先日、学習到達度調査(PISA)で、日本の読解力の急落したことが大々的に報道された。その原因はどこにあるのか、また読解力を向上させるためには何が必要なのか、考えていく。※本連載では、グローバルマーケットの第一線で活躍し、現在は留学サポート事業などを手がける株式会社ランプライターコンサルティングで代表取締役社長を務める篠原竜一氏が、グローバル人材を目指す富裕層の教育事情について、実体験も交えながら解説する。

8割の授業で「非デジタル化」という教育現場

文部科学省では、Society5.0という新たな時代に向けて2017年11月に林芳正大臣を座長とした有識者からなる「Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会」と課長級職員を中心とした「新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース」を立ち上げ、その報告書を2018年6月5日にまとめています。

 

Society 5.0 とは、「人工知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)、 ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられ、社会の在り方そのものが「非連続的」と言えるほど劇的に変わることを示唆する」社会です。

 

経済協力開発機構(OECD)の生徒の学習到達度調査(PISA)が行った18年調査では、生徒のInformation and Communication Technology(ICT)の活用状況については、日本は、学校の授業での利用時間が短く、学校外では多様な用途で利用しているものの、チャットやゲームに偏っている傾向があるようです。

 

文部科学省は、今回の調査結果は、「機器の操作に慣れていないことが影響した可能性がある」と説明しています。日本では教室で実施される1週間の授業で「デジタル機器を利用しない」と回答した生徒は、国語で83%、数学で89%となっています。電車、バスの中で、お年寄りが乗って来てもそれに気が付かないほどスマホに熱中している若者も多い昨今、教育の現場では、国語で17%、数学で11%しかデジタル機器が利用されていないということは大きな問題ではないでしょうか?

 

この結果を受け、今後、日本の小学校、中学校へのデジタル機器の導入が一気に進むことになるでしょう。同時にWi-Fi環境が整備され、図書館の蔵書はデジタル化、宿題、授業、テストなどはオンラインベースでリアルタイムに成績がアップデートされるようになり、先生、生徒、保護者間で共有できるようになることが望まれます。

 

学校現場で一層のデジタル化が望まれる
学校現場で一層のデジタル化が望まれる

世界基準の教育が、日本でも求められている

最近では、AIが様々なメディアに取り上げられるようになりましたが、これからの社会を大きく変えていくAIを人間に例えるとどんな人でしょうか?

 

几帳面で、論理的、常に冷静に客観的な分析を行なう人です。計算ではだれにも負けません。とても合理的で、様々なデータから規則を見つけることに才能がある人です。したがって、AIは特に科学・数学リテラシーの分野で人を上回る力を発揮する可能性があります。

 

そんなAIが社会の在り方を劇的に変えていく社会で生きていくために必要な学びとは、どんなものなのでしょうか?

 

文部科学省は、2012年に国際バカロレア(IB)認定校を200校に増やすという目標を掲げています。当初は、考え方、カリキュラムには共感できても、IBのカリキュラムは、すべて英語かスペイン語かフランス語で履修しないといけないというのが、日本の学校にとって大きな壁でしたが、文部科学省・教育関係者の努力により状況は大きく変わってきています。

 

引続き6科目中2科目は、英語等で履修する必要がありますが、今では、経済、地理、歴史、生物、化学、物理、数学、数学スタディーズ、音楽、美術、知の理論(TOK)、課題論文(EE)、創造性・活動・奉仕(CAS)など、日本語で実施可能となる科目等が増えたことにより、IB認定校、候補校は着実に増えています。

 

IBには「IB Learner Profile」という目指すべき以下の10の学習者像があります。

 

1. Inquirers

2. Knowledgeable

3. Thinker

4. Communicator

5. Principled

6. Open-minded

7. Caring

8. Risk-taker

9. Balanced

10. Reflective

 

生徒たちはIBプログラムを通じ、1から10のIB Learner Profileを習得していきます。少しわかりにくいのが、5、Principled と10、Reflectiveです。

 

“Principled”とは、「誠実かつ正直で、公平な考えと、正義感を持ち、人々の尊厳と権利を尊重して行動、そして自分の行動とその結果に対して責任を負う」ことです。

 

“Reflective”とは、「学んだことや自分の経験を見つめ直す。そして自分の学びや成長を支えるために長所と短所を理解し評価する」ことです。

 

今こそ世界のどこにでも通じる世界一の教育大国であるアメリカのカリキュラム、並びに現在、文部科学省が中心となって推進しているヨーロッパ発祥のIBプログラムなど、国際標準の教育をできるだけ幅広く様々な子どもたちに、この日本で提供することが求められているのだと思います。そして、Society5.0のような時代に生きていく日本の子どもたちは、特に『リーダーシップ』『考える力』を養うことに取り組む必要があると考えています。

 

① 正解のない問題に直面した時に仮説検証を繰り返す分析力

② 自分の頭で考える思考力

③ そしてそれを自分の言葉で伝える表現力

④ 判断力・決断力のあるリーダーシップ

 

ICT活用により、先生の負荷を減らしながらも、科学的・数学的リテラシーの維持強化を図ると共に、生徒たちが学校教育で、上述の①~④を繰り返し学ぶことによって、物事の本質を見極める力を養うことができるようになると考えています。

 

しかしながら、これからのボーダレスな世界で生きていくためにはまだ何かが足りません。それは、言葉や文化の壁を乗り越え、多種多様な価値観を受け入れ、自己の主体性を軸に学び続けることにより育む人間性です。

 

東日本大震災のちょうど1ヵ月後の2011年4月11日に行われた文部科学省中央教育審議会の大学分科会で、分科会会長の安西元慶應義塾大学塾長が「日本の戦後の教育は間違っていた」「戦後60年の日本の大学教育は間違っていた」と挨拶の中で語ったそうです。

 

以下が、「国際バカロレアを知るために」 (大迫弘和編者 長尾ひろみ (著), 新井健一 (著), カイト由利子 (著) 出版社水王舎)から抜粋した安西氏の挨拶の一部です。

 

「大学は、学生のリーダーシップを養うことを怠っていた。福島原子力発電所の事故が起こったとき、世界に誇れる最先端の知識と技術を担っている日本の科学者が結集してすぐさま福島に飛んだだろうか。いや何も行動をとらなかった。今、1か月経って彼らはテレビ局やマスコミで東京電力や政府の批判をしている。

 

もう1つの高等教育の失敗は学生に考える力を培うことを怠っていたことだ。(中略)研究、探究する場である大学でちゃんと教育されていたら、人の噂に翻弄されることなく自分の考えを探究したであろうに、残念ながら人の噂に国民全体がなびいた1か月であった。今からの高等教育は、知識詰め込み一本ではなく、考える力をもっともっと養わなければならない。」

 

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