築170年の古民家の園舎で、モンテッソーリ教育とアドラー心理学を取り入れた独自保育を行う小俣幼児生活団。周囲から「奇跡の保育園」といわれるこの場所で、子どもたちは「自由と責任」の保育テーマのもと、4歳、5歳とは思えないほどに自立していきます。本連載では、保育歴60年のベテラン保育士・大川繁子氏の著書『92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)より一部を抜粋し、大人も子どもも幸せにする子育てのコツを紹介します。

いい行動をしたときの「すごいね」は評価の言葉

お着替えが上手にできた。率先してお片づけしてくれた。複雑なプラレールを組み上げた。

 

子どもがそんな〝いい行動〞をしたとき、「すごいね!」「いい子だね!」と褒めていませんか。「褒める育児」という言葉もあるように、親が子どもに褒め言葉を使うのはあたりまえのことだと思われています。

 

でも、こうした声かけって、じつは〝評価〞の言葉。つまり、上の人間が下の人間を判定している言葉なのです。

 

私は90歳を超えていますが、3歳の子どもとも対等だと心から思っています。アドラーの言うとおり人間と人間に、上下関係はないの。

 

ですから子どもに対しても評価の言葉は使わず、自分の気持ちを軸に接します。たとえばお友だちにおもちゃを譲ってあげていたら、「友だちに優しくできたね。先生、とってもうれしいよ」って。

 

これはマイナスの声かけも同じで、食事を床に落とされたら、「あーあ、給食のおばちゃんが一生懸命つくったごはんを落としちゃった。先生、悲しいなあ」と自分の気持ちを伝えます。「ワガママはやめなさい! ダメな子!」なんて〝評価〞しないのです。

 

お子さんにやってみると実感すると思うのですが…これ、「褒めない」ほうがずっとむずかしいです。「すごいね!」「よくできたね!」といった褒め言葉は、気を抜くとすぐ口から出ちゃうから。

 

それに、褒められた子どもはうれしそうだし、また同じように行動してくれるようにもなるわけです。ですから、「褒めることのなにが悪いの?」って以前の私も思っていました。

 

でも、子どもを褒めることには大きな落とし穴があると知って、がんばって意識を変えましたよ。

 

その落とし穴とは、褒められることが、行動の目的になってしまうこと

 

いつも部屋の掃除に率先して取り組んでくれる子を「いい子ね」と褒めていたら、たまたま褒めなかったときに自分から「先生、あたし、いい子でしょ?」と、〝褒め〞を求めるようになります。

 

そういう子は、廊下にゴミが落ちているとき、周りに見ている人(褒めてくれる人)がいるかどうかで、拾うか放っておくか決めるようになります。親からの評価に一喜一憂し、テストでカンニングするようになるかもしれない。

 

自分がやりたいことより、周りから褒められることを優先して、進路や仕事を選んでしまう可能性もある――。

 

つまり、他人の評価ばかりを気にして行動するようになってしまうのです。ある意味で「不自由」な人生を送ることになるわけですね。

 

掃除の例で言えば、私だったら「きれいにしてくれて、先生とってもうれしいな」と伝えます。さらにみんなが集まる「さよなら集会」で、「みーちゃんがお掃除してくれたから、みんなのお部屋がこんなにきれいになりました」と、みーちゃんの貢献をみんなの前で発表します。

 

「すばらしい」とか「いい子」ではなく、「貢献してもらって助かりました」と言うの。そうすると子どもたちも自然に、「みーちゃん、ありがとう」と感謝します。

 

アドラー心理学では、「自分はみんなが参加する社会の一員である」という意識を持ち、その中で自分はなにができるか考えることを目指します。

 

「だれかによろこんでもらったり、人のためになったりすることって、うれしいな」

 

――褒めずに感謝の気持ちを伝えることで、そんな貢献のよろこびを感じてほしいと思うのです。

子どもの行動にはすべて「目的」がある

下の子が生まれると、上の子が不安定になってしまう。これはよくあることです。

 

じゃあなんで不安になるかって、「ママの愛情が取られた!」と思うからですよね。そりゃあ、生まれたての赤ちゃんは小さいし、か弱い。お母さんがつきっきりになってしまうのは仕方ありません。

 

園でも、親の愛情をひとり占めしていた子が「上の子」になって不安定になり、お母さんから相談をいただくことがよくあります。多いのが「いままでできていたことができなくなったんですが…」。上手にごはんを食べられていたのに、立ち上がって歩き回ったり、こぼしたり、残すようになったりね。

 

これはもう、理由は明白。「問題行動」を起こすと、いつも赤ちゃんばっかり見ているお母さんが自分に注目してくれるからです。

 

「ちょっと、ヒロちゃん、ちゃんと食べなさい!」

「ほら、こぼさないように気をつけて!」

 

するとヒロちゃんは、「あ、ようやくママが自分のことを見てくれた!」とうれしくなる。で、何回か試してみて、学習するの。

 

「ごはんのときに歩き回るとママが気にしてくれるんだ」

 

そうして、「問題行動」を繰り返すようになります。大変なときにやたらと悪いことばかりされて、お母さんはイライラ…。

 

 

でも、それで叱っても解決にはなりませんよね。

 

子どもの気まぐれに見える行動にも、ハチャメチャに見える行動にも、ワガママに見える行動にも、全部にちゃんと「目的」がある、とアドラーは言っています。

 

とくに問題行動と言われる行動には、かならず目的がある

 

ですから、叱る前にその目的──何のためにその行動を取っているのかを探っていくのです。最近どんな変化があったか、叱られたときにどんな顔をしているか、この行動でどんな結果がもたらされているか、考える。

 

するとこの場合、「私に構ってほしいんだな、甘えたいんだな」とわかるでしょう。

 

目的がわかったら、それをほかの方法で満たしてあげます。具体的には、ふだんの行動や〝いい行動〞に目を向けるの。「悪いことをしなくても見てもらえるんだ」と納得したら、注目を集めるための好ましくない行動はぐんと減ります。

 

「でもね先生、いまほんとうに、悪いことばかりするんですよ…」

 

疲れ果てた顔でそう訴えるお母さんもいらっしゃいますが、あたりまえのようにできることを見てあげてみてください。

 

ごはんを食べることでも、お着替えすることでも、あいさつをすることでも、おもちゃを片づけることでも、妹をなでなですることでも――。

 

ね、なんにもできなかった小さな子が、ずいぶんいろいろできるようになっているでしょう。それに、毎朝元気に起きてくる、それだけでありがたいこと。「悪いことばかり」なんて、ないはずです。

 

そしてその「うれしい」の気持ちを、言葉にするの。ちゃんと見ているよって

 

「ヒロちゃん、ママがつくったオムレツ食べてくれたね、うれしいよ」

「あ、朝ごきげんで目が覚めたね、ヒロちゃんが笑ってるとママうれしいな」

 

そしてちょっと手が空いたらひざに抱いて、「大好きだよ」と伝えてね。注目を集めようなんて「目的」、するすると消えていきますよ。

 

ある子が、こんなステキな詩を書いていました。

 

「やっちゃん(弟です)がねてるとき、

ママが『やっちゃんがねてるからほんをよんであげる』って、だっこしてくれた。

ぼく、『ちびくろ・さんぼ』がだいすきになっちゃった」

 

 

大川 繁子

私立保育園 小俣幼児生活団

主任保育士

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