年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、子どもがいない夫婦と義姉の間で起きた相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

 

義姉①「先に、私たちから用件を言うわね。Bの相続のことよ」

 

義姉②「そうなの。うちの両親は亡くなっているし、2人には子どもがいないから、私たち兄姉も相続人になるのよね」

 

A子さん「そうなんですよね。だから、みなさんと話をしないと、と思っていました」

 

義姉①「きちんと考えてくれていたのね。よかったわ。それで、Bの遺産は……」

 

A子さん「お義父さんが亡くなった時に相続した貯金がすべて残っています。あと夫名義の貯金が3,000万円ほど、あと株や投資信託など、全部合わせると1億円ほどでしょうか。あと、私たちが住んでいる、このマンションですね」

 

義姉②「やっぱり、子どもがいなくて共働きだと、すごいのね。私たちなんて、年金生活目前なのに、貯金なんて全然ないもの」

 

義姉①「仮に1億円とすると、兄姉4人で2500万円。一人625万円というところかしら?」

 

A子さん「そうですね。でもみなさんさんにお渡しするお金はないですよ」

 

義姉①②「えっ!?」

 

A子さん「Bさんは、きちんと遺言書を残しています。財産のすべてを、私が相続するという内容です」

 

義姉①「なによそれ、勝手にそんな遺言を作るなんて!」

 

義姉②「そうよ、ひどいわ!」

 

A子さん「結婚以来、夫婦で築いてきた財産です。お義姉さんたちに渡す義理なんてないですよね」

 

伯母①②「なによ、その言い方!」

 

「ふたりをぎゃふんと言わせることができて、スッキリしました」とA子さん。その後、Bさんの残した遺言書は、然るべき手続きを経て開封されました。そして遺言書通り、Bさんの遺産のすべてを、A子さんは手にすることができたといいます。

 

遺言書通りの結末に
遺言書通りの結末に

子どもがいない夫婦の相続…ポイントは遺留分

まず法定相続人についてお話ししましょう。まず配偶者は必ず法定相続人になります。配偶者以外の法定相続人には優先順位があり、第1順位の法定相続人は子供ども、第2順位の法定相続人は直系尊属である父母、第3順位の法定相続人は兄弟姉妹となります。上の順位の法定相続人がいる場合には、下の順位の人は法定相続人になれません。事例の場合、子どもがいない、両親がいない、ということで、遺産分割協議の場に兄弟姉妹が登場しました。

 

法定相続分は、事例の場合は、配偶者に4分の3、兄弟姉妹に4分の1となります。

 

次に遺留分の話をしましょう。遺留分とは「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」のことで、法定相続分の半分が認められます。

 

ここで、子どもがいない夫婦のことを考えてみましょう。配偶者がなくなり、その両親も亡くなっている場合、配偶者の兄弟姉妹が相続人になります。さらに兄弟姉妹のなかで亡くなっている方がいたら、甥、姪も相続人になります。

 

想像してみてください。あたなのパートナーが、あなたの兄弟姉妹や甥、姪と遺産分割について話し合っているところを。なかなか大変そうじゃないですか? 実際、このケースはすごく大変です。そもそもあまり付き合いがないケースがほとんどですから。特に甥や姪の代までいくと、ほぼ面識がない場合もあります。

 

このような事態を避けるために、「私の財産はすべて配偶者に残します」という遺言書を残せば、問題は解決します。なぜなら、兄弟姉妹(甥や姪も)には遺留分はないからです。

 

遺留分という制度は、亡くなった人の家族が、今後の生活に困らないようにするために、必要最低限の金額は相続できるようにするための制度です。もし、あなたの配偶者が亡くなったとして、その遺産が兄弟姉妹、甥や姪に渡らないと、彼らは生活に困窮するでしょうか。

 

困ることはありません。だから、遺留分を気にせず好きな遺言書を残すことができるのです。

 

【動画/筆者が「遺留分に所得税が課税される場合」について分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

 

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