「共有財産」「特有財産」それぞれの定義は
◆夫婦の財産をどのように分けるか
財産分与とは、簡単にいえば、夫婦が結婚している間に築いた財産を分けることをいいます。法律では、離婚をした者の一方は、相手に対して財産の分与を請求することができると規定しています(民法768条、771条)。
財産分与は、婚姻中の夫婦の財産を清算する意味合いである「清算的財産分与」、離婚後の生活に困窮するおそれのある配偶者を扶養する意味合いである「扶養的財産分与」、離婚に伴う慰謝料の意味を含める「慰謝料的財産分与」などと大きく三つに性質を有します。
このように、財産分与は三つの性質を有しますが、すべてまとめて財産分与として解決されることが多いです。また、離婚成立前に支払われていない婚姻費用がある場合には、婚姻費用の清算を含めて財産分与が行われることもあります。財産分与請求は、離婚のときから2年経ってしまうと時効にかかって主張できなくなりますので、請求する時期にはくれぐれも気をつけましょう。
では、夫婦どちらかの財産は、すべて財産分与の対象となるのでしょうか。
財産分与の対象となる財産かどうかについては、それが「共有財産」か「特有財産」かどうかを区別し、考えていく必要があります。
●共有財産……婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産。
●特有財産……結婚前から保有していた財産や、婚姻中であっても夫婦で協力して築いた財産とは無関係に得た財産。
財産分与の対象となるのが共有財産、財産分与の対象とならないのが特有財産です。
財産分与の対象となる財産かどうかは、それがどちらかの名義であるかは関係なく、婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産であればよく、これを「共有財産」と呼びます。結婚してから購入した家や、そこでそろえた家具や家財などが財産分与の対象となることはもちろん、一方の名義になっている不動産、預貯金や株式、自動車、保険金なども含まれます。一方が得る退職金も婚姻期間中は相手の協力があって働いて得た給与に対して付加されるお金なので、これも共有財産に当たります。
結婚生活によって協力して得た財産を共有財産ととらえると、別居後に得た財産についてはその対象となりません。別居後は夫婦が協力して財産を築いたとはいえないからです。つまり、財産分与の対象となるのは、夫婦となってから別居するまでに夫婦で協力して形成された財産で、独身時代また別居後にそれぞれが蓄えた財産や相続で取得した財産は財産分与の対象にはならないということです。
◆「特有財産」は分与の対象外
「共有財産」に対し、どちらか一方の財産として認められるものを「特有財産」と呼びます。特有財産には、どちらか一方が結婚前からあらかじめもっていた財産と婚姻期間中でも「夫婦の協力」で得たとは見なされない財産があります。
たとえば、結婚前にすでに貯めていたお金(預貯金)や購入済マンションなどどちらか一方が結婚前にあらかじめもっていたものであれば特有財産と見なされます。また、婚姻期間中であっても、相続で取得した財産などは、夫婦が協力して取得した財産とはいえないので特有財産となります。
しかし、特有財産であっても、夫婦の協力によってその価値が上がったなどといえる場合は財産分与の対象となるケースもあり得ます。たとえば、夫が婚姻前から有していた不動産を、妻が管理・運営したり、夫の事業を手伝うなどすることにより価値が上がった場合などは、それにより得た利益は共有財産といえることがあります。
基本は折半だが…「負債」の分与はどうなる?
◆負債(借金)があった場合の財産分与
借金などの負債がある場合は、プラス分の「資産」から、マイナス分の「負債」を引いた残額を「財産」として分与することになります。プラス分の資産からマイナス分の負債を引いた残額がマイナスの場合は、財産分与すべき財産がないといえます。借金は、原則として借金をした者が返済をすることになります。
この場合、負債をどこまで「夫婦としての負債」と判断するかについても、共有財産、特有財産の考え方を当てはめます。婚姻生活のために生じた負債、たとえば結婚後にマンションを購入した住宅ローンや生活費のための借金は「共有の負債」となりますし、どちらか一方が婚姻生活とは関係なくできた負債、たとえば競馬にお金をつぎ込んで膨れ上がった借金であれば「特有の負債」となります。
つまり、婚姻生活を継続していくための借金であれば、財産分与の対象となり、ギャンブルなど婚姻生活には関係のない個人的な借金は財産分与の対象とはなりません。
◆分与の割合は折半が基本
財産は、夫婦で2分の1ずつ分けるのが基本です。話合いで財産分与の割合を決めることは自由です。しかし、財産分与の割合などが話合いでうまくまとまらない場合には、裁判所での調停や裁判を通して、財産分与についての取決めを行うことになります。
そこでは、婚姻期間、財産の内容や状況、それに対しての貢献度、離婚後の生活の見通しなどを総合して判断します。
ふたりが財産を築き上げるにあたって、どれくらい貢献したのかが大きな判断材料となって、分与の程度が決まります。家事育児なども貢献として認められるため、夫が稼いできた給与を貯めた預貯金などについてもしっかり分与されます。
共働きであった場合ですが、夫のほうが妻よりも多く収入を得ていたとしても、収入の差は考慮されず、基本的には5割ずつに分けられることが多いようです。ただ、労働時間や勤続年数などに大きな差がある場合は、それが考慮されることもあります。
専業主婦の場合は、以前は共働きにくらべると家事が労働として低く見積もられがちでしたが、近年では5割と見なされるようになりつつあります。夫が経営する会社の資産の場合、会社は夫と別人格と見なされるため、分与の対象になりません。ただし、夫が個人で営業している実態がある場合、分与の対象になることがあります。
西村隆志
西村隆志法律事務所 弁護士/事業承継士/上級相続診断士