株価が上がると積立投資家は2つの悩みをもつ
株価上昇局面のようです。この記事が掲載されたときにはガクンと下がっているのではないかと心配しながら原稿を書いています。景気や政治などのさまざまな要因は「上がる未来」というよりは「下がる未来」を示唆しているにもかかわらず、世界中の株価は上がり続けているとすれば不思議なものです(もちろん政策は株価が下がらないようにいろんな手を打つわけですが)。
NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度を活用し積立投資を行っている投資家、特にこの4~5年くらいで投資を始めた人たちにとっては、本格的な下落相場は未経験です。これまでは、数カ月もガマンすれば、その前の相場水準に回復するようなマーケットが続いてきました。
もし、「○○ショック」がやってきたとき、積立投資を行っている個人投資家はどう考えておくべきでしょうか。
多くの場合、投資信託を用いた分散投資、また定期的な積立投資を行っており、これは個別株を物色する集中投資とは異なる投資スタンスが考えられます。
第一の悩み:含み益を抱えた積立資金はどうするか
まず、「上がっているのだから今のうちに売るべきか」という問題です。
基本的に「株価の上下」ではなく「自分が売る必要があるか」の判断をするのが長期積立投資家のスタンスとしては効果的です。
もしあなたが「上がったから売る」と判断した場合、資金ニーズ(例えば老後資金)はまだ先であれば「下がったときにもう一度買い直す」という判断をしなければならなくなります。そうしなければ、それ以降はどんな利益も増えなくなります。
あるいは、売ったあとにさらに値上がりすると、あなたは自分の判断ミスを悔やむことになりますし、諦めてもう一度買い付けし直す判断も、決断しにくくなります。本当は値上がりが続くなら、もう一度エントリーするべきですが、一度売ったものがより値上がりしたときの再エントリーは決断が難しいのです。
あなたがもう50歳代後半や60歳代であって、自分の資金ニーズ(ここでは老後資金)をにらんで売り時と判断するなら売ればいいでしょう。しかし、まだ30歳代~50歳代前半である場合は、自分のゴールの頃に高値を判断すればいいので、短期的に値下がりがあろうとそのまま持ち続けてもいいのです。
また、若い人が売る決断をするとしても「一部売る」にとどめておいた方がいいでしょう。
第二の悩み:来月以降も積立投資を続けるべきか
値上がり局面がもしまだ続いたとしたら、来月以降の積立投資を継続するべきか、という悩みがあります。
まず制度によって投資中断の選択肢は異なります。つみたてNISAであれば投資信託やETF(上場投資信託)しか購入できないため「投資をしない積立」が選択できません。つまり停止をするしかありません。またiDeCoの場合は運用商品群に投資信託以外の選択肢、銀行預金などがあるので、掛金拠出は続けるが投資に回さない、という選択ができます。
しかし、あなたが長期積立投資を志向しているのであれば、あまり何も考えず「そのまま続ける」でいいと思います。変更した投資方針はいつか「もう一度変更」しなければいけません。少額から長期積立を行う人にとっては「もう一度変更しない」まま、ずるずる時間をロスする可能性が高いと思います。
また投資信託ベースであれば「定額投資」を行うことになっていますから、株価上昇時期に「積立額も上昇する」という心配はありません。これは個別株やETFなどの「口数」で買う投資より便利な要素です。
かつて日経平均株価が購入一単位となっているETFを、毎月1口手作業で購入することをやっていたのですが、「毎月8,000~9,000円」は続けられても「毎月1万5,000~1万7,000円」になってきたとき続けるのが心理的に苦痛になって中断してしまったことがあります。
同時に積み立てていたiDeCo(当時はiDeCoという名前はありませんでしたが)は、自動引き落としされるがゆえにリーマン・ショック時もアベノミクス時も、機械的に掛金を積み増すことができました。私の個人的感覚では、「もうそろそろ天井だろう」と思うことが何度かありましたが、結果はそれより株価上昇が強く続きました。予断を加えないほうが正解でした。
積立投資をする人は、株価が上がっているときをあまり気にせず「元本の追加拠出」を粛々(しゅくしゅく)と行っていけばいいでしょう。
積立投資家はのんびり継続が一番
結論としては、積立投資家は短期的な市場の騰落は気にせず、ただ積立投資を続けることがベターだと思います。
方針を変更したり、売買を繰り返したりすることより、ただ積立投資を続けていくことのほうがとても簡単です。実行可能というか、そもそも何もせず続けるだけでいいのです。株価なんてノーチェックでもいい、と言いたいくらいです(さすがにそこまでいうのは言い過ぎなので、時々は気にしてください)。
むしろ、相場のことを考えすぎて手を出さない選択や、売ってしまいマーケットから降りてしまう選択のほうが「そのあともっと株価が上がっても」「そのあと株価が下がっても」あまり得なことにはなりません。
長い目で見て、世の中は経済成長すると信じられるのであれば、つまりあなたの資金ニーズが顕在化して売り抜けたいときのほうが今よりも株価は上がっていてもおかしくないと思えるのであれば、定期的な積立投資は続けていってください。
積立投資家は、最後に笑ってトレードが終わればよいのですから。
山崎 俊輔
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
※本記事は、楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で2019年12月3日に公開されたものです。