今回のIMFのWEOで世界経済成長率予想を見ると、19年(2.9%)から、20年(3.3%)、21年(3.4%)は回復が想定されています。米中通商交渉で第1段階の合意に達したこと、世界的な利下げや、一部財政政策の拡大が回復要因と指摘しています。ただし、回復ペースは鈍くIMFの説明も地政学リスクが残るなど下押し懸念のほうが強い印象でした。
IMF世界経済見通し:20年の世界経済の成長率を3.3%と、前回から小幅ながら下方修正
国際通貨基金(IMF)は2020年1月20日に最新の世界経済見通し(WEO)を発表し、20年の世界成長率を3.3%と19年の2.9%から改善すると予測しました。ただ、米中通商交渉や中東での緊張が続く中で、昨年10月の予想(3.4%)から世界成長率を小幅下方修正しました(図表1参照)。
主な国・地域別では米国の20年成長率予想は10月の2.1%から0.1%引き下げ2.0%としました。21年は1.7%に据え置かれました(図表2参照)。中国の20年成長率予想は今回米中通商交渉の緊張緩和を受け6.0%と前回の5.8%から引き上げられました。しかし、米中関係には未解決の問題も多く、21年の成長率は5.8%と低下が予想されています。
どこに注目すべきか:IMF世界経済予想、金融緩和、貿易戦争
今回のIMFのWEOで世界経済成長率予想を見ると、19年(2.9%)から、20年(3.3%)、21年(3.4%)は回復が想定されています(18年は3.6%)。米中通商交渉で第1段階の合意に達したこと、世界的な利下げや、一部財政政策の拡大が回復要因と指摘しています。ただし、回復ペースは鈍くIMFの説明も地政学リスクが残るなど下押し懸念のほうが強い印象でした。
まず、IMFが示した成長率予想について主な国・地域の特色を振り返ります。まずは米中通商交渉の当事国からです。
米国は19年の2.3%から21年の1.7%まで成長率の低下が想定されています。背景は、減税など財政政策効果の減少と、さらなる金融緩和が想定しがたいためと見られます。
中国は米中通商交渉の第1段階合意などを背景に20年の成長予想を6.0%と、前回10月時点の予想である5.8%から上方修正しています。しかし米中の合意は部分的に過ぎないことや、中国国内には債務削減という重い課題が残ることを指摘、IMFは21年の成長率の低下を見込んでいます。
日本は20年が0.7%、21年は0.5%と小幅低下が見込まれていますが、主に財政政策の効果の増減が成長率見通しの変動を左右すると見込んでいます。
次に、新興国は19年の3.7%から、20年は4.4%、21年は4.6%と、前回予想から小幅下方修正されましたが、今年から来年にかけ、世界経済の成長を下支えすることが期待されています。ブラジルなど南米は構造改革を進める中、経済低迷からの回復が見込まれます。アジアも堅調さを維持する見込みです。ただ、インドは金融システム不安などを背景に20年が5.8%成長と大幅に下方修正されました。
ロシアを含め、東欧、並びに中東は昨年に比べ20年は回復が見込まれています。アフリカの回復は鈍そうです。
全体を通して、地政学リスクの安定以外で経済の下支え要因として様々な国の金融緩和と財政政策拡大を指摘しています。特に金融緩和は世界経済成長率を19年と20年それぞれ0.5%引き上げたと試算しています。ただ、地政学リスクや貿易戦争の火種は残っていること、金融政策に同じ役割を期待しにくいことなどから、IMFは警戒姿勢と見られます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『IMFの世界経済見通し、回復を想定も下押し懸念強いか』を参照)。
(2020年1月21日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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