「私がいなければ回らない」と思い込むお局様
医療は、患者の命や健康という、文字通りこれ以上はない大切なものを取り扱う仕事です。そのため、クリニックで働くスタッフは「ミスは絶対に許されない」という強い緊張状態におかれており、他の職種と比較してストレスがよりかかりやすい労働環境にあるといえるでしょう。
しかも、スタッフの数が少ない小規模なクリニックでは、職場での人間関係にも気を使うことになります。ことに、職場を取りしきる古参のスタッフ、いわゆる“お局様”と呼ばれるような人がいる場合には、ことあるごとにその顔色を気にしなくてはならないため、ストレスはよりいっそう強まることになるでしょう。
ちなみに、医療従事者が情報交換等に利用している掲示板では、“お局様”に対する愚痴や不満が以下のように赤裸々に語られあっています(「看護師お悩み相談室」より引用)。
『お局看護師達って何故「偉そう」で「新人をこき使う」「新人を利用する」人間がほとんどなのですか?』
『いま、働き始めて数ヶ月のクリニックで、事務のお局が苦手です(T_T)45歳くらいで、恐らく20年くらいいる人みたいで、なんか怖いもの無しって感じで…。』
『どこにでもいるクセ者。お局様。性悪な人達。なぜ、解雇にならないんでしょうか? 下の立場の人を追い込んで退職させるレベルで職員が定着しなくても、悪い人が解雇にならずに、いい人が辞めていく。お局様を大切にする理由ってなんですか? 解雇にして新しい風を入れたほうがいいのでは…って感じなんですけど。』
『職場の愚痴ですみません。クリニック勤務で1番のお局。気に入らない事があるとすぐに辞める騒ぎ。でも実際は看護師不足で辞められたら困ることを本人も知っている。今回もドクターに対する不満で辞めると他の看護師に言ったが、ドクターには言わず。他の看護師からドクターに、辞めると言ってるので止めてくださいと言ってほしいのがあからさまに分かる。結局ドクターが謝り、次の日、何事も無かった様に出勤』
お局様と聞くと、何十年も勤務してきたベテランの年かさの女性をイメージするかもしれませんが、新人ばかりの職場であれば、勤め始めてから1年目、2年目程度のキャリアのスタッフでも“お局様化”する可能性があります。まだ仕事に不慣れな他のスタッフに対して「あなたたち、こんなことも知らないの」と、上から目線の高圧的な態度で接するようになるわけです。
また、お局様のなかには、院長までも自分の意のままに動かしてしまう人もいます。例えば、新規開業したばかりのクリニックでは、院長がクリニック運営に関する知識やノウハウをじゅうぶんに持ちあわせていないことが少なくありません。こうしたケースでは、他のクリニックから移ってきた経験豊かなスタッフに院長が一から十まで頼り切ってしまうことが多々あります。
そうなると、頼られたスタッフが「このクリニックは私がいなければ回らない」と思い込み、まるで院長よりも自分のほうが上にいるかのように振る舞うようになり、文字通り誰も手がつけられない状態に陥ってしまう危険性があります。
職場の絶対権力と化したお局様と人間関係がうまくいかずに辞めていくスタッフが後を絶たない、そんな状況に頭を痛めているクリニックの院長は少なくないはずです。
「女性の割合が高い職場」であることを意識せよ
もうひとつ、クリニックの労働環境の特殊性としては、「男性よりもはるかに女性が多い職場である」ということもあげられるでしょう。まず第一に、看護師はそのほとんどが女性です。厚生労働省の調査によれば、2016年の時点での看護師、准看護師の男女別の数字は以下の通りです。
看護師 男:84,193人
女:1,065,204人
准看護師 男:22,140人
女:300,971人
ご覧のように、男性看護師・准看護師の数は女性看護師・准看護師の数の1割にも満たない状況なのです。また、受付や助手等その他のスタッフも、ほぼ女性といってよいでしょう。歯科衛生士についても同様です。
このように、クリニックという職場ではその大半を女性が占めているため、院長には女性特有の問題に対して特段の配慮を示すことが求められることになります。
すなわち、一般論として、女性は労働環境に対して男性とは異なった不安や要望を抱いています。[図表]のグラフは株式会社オークローンマーケティングによって、首都圏の20〜50代の会社員女性を対象に2016年3月に行われた「働く女性の不安要素」に関する調査の結果をまとめたものです。
そこに示されているように、働いている女性は、育児との両立、親の介護との両立、妊娠・出産後の職場復帰などに関して強い不安感を抱いています。
院長が労務管理を行う際に、こうした女性特有の不安等にまったく無頓着であれば、そのことが女性スタッフの反発や不満を引き起こし、トラブルや離職の原因となる恐れがあるのです。