大企業・製造業・業況判断DIは0と4期連続悪化、13年3月調査(▲8)以来の低水準に
製造業は米中貿易戦争に起因する世界経済減速、台風など自然災害による操業停止など影響
大企業・非製造業・業況判断DI+20、内需の底堅さ反映。消費税増税でも3年連続20台達成
中小企業、製造業・業況判断DI▲9だが、非製造業は+7。プラス維持で内需の底堅さを示唆
19年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資+5.0%
●12月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが0と9月調査の+5から悪化となった。悪化は4期連続である。13年3月調査(▲8)以来の低水準になった。13年6月調査以降26期連続続いていたプラスは途切れた。
●米中貿易戦争に起因する世界経済減速や、台風19号など自然災害による工場の操業停止などが影響したものだろう。調査期間が11月13日~12月12日だったのが残念だ。もし、本日12月13日の寄付き後に日経平均株価の一時500円超の前日比上げ幅をもたらした米中貿易協議進展に対する期待の高まりが反映されていれば、大企業・製造業・業況判断DIのプラスは維持できていたかもしれない。
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は17年12月調査で4%まで低下した。しかし、18年3月調査・6月調査で5%に戻り、9月調査・12月調査では6%に、19年3月調査では8%に、6月調査では9%、9月調査では10%に悪化した。今回12月調査では12%に悪化した。
●なお、12月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」では12%だが、「先行き」でも10%と2ポイントの低下見込みである。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では12%、「先行き」では10%で、2ポイント減となっている。
●12月調査の大企業・製造業の業況判断DI0は9月調査の「先行き」見通し+2より2ポイント悪化した。足元の景況感が予測よりやや悪かったということになる。
●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは0と「最近」の0と同水準が見込まれている。12月調査の19年度下期の想定為替レートは106円90銭で、足元の実際の為替の動き(12月13日朝10時時点:1ドル=109円55銭程度)より円高水準に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが上振れる可能性もあろう。
●大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回9月調査の+21から今回12月調査は+20と1ポイント低下した。消費税増税が実施された四半期でも「良い」超が+20台と高水準が続いている。17年3月調査の+20から18年6月調査と12月調査の+24を極大値として3年連続(12期連続)+20台が続いている。内需の底堅さを反映していよう。
●19年12月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは34期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査・12月調査・18年3月調査・6月調査で4%だったが、9月調査で1ポイント上昇し5%、12月調査では1ポイント低下し再び4%になった。19年3月調査で5%になったが、6月調査で4%に戻り9月調査も同じだった。今回19年12月調査で再び5%に上昇した。
●大企業・非製造業では「先行き」は+18と「最近」の+20より2ポイント低下が見込まれている。しかし「悪い」と答えた割合は「先行き」は3%で「最近」から2ポイント低下している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では25%、「先行き」では21%で変化幅が4ポイントの低下だ。先行きに関して楽観的な見方がやや減っている感がある。それだけ不透明感が強いのだろう。
●中小企業・製造業の業況判断DIは今回12月調査で▲9と9月調査の▲4から5ポイントマイナス幅が拡大した。但し、9月調査の「先行き」見通しが▲9になるとみていたので、足元の景況感は予測通りだったという結果である。
●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回12月調査で+7と9月調査の+10から3ポイント低下した。これで2ケタのプラスは5期連続で途切れたものの、25期連続してマイナスになっていない(14年12月を新しい調査対象企業でみる)。+7は9月調査時点の、「先行き」+1を6ポイント上回る水準で、予測よりは良かったということになる。内需の底堅さを示唆する結果であろう。
●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲12と「最近」▲9から3ポイント悪化し4期連続マイナスになる見通しである。また、中小企業・非製造業は+1とこちらは「最近」+7より6ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。但し、中小企業・非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回3月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性は大きいとみられる。
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は14年の消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善し18年3月調査では+17になった。その後19年6月調査での10とまで2ケタプラスが続いていたが、19年9月調査で+8に悪化した。そして、今回12調査で+4まで低下した。しかし9月調査の「先行き」+2を2ポイント上回り、プラスは維持した。
●全規模・全産業の「先行き」業況判断は0と、「最近」+4から4ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。
●「雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足の強まりに関し一服感がある数字となった。18年9月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲23で92年2月調査の▲24以来26年7カ月ぶりの水準になった。18年12月調査、19年3月調査とも▲23である。6月調査では▲21になり9月調査も、今回12月調査も▲21だ。また、先行き見通しも▲21だ。中小企業・全産業は18年12月調査で▲39とバブル景気の「山」直後である91年8月調査の▲40以来27年4カ月ぶりの水準をつけた。19年3月調査も▲39であったが、6月調査と9月調査は▲36に、今回12月調査は▲34になった。しかし、先行き見通しは▲38だ。
●19年12月調査の19年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+6.8%になった。9月調査の+6.6%から上方修正された。一方、19年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲2.2%、9月調査の▲6.7%から上方修正された。19年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+3.3%になった。
●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2019年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+7.2%。一方、19年度の中小企業・全産業で▲1.6%だった。19年度の全規模・全産業では+5.0%と底堅い数字になった。
●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業(うち素材業種)・製造業(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種6つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、大企業・中小企業とも非製造業が横這い、製造業関連の4つで下落超幅が拡大した。景況感が芳しくない製造業で物価下落圧力が感じられる内容だと思われる。仕入れ価格判断DIは企業規模・業種6つのカテゴリーで前回からの変化幅で見て、大企業・中小企業とも製造業・素材業種で上昇超幅が拡大、足元原材料価格が上昇したことが感じられる数字である。一方、大企業・中小企業とも製造業・加工業種で上昇超幅が縮小した。非製造業では大企業で上昇超幅が縮小し、中小企業で上昇超幅が拡大した。
●12月16日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。
●今回の日銀短観は、製造業中心に景況感が引き続き悪化した。一方、非製造業には引き続き底堅さが感じられる内容だった。19年度の設備投資計画は9月調査に引き続き12月調査もそれなりにしっかりした結果となった。これまで不透明感が強まってきていた海外要因のいくつかに先行き進展がみられることが予想される。新たな局面展開を織り込むことになるであろう、次回3月調査が注目される状況だ。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2019年12月調査 日銀短観』を参照)。
2019年12月13日
宅森 昭吉
株式会社三井住友DSアセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト