「ながら起業」を提唱する中国人キャリアウーマンの小野りつ子氏が、会社にしがみつき続ける「雇われ人根性」から脱却し、自立した働き方をするための具体策を提案します。※本連載は『ながら起業 明日クビになっても大丈夫な働き方』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、改編したものです。

中国人「大丈夫です、2ヵ月後にはできていますから」

私が日本に来て一番感じているのは、日本は100%完璧にしてからでないとスタートしないということです。中国は60%できたら、とにかく営業を開始してしまいます。

 

例えば、中国の新幹線はホームにまだ階段しかなく、エスカレーターとエレベーターができていない状態でも、運行を開始します。乗客は大きな荷物を抱えて階段を上ったり下りたりしなければならないのですが、誰も文句一つ言いません。それが普通だからです。

 

当時、私が会社の人たちと中国に出張したとき、「エレベーターはどこだ?」「まだ工事中? 信じられない」と口々に不平を言われました。

 

私が「大丈夫です、2ヵ月後にはできていますから」と答えると、目を丸くしていました。日本人の感覚では、運行を開始する日までにエスカレーターもエレベーターもすべてできていないといけないのでしょうが、中国では段階的に仕上げていけば問題ないという感覚なのです。その代わり、日本よりも開通するまでの時間は短いでしょう。

 

スピードを取るか、完璧さを取るか。両立させるのが理想的ですが、現実的に難しいのなら、中国ではスピードを取ります。そのせいで高速鉄道の脱線事故のような大きな事故も起きてしまうのですが、リスクを取って、何かが起きたら改善しながら100%にしていけばいいという発想なのです。それも極端ではあるので、私は日本と中国の中間くらいがいいのではと思います。

完璧さを求める日本人は、ネガティブな意見を言い合う

完璧さを求める日本人は、企画が出た段階で「これは、こんなリスクがあるのでは?」「これだとうまくいかない」とネガティブな意見ばかりを言い合い、なかなかスタートさせようとしません。データをそろえるための調査に膨大な時間をかけ、丁寧に資料を作り、あちこちの部署に根回しをしてすべての部署の合意を取る。そしてようやくプロジェクトをスタートさせた段階で、すでに他国はそのプロジェクトを成功させていたりします。

 

今の時代は、ビジネスでも鮮度が命でしょう。とにかく市場に出してみて、反応が悪ければ撤退すればいいだけで、マーケティングに時間をかけても必ずしも成功するとは限りません。失敗を恐れているのかもしれませんが、出遅れるのも失敗ですし、他国にビジネスチャンスを奪われるのも大きな損失です。

 

とはいえ、製品やサービスの質を落とすとブランド力も落ちてしまうかもしれません。もし日本の製品やサービスが今の品質の水準のまま、スピードが上がったら最強になるでしょう。

ソニーの「メモリーウォークマン」がiPodに負けたワケ

ソニーはアップルのiPodよりも先に、メモリーウォークマンというインターネットでダウンロードするタイプの音楽プレイヤーを発売していたのは有名な話です。しかし、グループ内に音楽のコンテンツ企業を抱えていたので、著作権の問題でダウンロードできる曲が多くありませんでした。そのやりとりで時間を使っているうちに、アップルに市場を奪われてしまったのです。

 

つまり、アイデアでは先行していたのに手続きで時間を取られて負けてしまったということです。その損害は計り知れないでしょう。これはスピード感のなさと組織の硬直化が問題です。「とにかくやってみよう」という思考になれば、日本は再び世界一の経済大国にもなれるはずです。

 

そのためには、多少の細かいことには目をつぶる寛容さが必要です。日本では電車の到着が数分遅れただけで駅にクレームが多数届くそうですが、それぐらい目をつぶったほうが気楽に過ごせるのに、と思います。長年にわたり企業が完璧さを求めていくうちに、完璧さを求める消費者を育てていったという面もあるでしょう。

 

クレームには謝罪対応…こんなリスクは背負いたくない?
クレームには謝罪対応…こんなリスクは背負いたくない?

 

「ほどほど」でいいと思えるようになれば、ビジネスのスピードが上がり、日本はかつてのように経済大国の勢いを取り戻せると思うのです。

受けのいい娯楽やニュースで「思考力」を奪われ続ける

以前、言論プラットフォーム「アゴラ」で興味深い記事を読みました。広東省・汕頭大学新聞学院で教授をされている加藤隆則さんの記事です。その記事では、学生から送られてきた社会批評の文章を紹介していました。

 

中国の大都市でミルクティー店が大ヒットして、何時間も並んで待っている。待っている間に、みんな人気のビデオゲームソフトで遊んでいる。その様子を見て、「tittytainment」戦略が成功しているのではないかと思った、という文章です。

 

「tittytainment」とは「豊富な娯楽」という意味で、「titty(乳首)」と「entertainment(娯楽)」を合わせた造語です。

 

1995年にゴルバチョフ財団がサンフランシスコで国際会議を開いたとき、「世界の富が2割の人口に集中し、8割の人々は片隅に追いやられている。この現状を放置すれば、格差が深刻な対立に発展してしまう」という議論が行われました。

 

そのとき、カーター政権で国家安全保障問題担当補佐官を務めたブレジンスキー氏が、「お母さんが赤ちゃんにおっぱい(titty)をあげて黙らせるように、8割の人間には受けのいい娯楽やニュースを与え、徐々に戦いの熱意や欲望、思考能力を奪えばいい」と提唱したのだそうです。そこから「titty tainment」戦略が生まれたと、その記事では紹介されていました(『AI時代のメディア論「豊かな娯楽」への抵抗』)。20年以上前にそんな議論がされていたとは驚きました。

今や日本の子供の7人に1人が貧困状態に…

今の日本はどうなっているでしょうか。お店の行列に並ぶときにスマホをいじるのなんて当たり前。電車の中ではみなスマホでゲームやSNSに夢中になり、歩きながらスマホをいじるほどの中毒ぶりです。若者たちは本を読むどころかテレビすら観なくなって、ネットでユーチューバーの動画に熱狂しています。戦う熱意どころか、政治や経済にはまるで無関心で、選挙にすら行きません。

 

そして、若者たちは結婚することができないぐらいに給料が安くなり、子供ができても保育園の待機児童問題は一向に解消されず、昇進・昇給のチャンスもほとんどなく、年金もほとんどもらえなくなると分かっているのに、声を上げようとする人はいません。

 

一方で、大人たちは政治や行政の問題すら、テレビのワイドショーでコメンテーターが当たり障りのないコメントをしているのを観ているだけではないでしょうか。テレビで持ち上げている人は「いい人」、テレビで批判される人は「悪い人」というとらえ方をして、自分の意見を持ちません。

 

そういう光景を見ていると、日本は世界一「tittytainment」戦略が成功していると思わざるを得ないのです。溢れている情報を消費するだけで精いっぱいで、それ以外のことに意識が回らなくなっています。

 

日本でも格差が広がっていて、今や日本の子供の7人に1人が貧困状態にあると言われています。それでも危機感がないのは、娯楽やスマホで思考力を奪われてしまっているからではないでしょうか。tittyで口をふさがれていることに気づいていないのです。これもしがみつき体質に陥ってしまう一つの原因といえます。

 

 

小野 りつ子

インダストロン株式会社

コンサルタント

ながら起業 明日クビになっても大丈夫な働き方

ながら起業 明日クビになっても大丈夫な働き方

小野 りつ子

幻冬舎メディアコンサルティング

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