子どもの成長が遅いかもしれない、おとなしすぎるかもしれない…子育ての悩みは尽きないものです。現代特有の生活が大きく影響する問題もあり、「わが子は大丈夫?」と心配になることも少なくないでしょう。本連載では、保育歴60年のベテラン保育士・大川繁子氏の著書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)より一部を抜粋し、大人も子どもも幸せにする子育てのコツを紹介します。

コミュニケーション力は、家族との会話で伸びていく

 相談  静かにしてほしいとき、ついテレビを見せてしまいます。

 

 大川先生  動画は1日2時間まで。となりにママがいると、なおよしです。

 

テレビやゲーム、携帯電話やパソコンで見られる動画。この時代、どうお付き合いするか悩ましいですね。

 

園のお母さんたちに定期的に配布している「マリアの丘通信」の中でも、

 

「2歳までは、なるべくテレビは見せないで。それ以降は、1日最長2時間までにしてください」

 

とお伝えしています。もちろん短ければ短いほどいいです。

 

たくさんの子どもたちを見てきて確信しているのが、テレビ漬けの子やスマホ漬けの子は言葉が遅れがちで、そうでなくてもコミュニケーションが下手だってこと。生身の人間とのやりとりが、うまくできないようなのです。

 

これに関しては、ヤスちゃんという男の子が印象に残っています。

 

夏の終わりごろ、「どうもヤスちゃんと会話がちゃんと成り立たないんです」と担任の保育士から相談がありました。ヤスちゃんは、そのとき4歳。一方的にベラベラしゃべることはできるし、言葉が遅いわけではないのだけれど、あまり目も合わないし、会話のやりとりがうまくできないのが気になる、とのことでした。

 

そこで、お母さんにおうちではどんなふうに過ごしているか聞いてみました。

 

すると、テレビゲームばかりさせていて、あまりおしゃべりしていないことがわかった。園からの5分の送迎の間も、車の中でゲーム。家に帰っても、食事やお風呂の時間以外はずっとゲーム。

 

ウン、会話が成立しないのは間違いなくそのせいねと思い、「ゲームをやめさせて、ヤスちゃんとお話しする時間を増やしてみたら?」と提案してみました。

 

そうしたらお母さん、「わかりました。でも、どんなことを話したらいいんでしょう?」と困り顔。その言葉に少しおどろいたけれど、

 

「なんでもいいのよ。『今日は保育園でだれと遊んだの?』でも、『給食はなにがおいしかった?』でも、まずはヤスちゃんにいろいろ聞いてみてあげてください」

 

というふうにアドバイスしたのです。そのお母さんは素直な方でね、すぐに実践してくれました。

 

するとどうなったか。なんと一週間しないうちに、ヤスちゃんとコミュニケーションが取れるようになったのです! やりとりもスムーズになり、目もしっかり合うようになった。アドバイスしたこちらがびっくりするくらい、効果てきめんでした。

 

同じように、小学校に入る前の秋の身体検査で「会話ができない」とひっかかったオサムちゃん。おじいちゃんとおばあちゃんが子守りをしていて、DVDばかり見せていたのね。私も何度か進言したのですが、なかなか聞いてもらえませんでした。

 

ただ、教育委員会から呼び出され、改善を促されたことで、ようやくおじいちゃんたちも真剣に捉えてくださって。そこからがんばってくれましたよ。半年近く、一切DVDを見せずに入学を迎えました。

 

それで、私たち保育士が学校へおじゃまする授業参観のとき、オサムちゃんの担任の先生に「どうです? オサムちゃん、友だちとうまくやれていますか?」と聞くと、「えっ、なにかありましたっけ?」。それくらい、なんの問題もなくなっていたのです。

映像ならではの情報量に慣れると、想像力も育たない

ヤスちゃんとオサムちゃん。どちらも決して、愛情がない家庭ではありませんでした。問題があるとわかると、一生懸命取り組んでくださいましたしね。

 

おそらく、なにを話せばいいのかわからないし、忙しいしで、長時間集中してくれるゲームやDVDを与えていたのでしょう。

 

でも、画面の中で動く人ばかり見ていると、生身の人間とやりとりする力が育ちません。表情や、言外の空気感を読み取る力が伸びないのです。

 

また、映像ならではの情報量の多さに慣れてしまうと、想像力も育ちません

 

そうなると情報量の少ない絵本もつまらなくなり、刺激の多い映像を求める…と悪循環に入ってしまいます。

 

もちろん、テレビやゲームをまったく与えるなとは言いません。

 

ごはんの準備をしたいときやお化粧をしたいとき、どうしても静かにしてほしいとき、「ちょっと見ていてね!」と大活躍でしょうから。

 

それにこれからの時代、まったく画面に触れないのも現実的ではありませんよね(お母さんたち、携帯電話でいろいろなことをすぐに調べていてビックリしちゃいます)。

 

ですから「画面は1日2時間まで」。

 

動画の情報は多すぎる?
動画の情報は多すぎる?

