に監視されることもなく、クラスの指導者として自由にふるまうことができました。しかし、エドテックが導入されると、教師がどのような授業をしているか、その後、どのようなフォローをしているかが、上司や同僚に見えるようになります。
毎年、同じ教材を使って同じような授業を行っている教師もいれば、エドテックを利用して積極的にフィードバックを得て、授業を改善しようとする教師もいるでしょう。
生徒への働きかけが、どのような良い効果をもたらしたか、あるいは悪い効果をもたらしたかが分析すればわかるようになりますから、教師の評価にも役立ちます。生徒や保護者とのやりとりも記録されて可視化されますから、問題が起きたときに原因を分析することも容易になります。
データ化されて、客観的に数値を比較できるようになれば、誰がどのように良い教師であるのかが誰にでもわかるようになって、公平な評価が受けられるようになるでしょう。
進研ゼミ、Z会…大手が続々とデジタル教材を導入
最後に「効率化」があります。エドテックは、人間の物理的な能力、時間や場所の制約をコンピュータが超えることによって、従来はできなかった学習の効率化をもたらします。
かつてはリアルタイムで、フェイス・トゥ・フェイスの口伝によってしか継承されなかった知識や知恵は、書籍や映像になって、時間や場所を超えて伝えられるようになりました。
書籍や映像で一方通行になってしまう場合には、リアルタイムの電話やテレビ電話やチャットを用いれば、場所にしばられずにコミュニケーションができるようになりました。海外に支社を持つグローバル企業において、今やテレビ電話による会議が当たり前のものであるように、人気講師によるオンライン映像の授業配信も、当然のように市場に受け入れられています。
さらに、問題集の代わりにアプリを使うことで、リアルタイムで自動的な採点が可能になりましたし、そうなれば生徒は記憶の薄れないうちに復習ができます。また、間違えた問題の類似問題をコンピュータが自動的に出してくれますから、生徒は続けて問題に取り組むことで、理解の定着を図ることができます。
このような、アプリの使用による学習の効率化は、学習内容が比較的簡単でコンピュータ化しやすい小学生授業において、特に盛んになっています。日本で最も早く教材のタブレット化に取り組んだスマイルゼミをはじめ、進研ゼミやZ会といった通信教育の大手が、デジタル教材の市場化に取り組んでいます。
山田 浩司
株式会社フォーサイト 代表取締役社長