事業や業務に使用されていない償却資産は否認される!?
減価償却費を計上するには多くの条件・要件があり、これらを使えれば大きなメリットが得られることは、これまでの連載でご説明してきたとおりです。今回は、減価償却を間違いなく活用するための注意点を見ていきます。高額資産を取得したのに税金も安くならなかった・・・となってしまっては、その後の資金繰りなどまで難しくなってしまうでしょう。
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減価償却資産については、事業や業務の用に供されていなければ、税務上減価償却費を計上することはできません。高級中古車、クルーザー、ヨットなどを事業と関係なく自分の趣味や娯楽などのために利用している場合、減価償却費が認められないだけでなく、場合によっては、次のような問題が生じることがあります。
例えば、クルーザーなどの取得価額の全額が会社の代表者に対する給与と認定されて、会社に対して源泉所得税の追徴が行われたり、クルーザーの取得時に支払った消費税を消費税の計算上、控除が認められないということで、消費税の追徴という問題に発展することがあります。
したがって、減価償却資産については、事業や業務の用に供されているという証拠をしっかり残しておくことがトラブル防止の鉄則です。例えば、減価償却資産の取得日や事業供用日(いわゆる本格的な使用を開始した日)がわかる証拠資料を残すことや償却資産の利用規程や使用実績簿をきちんと作成して残すことなどが重要です。
ただ、せっかく証拠資料を作成しても、嘘の日付などを記載してしまうのが、税務上問題になる典型的なパターンです。例えば、3月決算の会社で機械の事業供用日を証拠書類上3月31日と記載していたが、実際の機械の納入日は4月だったというような場合です。
会社ぐるみで日付改ざんという仮装行為をしていると、重加算税というペナルティの対象になる可能性もありますので、注意が必要です。また、太陽光発電設備の即時償却も、事業の用に供した課税期間にできるものですので、こちらも注意する必要があります。
新品未使用のまま保管された償却資産には要注意
実際に事業に使っているかどうかについていうと、もう一つ注意しなければならないパターンがあります。
ある会社では、予備の機械を取得していたものの、実際には使われずに1年間保管していました。期末を迎えていざ償却費を計上しようとしたところ、それはできないと指摘を受けてしまいました。なぜでしょうか。
実はこれはよくあるケースです。新品の減価償却資産を購入して未使用のまま保管しているにもかかわらず、個人や法人の所得計算上減価償却費を計上してしまうのです。減価償却資産が実際には事業や業務の用に供されていないために認められないわけですが、使っているかどうか確認をしないまま、減価償却を行おうとする人が多いのかもしれません。
いつでも稼働できる状態の償却資産はどうなる?
では、次のような場合はどうでしょうか。
ある会社で特需により一時的に注文が増え、工場の生産ライン(機械装置)を増設しましたが、その後注文が減ったので、いつでも再稼働できる状態で生産ラインを休止しました。休止した機械装置の減価償却費は事業の用に供していないので、損金にできないと諦めていたのですが、この場合は損金にできるということでした。これはなぜでしょうか。
国税庁の通達において、稼働を休止している資産であっても、その休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼働し得る状態にあるものについては、減価償却資産に該当するとされているからです。
つまり、未使用の資産は事業の用に供されていないのに対して、稼働休止資産はいったん事業の用に供されたけれども稼働を休止している資産ですので、取り扱いが異なることに注意が必要です。なお、他の場所において使用するために移設中の減価償却資産については、その移設期間が一般的に必要な期間であれば、減価償却を継続することができます。
減価償却資産の使用を完全に止めてしまって、二度と使わない場合はどうなるのでしょうか。
この場合、その償却資産を破砕、廃棄等していない場合であっても、その資産の帳簿価額から処分見込価額を控除した金額を除却損として、経費や損金の額に算入することができます。これを有姿除却といい、国税庁の通達では二つの要件があります。
①その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
②特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等から見て明らかなもの
つまり、二度と使わない資産については、その資産を使用して収入や収益を上げることはできませんので、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額を経費・損金化してもよいという取り扱いです。償却資産を廃棄等する必要がなく、経費・損金化ができますので、要件を満たす資産があれば積極的に利用してください。
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ただし、「通常の方法により事業の用に供する可能性がない」、つまり通常の方法では二度と使わないことが要件になっているので、そのことをきちんと主張できるようにしておかなければなりません。
例えば、パソコンは法定耐用年数が4年ですが、場合によっては、それよりも早く使用を完全に止めることも考えられます。今後、通常の方法で使用する可能性がまったくないとはいえませんので、一般的に有姿除却することは難しいと考えられます。この場合には、パソコンを売却するか、廃棄処分したうえで除却損を経費・損金化することになると思います。
では、有姿除却による除却損を経費・損金化しているにもかかわらず、その資産を使用し続けている場合、どうなるのでしょうか。当然ながら、その除却損は税務上認められず、しかも過少申告加算税等のペナルティが科せられる場合もありますので、注意しつつ有姿除却を活用していく必要があります。