 

あら、2時間って意外と寛容ですねと言われますが、朝晩1時間ずつなら許容範囲かと思います。

 

ただし、できるだけ「見せっぱなし」にはさせないで。声をかけたり、ときどきはとなりに座ったりお膝に乗せたりして、「一緒に」楽しむといいですね。

 

まったくの余談ですが、じつは、私もゲームは大好きなんです。毎晩寝る前に、欠かさずブロックゲームをしているの。血圧が上がるんじゃないかしら、ってくらいついつい熱中してしまいますし、目標点数に達するまでは寝られません。

 

でも2時間もゲームをすることなんてないですし、それにね、私はもう90歳を超えているからいいのって自分で言い訳しているんですよ。

ほかの子と比較せず「その子」の成長を見守って

 相談  ウチの子、成長がゆっくりなんです/大人しすぎるんです/乱暴なんです。

 大川先生  成長も個性も十人十色。しかも、どんどん変化していきます。

 

「あら、うちの子、周りの子よりずいぶん小さいわ」

「あの子はあんなにおしゃべりが上手なのに、うちの子はまだまだ単語だけ」

「またお友だちのおもちゃを取ってしまった、こんな調子で嫌われないかしら」

 

…子育てしていると心配が尽きないものです。「大丈夫かしら」って何回ため息をつくかわかりません。

 

でもね、子どもの個性は十人十色。みんな同じような振る舞いをしないのも、同じスピードで成長しないのも、あたりまえです。

 

ひとりふたりの「わが子」だけを見ていると気づきにくいものだけど、園のような場で、しかも2800人もの子を見てきた私にはよくわかります。

 

そして、子育てのさなかにいると実感はむずかしいかもしれないけれど、子どもはずーっと同じところに留まるわけじゃないの。できることが増えるだけではなくて、たとえば性格、キャラクターだって変わっていく。

 

だから、いまの子どもの姿だけを見てあまり心配するのも、なんだかもったいないかなと思います。

 

たとえば子どもたちの「社会」では、3歳くらいになるとたいてい「ボス」が生まれます。身体が大きかったり、弁が立ったり、力が強かったり――つまり「成長の早い子」が、その座におさまりやすい。

 

ボス君に対する対応は、子どもによってさまざまです。張り合おうとする子、大人しく言うことを聞く子、ボス君が近づくとスーッと逃げていく子…。

 

大人と同じで、いろいろな人が集って社会をつくっているのね、としみじみ思います。

 

けれども、5歳くらいになるとほかの子も育ってきます。成長の差が縮まってきて、得意なこともそれぞれ現れてきて、ボス君に追いついてくるの。身体は小さいけれど、もっと弁が立つ子が現れたり、絵がうまくて器用な子が目立ってきたり、大人しかった子が「やめてよ」って主張するようになったり。

 

すると、ボス君の立場が相対的に弱くなる。いままで子分みたい扱っていた子にへこまされることも増えるわけです。そして、卒園するころにはわかりやすい「ボス」がいなくなる。…毎年、見ていておもしろいですよ。

 

成長して、変わっていく。それが子どもです。

乱暴者だったのが、きちんとした子になる。

控えめだったのが、リーダータイプになる。

 

幼少期は食べなくて、小さくて、おっとりで、お母さんがハラハラしていたけれど、結局180センチ以上の勇猛なラガーマンになった、なんて子もいます。

 

「この子はこんな性質かな」と思っても、ほんとうにわからないものなの。

 

園にいる間でもどんどん変わるし、卒園した子が中学生、高校生、大人になって遊びに来てくれてビックリ! ということもよくあります。

 

だからね、いまこの瞬間だけを見て「この子は大丈夫かしら…」と深刻になっても、将来はわからないわけです。

 

「その子なり」の成長がありますから、月並みですが、長い目で見守りましょう。

 

 

大川 繁子

私立保育園 小俣幼児生活団

主任保育士

 

92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て

92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て

大川 繁子

実務教育出版

ほったらかしでも、しっかり自立!子どもはもっと自由に生きられる。 築170年の古民家の園舎とする小俣幼児生活団。「奇跡の保育園」が実践する、モンテッソーリ教育とアドラー心理学の“いいとこどり”教育。主任保育士を…

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