さまざまな分野でコンプライアンス(法令遵守)が問題となっていますが、もちろん不動産業界も例外ではありません。高額な物件の売買契約や借主との賃貸借契約が必要となる不動産投資でも、コンプライアンスに基づき投資活動を行う必要があります。そのためオーナー自身も法律に関する知識が求められるようになりました。本記事では不動産会社で資産コンサルタントとして活躍する髙木弘美氏に、不動産オーナーが意識すべきコンプライアンスについて解説いただきます。

不動産取引には、借手や買主保護のための法律が多い

不動産は、「生活する住まい」「仕事に欠かせない車の駐車場」「事業を行うためのオフィス」というように借主が生きていくために欠かせないものです。また、資産価格が高く高額な売買になるケースが多いのでトラブルが発生すると損害額が必然的に大きくなりがちです。

 

そのため買主保護のための法律も多く制定されており、また、不動産オーナーは賃借人を保護するための法律を遵守するように求められます。以下では4つの法律ついて確認していきましょう。

 

①民法

不動産投資において重要になる法律は「民法」です。不動産取引の基本や権利関係は、原則的に民法によって規定されているため当事者間でトラブルが発生した場合は、民法の規定に則って処理されます。売買契約、賃貸借契約、所有権や地上権など物件に関する事柄が規定されています。

 

②借地借家法

不動産の賃貸借契約では、民法よりも優先される特別法として「借地借家法」という法律もあります。民法の規定をそのまま適用すると借主の立場が弱くなってしまうこともあるため、借主を保護するために借地借家法が制定されました。オーナーは貸主の立場から借地借家法に基づき借主保護の原則を遵守することを求められています。

 

③宅地建物取引業法

不動産取引に適正化や不動産業の適正な運営を目的に「宅地建物取引業法(宅建業法)」という法律も制定されています。この法律は不動産の取引事業者ではなく一般人(オーナーなどの投資家も含む)保護を目的にしており、不動産取引に関する免許制度や売買・賃貸契約におけるルールなどが定められています。

 

④建築基準法

最後に「建築基準法」も重要です。この法律では建物の建築に関する決まりが定められており、オーナーはこれに違反する建物を建築することができません。

建築基準法違反の物件を購入してしまったら…

建物を建設していく際には建築基準法を遵守しなければならず、建物の使用用途や規模などに応じて求められる構造が定められています。建築基準法に違反した建物を建築してしまったというケースも散見されますが、トラブルが発生してからでは対応が大変になるので注意しましょう。法律はその時代の状況に合うようにときどき改正されます。建築基準法も例外ではありません。

 

そのため当時の建築基準では合法でも現在の建築基準では違法になるケースがあります。その場合、当時の建築基準に違反していなければ、現在の基準で違反だったとしても罪に問われることはありません。「既存不適格」とされる建築物も建築時に合法であれば中古市場で流通しており、再建築不可の物件を安く購入し大幅なリフォームを行って高い利回りを出しているオーナーもいます。

 

なお建築時の違反行為は、厳しく処分されるため十分に注意が必要です。建築中に違反が判明すると是正のための行政指導が行われ、それでも問題が解決していない場合は工事停止や使用禁止の命令が下されます。「バレなければ大丈夫」ということではなく完成後に違反が見つかれば、是正のための工事や物件の取り壊し、再建築などが命じられかねません。

 

当然、費用はオーナー負担ですので十分に注意が必要です。ただ古くなった物件の大規模修繕や建て替える場合、現在の法規制に則って工事することが求められます。「既存不適格」の物件は金融機関の担保評価が下がってしまい、ローンが組みにくい可能性があるため注意しましょう。

 

対応を先延ばしにすると、取り壊しを命じられる可能性も…
対応を先延ばしにすると、取り壊しを命じられる可能性も…

先送りしても、問題はまったく解決しない

トラブル発生のときは、初動が重要です。建築基準法に違反していることが判明したとき、迅速に対処していれば、簡単な工事で済む可能性もあります。しかし初動が遅れて対応を先延ばしにした場合は取り壊しを命じられる可能性も否めません。万が一、民事訴訟になるような争いが生じて裁判所で争ったり相手と和解したりするにしても、早急に対処することが傷口を広げず、有利な条件を引き出すうえで最良の方法となるでしょう。

 

たとえば家賃滞納のようなトラブルは、滞納金額が大きくならないうちに回収へ動くことが借主とオーナーの双方にとって望ましい解決策です。法律的なトラブルが発生すると精神的な負担が大きく、おっくうに感じるオーナーも少なくないでしょう。傷口を広げず、大問題に発展しないようにするためには、迅速に対応するしかありません。

 

いずれにせよ迅速かつ適切な対処を行うためにできることは、投資家自身がしっかりとしたトラブル対応策を把握しておくことではないでしょうか。先送りしても問題はまったく解決しません。隠しごとをせず、法律に従い勇気を持って行動しましょう。

 

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本連載は、リズム株式会社が発信する「不動産コラム」の記事を転載・再編集したものです。

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