先日、学習到達度調査(PISA)で、日本人の読解力が急落していると報道された。その原因を追求し、読解力向上のために何が必要なのかを考察する。※本連載では、グローバルマーケットの第一線で活躍し、現在は留学サポート事業などを手がける株式会社ランプライターコンサルティングで代表取締役社長を務める篠原竜一氏が、グローバル人材を目指す富裕層の教育事情について、実体験も交えながら解説する。

学習到達調査で「読解力」だけが急落

経済協力開発機構(OECD)の生徒の学習到達度調査(PISA)は、義務教育修了段階の15歳児を対象に、 2000年から3年ごとに、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野で実施しています。

 

実施年によって、中心分野を設定して重点的に調査することになっていますが、18年調査では読解力を重点的に調べ、日本では全国の高校など約180校の1年生約6100人が参加しました。前回2015年調査からコンピュータ使用型調査に移行しています。 日本は、高校1年相当学年が対象で、2018年調査は、同年6~8月に実施し、その結果が、以下の通り公表されました。

 

日本は読解力で前回の15年調査の8位から過去最低の15位に後退しました。科学的リテラシーは5位(前回2位)、数学的リテラシーは6位(同5位)となり、それぞれ順位を下げています。

 

この調査は、あくまでもひとつの目安です。様々な個性を持った生徒が参加しているわけで、日本の義務教育を受けた生徒の学力が落ちていると大騒ぎするのは間違っているとは思います。しかしながら、日本の教育改革に携わる人たちにとっては、これからの日本の教育に何が必要かを考える上でとても興味深い調査結果となっているのも事実です。

 

科学的リテラシーは5位、数学的リテラシーは6位と引き続き世界のトップレベルで素晴らしい結果となっています。

 

一方、読解力では、日本の生徒はテキストから情報を探し出す問題、テキストの質と信ぴょう性を評価する問題の正答率が比較的低かったようです。また、読解力の自由記述形式の問題において、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することも苦手なようです。

 

自分の考えを他者がわかるように伝えることが苦手
自分の考えを他者がわかるように伝えることが苦手

「国語の授業」を増やしても、読解力は向上しない

我々が考えないといけないのは、「なぜ、どうして?」と疑問を持ち、自分の頭で考え、それを論理的に説明する力が弱いという結果をどう受け止めるかということです。

 

読解力が低下しているので国語の授業を増やせば良いという問題ではありません。今後はあらゆる分野の授業で、ただ暗記するだけではなく、情報を収集し、正解のない問題に直面した時に仮説検証を繰り返す分析力、自分の頭で考える思考力、そしてそれを自分の言葉で伝える表現力を養う工夫をしていく必要があるのではないかと考えています。

 

たとえば「鎌倉幕府ができたのはいつか?」という問いだけではなく、「鎌倉幕府はなぜ関東に出来たのか? それがその後の日本にどうような影響を与えたのか?」という問いかけで生徒の知的好奇心を高めていくことができます。こういった問題には“正解”はありません。だからこそ自由に発言し、周りの人と議論することで、探究心が高まり、自分の頭で考える力がついていくのです。

 

筆者は子供のころに読んだ島崎藤村の『夜明け前』が忘れられません。「木曾路はすべて山の中である」という一文を読んだ瞬間、自分が行ったこともない場所なのに頭の中にその情景が広がったのです。すごく難しい本で、楽しい気持ちになる本ではありませんでした。激動の時代に、木曽路の人のために闘い、そして挫折した人の生涯の物語です。感想文にはこんなことを書いたと記憶しています。

 

「木曽路のためにがんばった人の物語だ。僕は木曽路に行ったことはない。これからも行きたくはない。だけど僕にははっきりと一本の道が見えた」

 

今から思うとなかなか良くできた感想文だと思いますが、原稿用紙一枚書かないといけなかった感想文としては明らかに短すぎます。先生のコメントは「難しい本をよく読みました。次の感想文ではもう少しあらすじを書きましょう」でした。この先生がもっと褒めてくれていたら、「主人公は何をがんばったの?」「どうして木曽路に行きたくないの?」「どうして君には一本の道が見えたのかな?」と聞いてくれていたらと考えてしまいます。

 

読んだ本が物すごく面白くて友人に話すと「僕も読んだけどそんなに面白くなかった」という反応で驚いたり、人によって解釈が異なったりした経験は誰にでもあるはずです。

 

読解力というのは、このような経験を繰り返しながら自然に身についていくものです。正解はありません。本を読んで、わからなかったこと、思ったこと、感じたことを生徒同士が議論するという当たり前のことに力をいれてほしいのです。

インターナショナルスクールの先生が大切にする言葉

日本の塾では文部科学省の指定する学習指導要領を超えて、どんどん学習を進めていきます。生徒は、強制的にやらされているわけではなく、やればやるほどステップアップしていくため、自信がつき、勉強することが習慣になっていくということでしょう。しかしながら、生徒によっては、それだけでは思考力が養われないということを、この調査結果は示唆しているのではないでしょうか?

 

「正解を導くこと」に主眼を置き、ワークシートによる計算問題の反復、知識の詰め込みが中心の日本の教育に対し、「詰め込みすぎている」「ゆとりがない」という批判が1980~90年代に高まり、そうした意見を受けて文部科学省が授業内容の削減などを実施し、個性重視の考えのもと実施されたのが、いわゆる『ゆとり教育』です。しかしながら、2003年のPISAで日本の順位が大きく下がったことが問題となり、文部科学省は『脱ゆとり教育』の路線を本格化してきました。

 

これまでのPISAの結果を見ると、「詰め込む量を減らすこと・増やすこと」だけでは、自分の頭で考える思考力、そしてそれを自分の言葉で伝える表現力を養うことは難しい、ということがはっきりしてきているようです。

 

先日、都内のインターナショナルスクールの先生から聞いた話が心に残っています。先生は、生徒への「Show us what you know」という問いかけを大切にしているという言葉です。

 

この学校が大切にしていることは、暗記することではなく、生徒が知っていること、生徒が思っていること、生徒が考えていることを言葉に、そして文章にすることです。日々の学校生活でこういったことに取り組むことにより、生徒同士の学びが始まり、自分の頭で考える生徒になっていくそうです。

 

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