食事を嫌がっても強制せず、子どもに委ねて
――「食べない!」もネコまんまも放っておいて。毎日のことだから、気楽にね
「イヤ! 食べない!」
これ、お母さんが聞きたくない言葉トップ5に入るのではないでしょうか。
とにかく食べない。好き嫌いが多い。食べさせようとすると「イヤ」と手ではらう…。これじゃあ、毎回の食事が憂鬱(ゆううつ)になりますね。
でも、「食べなさい!」と叱ったり口に突っ込んだりするのは、ちょっと待って。そんな躍起になる必要はありません。
「こちらに置いておくからね、食べたくなったらめしあがれ」
私なら、ただそう伝えます。
そしてあんまり構わない。あとは本人に任せて待ちます。
食べることは、強制すればするほど、どんどん嫌いになってしまいますから。
食事は毎日のこと、あまり神経質にならないで
どうしてもちゃんと食べてほしいのであれば…そうですね、できる工夫としては、食事の準備を手伝ってもらうくらいでしょうか。お茶碗を並べてもらったり、フォークを用意してもらったり。それに対して親は、「ありがとう」と感謝を伝えるの。
「ママがよろこんでくれた(貢献できた)」ってうれしくなって、うまいこと気分が乗れば、自分もたずさわった食事に参加してみようかと思ってくれますよ(もちろんそうでないときも多いですが)。
また、食事関連だと「お味噌汁の中にごはんを入れてしまう」「食べ物で遊ぶ」といった相談も多いのですが、それくらいなら私は放っておくかな。きっとなにか実験しているのね、食べることに興味を持ったのかしらってプラスに捉えます。サラサラして食べやすいぞ、と気づいたのかもしれませんしね。
とはいえマナーも気になるでしょうから、一応、「ママは入れないほうが好きだよ」と伝えてみてはいかがでしょうか。
子どもを「正しい子ども」に矯正しよう、思いどおりに動かそうと干渉すると、生活がしんどくなります。とりわけ食事は毎日のことですから、ストレスになりやすいですよね。
とくにまじめなお母さん、あまり神経質にならないで。よし、自分で考えて決めなさいと、どーんと構えてください。
オムツ外しのタイミングは子どもそれぞれ、焦らないで
――オムツは、「しつけ」じゃありません。外れるときに外れます
オムツ外し。2歳半ごろからはじまる「お母さんの悩みの種」です(最近はトイレトレーニングと呼ぶことが多いようですね)。園の外でも、新米お母さん向けにオムツ外し講座を開いてほしいとしばしば依頼をいただきます。
とくにお子さんが一人目だと、どうやってオムツを外していくのか想像もつかないでしょう。子どもがオギャーと生まれてから、ずーっと繰り返し、昼夜問わず何千回と交換したオムツ。その営みを、親子で卒業するわけです。
いよいよ成長と自立への道を感じ、気合いが入ってしまうかもしれません。
さて、まずお伝えしたいのは、「オムツ外しは『しつけ』ではない」ということです。
じゃあなにかって、子どもが自立するための「お手伝い」なのね。だから、失敗がつづいてもヘンに深刻になる必要はないの。
ほら、20歳になってオムツしている人はもちろん、中学校、小学校にオムツで通う子はいないでしょう。卒園生にも、そんな子はひとりもいません。いつかはかならず外れます。いまがまだ時期ではないだけです。もちろん、事情のある子は別としてね。
だいたい、生まれてから2年以上も、好きなときに「オムツにジャー」だったわけです。失敗してあたりまえでしょう。おしっこをためておく膀胱(ぼうこう)だって、まだまだ未熟ですから。
オムツ外しの悩ましさには、いつ成功(完了)するかわからない、ということもあるかもしれません。
2歳半になったら、「せーの」でみんなの膀胱が準備万端になる――そんな単純なものだったらいいのですが、そうは問屋が卸さない。
あっちの子は2歳でトイレトレーニングをはじめてすぐに成功したけれど、こっちの子は3歳になってもまだまだ失敗するわけです。わが子が「あっちの子」になるか、「こっちの子」になるかは、やってみなければわかりません。
私の子どもたちもバラバラでしたよ。長男はアッという間にオムツが外れましたが、いまの園長である次男はなかなかうまく外れず苦労しましたし、三男なんておねしょばかりして、しまいには「もうさ、パジャマが濡れるのがもったいないから、ぼくは裸で寝るよ」なんて言い出す始末。時間が経てば笑い話ですが、当時は頭を抱えました。ですから、お母さんたちの苦労や悩みもよーくわかるのです。
親が焦って怒るほど、オムツ外しは長引いてしまう
そんな私が、たくさんの子どもを見てきて確実に言えることが一つあります。それは、親がトイレの失敗に対して過剰に反応すると、オムツはなかなか外れないってこと。親が焦るほど、怒るほど、オムツ外しは長引きます。
子どもは繊細です。怒られたイヤな記憶がトイレにくっついて、萎縮(いしゅく)してしまうのでしょう。
園にも、なかなかオムツが外れなかった子がいました。気づけば4歳になろうとしていて、お母さんは相当焦っていてね。毎日「大川先生、どうしましょう」と相談に来られていました。
私がのんびりして見えたのか、「もう、よその園に転園します!」って言われたこともありました(なんとか思いとどまってくれましたが)。
よその保育園では、時間で区切ってみんなで一斉にトイレに行くのがオムツ外しの主流のやり方だそうです。自分で「おしっこしたい」と思う前にトイレに行って、とりあえず溜まっている分を出しちゃう。
そうすれば、たしかに失敗の確率は下がります。そのお母さんは、そういうふうに無理やりにでもオムツを外してくださいと言っていたわけです。
でも、身体がまだ未熟でも、子どもの前に人間でしょう。「おしっこしたいな」「ウンチしたいな」と感じるタイミングは、ひとりずつ違うはずです。
私、まずはやっぱり「なんだかムズムズするぞ?」「トイレに行きたいかも?」を自分の身体で感じてほしくって。だからうちは、集団でのトイレトレーニングはしないのです。
もちろん失敗しても、怒りません。
「あら、出ちゃったか。今度はもうちょっと早く行こうね」
そう言って、着替えて、おしまい。子どもたちも怒られないから、あっけらかんとしています。
でも、失敗すると恥ずかしいとか、濡れると気持ち悪いとか、そういう気持ちが徐々に芽生えていくのね。そうして、「おしっこしたい!」の感覚にだんだんと敏感になっていくのです。おもらししたときの始末の仕方(「今度はもう少し早くトイレに行こう」と言って着替える)を教えておくのも、ここでのポイントです。
そうそう、そのオムツが外れなかった子はどうなったか?
4歳になってお母さんが仕事を変えたか時短扱いが終わったかで、勤務時間が長くなったんです。そうしたら忙しくなって、子どもに怒ることが減って、するっとオムツが外れました。
子どもって、なんとストレスに正直な生き物なのでしょう!
大川 繁子
私立保育園 小俣幼児生活団
主任保育士